秋の風物詩 第29期大山名人杯倉敷藤花戦三番勝負展望

秋の風物詩 第29期大山名人杯倉敷藤花戦三番勝負展望

ライター: 武蔵  更新: 2021年10月30日

【倉敷藤花戦開幕】

 秋の風物詩ともいえる女流棋戦、第29期大山名人杯倉敷藤花戦三番勝負がいよいよ開幕する。倉敷藤花戦は大山康晴十五世名人の功績を顕彰して、四半世紀前の1993年に創設された。第2局と第3局が公開対局で行われる珍しい棋戦であるが、昨年に引き続き今年も公開対局は行われない。タイトル保持者の里見香奈倉敷藤花に挑戦するのは加藤桃子女流三段。ふたりは第3期大成建設杯清麗戦五番勝負でも顔を合わせており、短い期間で2つのタイトル戦を争うこととなった。

【倉敷藤花戦と里見香奈】

 里見は倉敷藤花戦と縁が深い。2008年の第16期倉敷藤花戦で、16歳8カ月という若さで初タイトルを獲得した。それから防衛を重ね、2012年には5連覇を達成。倉敷藤花を通算5期獲得した女流棋士が得られる「クイーン倉敷藤花」の資格を獲得した。前期で防衛を果たし、倉敷藤花在位数は清水市代女流七段の記録を抜いて、単独トップとなった。今期は棋戦7連覇を目指す戦いで、防衛に成功すれば通算12期目の獲得となる。今後、どこまで記録を伸ばせるのかにも注目が集まる。今年度の女流棋戦成績は21勝4敗で勝率は8割を超え、女流代表として出場する男性棋戦では5勝4敗と勝ち越すなど、高いレベルで好調を維持している。6月には女流王位を防衛し、女流歴代単独1位となる通算44期目のタイトルを獲得した。現在は第11期リコー杯女流王座戦と、第43期霧島酒造杯女流王将戦で西山朋佳女流四冠に挑戦中。倉敷藤花戦第1局の数日前にも、リコー杯女流王座戦の第1局を戦うという、4つのタイトル戦を同時に戦う過密な対局日程となっている。複数のタイトル戦を並行してこなすのは、トップの証。里見にとって対局が多忙なのは日常茶飯事ではあるものの、タイトル戦に加えて男性棋戦の対局も行われる。実力は申し分ないだけに、体調管理が勝敗を分ける重要な要素といえるだろう。

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写真:武蔵

【挑戦者、加藤桃子】

 加藤はこれまで17回のタイトル登場があり、女王4期、女流王座4期の計8期を獲得する実績十分の実力者。奨励会を退会し、女流棋士となった前期から倉敷藤花戦に参戦した。今年度の女流棋戦成績は22勝11敗で、対局数ランキングや勝数ランキングで上位に食い込む活躍を見せている。

 今期の倉敷藤花戦で、初戦から山田久美女流四段、香川愛生女流四段、里見咲紀女流初段、中井広恵女流六段、伊藤沙恵女流三段に勝ち、挑戦者決定戦に進んだ。もう片方の山を勝ち進んできたのは野原未蘭女流初段。野原女流初段はアマ強豪の鈴木英春氏が用いる作戦である、「英春流」の使い手で力戦を得意としており、今後の活躍を期待される若手のひとりだ。その将棋は互いの持ち味が存分に発揮され、相居飛車の力戦形となった。

【第1図は△8一飛まで】

 第1図から▲3五銀△同銀▲2三飛成と、銀を捨てて飛車を成り込む野原女流初段の猛攻が始まった。しかし、加藤はじっと辛抱して△3一銀▲3四竜△4四銀▲2五桂△3三銀と丁寧に面倒を見て、先手からの果敢な攻めをしのいでから反撃に転じた。

 先手の攻めをかわして迎えた最終盤。

【第2図は△5七角まで】

 第2図の角をねじ込む強烈な一打が決め手になり、先手玉を受けなしに追い込んで加藤が勝ちを決めた。終局後、加藤は「最後まで分からなかったが、攻め合いのなかで運もあった」と振り返り、貫禄を示した。里見との対局に向けて「初めての倉敷藤花戦三番勝負を楽しみたい。清麗戦五番勝負に続いて挑戦が決まり、長い勝負になると思うが、短期間ながら力をつけて思いきりぶつかりたい」と決意を述べている。

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写真:常盤秀樹

【対戦成績や戦型】

 対戦成績は里見の24勝、加藤の8勝と里見が圧倒している。途中は里見が対加藤戦で14連勝を記録したが、最近では加藤が連勝を収め、巻き返しを見せる場面もあった。これまでの将棋は、先後にかかわらずほとんどが里見の中飛車、加藤の居飛車という対抗形。中飛車は超速▲3七銀戦法の台頭で苦境に立たされているが、それでも中飛車を多用する里見は、戦型に自信を持っているのだろう。対して、加藤は有力とされる超速▲3七銀戦法だけでなく、穴熊や急戦など、多彩な作戦で里見の中飛車に挑んでいる。今期三番勝負も序盤から工夫を凝らした作戦が見られるだろう。

【勝負の行方は】

 現在の女流棋界八大タイトルは、里見と西山女流四冠のふたりで分け合っている。里見が勝って防衛に迫るか、加藤が久々のタイトル獲得に向けて幸先のいいスタートを切り、番勝負を制して二強を崩すのか。三番勝負は11月1日(月)に関西将棋会館で第1局を戦い、同月20日(土)に岡山県倉敷市「倉敷市芸文館」で第2局を行い、1勝1敗となった場合は翌21日(日)に同館で第3局が指される。

武蔵

ライター武蔵

2016年10月から、日本将棋連盟の中継スタッフとして働く。趣味は音楽鑑賞、野球観戦。サザンオールスターズと広島東洋カープの話になると、ただでさえ止まらないトークが、より勢いを増す。

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