上田初美女流三段自戦記。第10期マイナビ女子オープン五番勝負を振り返って【前編】

上田初美女流三段自戦記。第10期マイナビ女子オープン五番勝負を振り返って【前編】

ライター: 上田初美  更新: 2017年07月04日

PCに向かってみても驚くほど筆が進まない。かつて敗戦記を書くことはあっても3連敗のシリーズを振り返ったことはない。こういう結果が待っているなら依頼された時に断っておけばと思ったが、そんなことを後悔しても仕方がない。なるべく前向きに第10期マイナビ女子オープン五番勝負を振り返ることにしよう。

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第4期マイナビ女子オープン五番勝負第1局は、神奈川県秦野市「陣屋」で行われた。写真はその時の感想戦での上田女流二段(当時)の模様。将棋は、甲斐智美女王に対して終盤の大逆転で上田女流二段が勝利した。撮影:常盤秀樹

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第10期マイナビ女子オープン五番勝負第1局対局開始の模様。第4期以来、毎年「陣屋」では番勝負が行われている。撮影:吟

開幕戦は将棋界では数々の歴史を重ねてきた元湯 陣屋での対局。第10期となった今でこそマイナビ女子オープンの恒例の開催場所となったが、女流棋戦が初めて陣屋で行われると聞いた時には「あの陣屋ですか!?」と口をそろえて驚いたものである。

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初手を指す上田女流三段。撮影:吟

1局目に何を指すか相当悩んだが、比較的経験のあるゴキゲン中飛車を選択した。加藤桃子女王とは何度か対局し、第8期の五番勝負でも戦ったことがあるが、序盤からしっかりと準備し、自信を持って将棋を指している印象がある。自信を持つというのは大切なことだが、成績や段級で実力が可視化されている中で保ち続けるのは想像よりも難しい。陰にある努力がその自信を裏付けているのだろう。

【第1図は▲2五飛まで】

▲2五飛(第1図)が1局目の勝負所。当初の予定では△6八角成▲同金△3四銀と進める予定だったが、▲3二成銀△2五銀▲同桂と進んだ局面に自信を持てなかった。実際には△5七歩の垂らしがあるので少なくとも千日手には持ち込めそうだった。急に終盤に突入すると先手は8八角の使い道が難しい。実戦は△2三金▲3五飛△5三銀と進んだが▲3六飛(第2図)が冷静な受けで先手陣に攻め入る場所が無くなった。以下は遊ばせなければいけなかった8八角にも捌かれ完敗となった。

【第2図は▲3六飛まで】

2局目は明治記念館での対局。こちらも将棋界ではお馴染みの場所で、対局場のみならず就位式も行われている。綺麗に整えられた中庭では、よく結婚式の新郎新婦の写真撮影が行われており、幸せのおすそ分けをしてもらっている気持ちになる。

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第2局の対局会場となった明治記念館の中庭で立会の藤井猛九段と記念撮影。撮影:常盤秀樹

先手番が決まっている2局目では初手▲5六歩を選択した。1局目と同じ中飛車だが、先後によって居飛車側の対応が異なるので全く違う将棋になることが多い。本局の後手は角道を開けるのを保留し、場合によっては急戦を狙う最近流行の駒組みである。▲5六銀(35手目第3図)と上がった局面が一つのポイントで▲6五歩と飛車先が伸びているので一般的には△7三銀は動きづらい。

【第3図は35手目▲5六銀まで】

ここでの仕掛けは難しいと思っていたのだが、△7五歩▲同歩△8六歩で仕掛けが成立している。対局中はまだまだ駒組みが続くと思っていたのでこんな仕掛けがあるのかと驚いた。

△8六歩は▲同歩でも▲同角でも△8四銀と棒銀に出る狙いだ。後手は穴熊なのでここで形勢を悪くすると持ち直すのは困難になる。本局一番の難所だったが、▲7二歩(45手目)は大悪手だった。ここでは悪くても▲6四歩(参考図1)と突くべきで以下△8七飛成は▲6三歩成で大変。▲6四歩に△9四歩は▲8六角△8五銀で千日手か打開するかはこちらの権利になりそうだ。

【参考図1は▲6四歩まで】

以降は受けに徹しなければならなかったので精神的にも局面的にも厳しかった。とはいえ体感より局面は大変だったようで△5七金(60手目)の局面では▲4七金(参考図2)と引けばまだ難しかった。

【参考図2は▲4七金まで】

実戦では▲4九飛打としたため△4八金▲同飛△6八飛(第4図)が気持ちの良い決め手で、少しずつ粘りが利かない形となってしまった。

【第4図は△6八飛まで】

さて、後編では、第3局のポイントについて書いているので、ご覧いただきたい。

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昼休後再開の時の上田女流三段。局面は、中盤の難所をむかえていた。撮影:常盤秀樹

上田初美

ライター上田初美

1988年11月16日生まれ。東京都小平市出身。伊藤果八段門下。第31期女流王将戦でタイトル初挑戦。第4期マイナビ女子オープンで初タイトルを奪取。2015年11月から2016年3月まで産休の為休場していたが、復帰後の第43期岡田美術館杯女流名人戦、第11期マイナビ女子オープンを一児のママとしてタイトル戦に挑戦した。

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