ライター将棋情報局(マイナビ出版)
2度の▲4三歩 羽生善治竜王を打ち破った藤井聡太の絶妙手 「藤井聡太全局集 平成28・29年度版」のご紹介
ライター: 将棋情報局(マイナビ出版) 更新: 2018年05月15日
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本記事では第1部「重要対局詳解編」より、羽生善治竜王を破った第11回朝日杯将棋オープン戦準決勝の解説をダイジェストでご覧いただきます。
第57局 藤井聡太五段対羽生善治竜王戦
羽生竜王を破って決勝進出
第11回朝日杯将棋オープン戦準決勝(朝日)
平成30年2月17日 終了12時30分
東京都千代田区「有楽町朝日ホール」
持ち時間各40分
勝▲五段 藤井 聡太
△竜王 羽生 善治
観戦記部分
▲2六歩 △8四歩 ▲7六歩 △3二金
▲7八金 △8五歩 ▲7七角 △3四歩
▲6八銀 △4四歩 ▲4八銀 △6二銀(第1図)
【第1図は△6二銀まで】
その日は来た
デビュー29連勝を記録した藤井が日本一有名な中学生になったのは2018年6月26日。そして、その連勝は7月2日の佐々木勇気五段戦で止まった。頂点に達していた藤井フィーバーはここでいったん収まったかに見えた。
その後半年ほど、藤井はNHK杯や叡王戦など、各棋戦で優勝やタイトル挑戦のチャンスを逃し続けた。もちろん、新人が簡単に優勝できるほど、この世界は甘くない。だが、「29連勝の藤井なら」という期待は誰もが持っていた。その期待が現実になるときがやってきたのだ。
年末の12月15日。朝日杯将棋オープン戦の対屋敷伸之九段戦で、藤井はA級棋士から初勝利を挙げた。藤井は相手が強いほど燃えるし、その良さも引き出されるところがある。年明けに行われた佐藤天彦名人との準々決勝など、その典型と言える。
四段の棋士が名人と対戦するだけでもすごいのに、その内容が作戦勝ちから圧勝ときた。しかも、名人に勝った中学生が次の準決勝で対戦するのは国民栄誉賞をもらったばかりの羽生善治竜王。これが夢物語でなくてなんだろう。
第11回朝日杯将棋オープン戦の準決勝と決勝は2月17日、東京都千代田区の有楽町朝日ホールで公開対局で行われた。公開対局の観戦は事前申し込み制で、観戦券(584席)と公開収録の観覧券(196席)が、あっという間に売り切れたという。
~角換わりへと進んだ羽生竜王との戦いは中盤戦に突入します。
【第2図は△8一飛まで】
前に出る藤井
第2図からの指し手
▲3五歩 △同 銀 ▲5五銀左 △8八歩
▲同 金 △5五銀 (第3図)
【第3図は△5五銀まで】
次に△9八歩や△8五桂があり、先手の8、9筋は収拾がつかない。▲3五歩は開き直った反撃だ。ここから藤井は秒読みに入った。いつもより時間を使っている印象で、それだけ難しい局面が続いている。
村山「▲3五歩△同銀▲5五銀左は先手も唯一の打開策。お互いに怖い形ですが、藤井五段の前に出て行こうとする姿勢を強く感じます。次の△8八歩に▲同金は強い手。私は▲同玉を予想していました。以下△8五桂▲5四銀△同歩▲7二角(A図)の攻め合いでどうか。善悪は微妙ですが、結果的に▲8八同金は最善だったと思う」
【第A図は▲7二角まで】
絶妙の利かし
第3図からの指し手
▲4三歩 △同金左 ▲5五銀 (第4図)
【第4図は▲5五銀まで】
この瞬間の▲4三歩が絶妙の利かしだ。単に▲5五同銀は△7四角が攻防手になる。それから▲4三歩とたたいても△同金右と取られて後手玉は安泰だ。
村山「▲4三歩に△同金右は▲6三角の先着が大きい。以下△8二飛▲5五銀△9九角▲4四歩△同銀▲同銀△同金▲4一銀(B図)は先手一手勝ち。△4三同金左は非常手段気味ですが最善の応手。形勢はまだ互角ですが、先手の方が指し手が分かりやすくなった意味があります」
▲4三歩に考え、羽生も秒読みに入った。時折両手で髪の毛をかき上げるが、客席は全く見ない。
【第B図は▲4一銀まで】
両者秒読みとなり、終盤戦に。本局のクライマックスシーンをどうぞ。
【第5図は▲5八玉まで】
痛烈なたたき、再び
第5図からの指し手
△4四金 ▲4三歩 (第6図)
【第6図は▲4三歩まで】
前に打った藤井の▲2三歩は速い攻めだ。後手は▲2二歩成が来る前になんとかしなくてはならない。そこで△4四金が羽生の勝負手だ。3二の角を攻めに使おうというのである。
村山「緊迫した終盤戦を迎えました。△4四金に▲2二歩成△7六角(C図)と進めば逆転」
みんなが固唾をのんだ瞬間、藤井の妙手が飛び出した。▲4三歩のたたき。前に打った歩に続き、またもこの歩が飛び出したのだ。
村山「さすがに手が見える。△4三同角は▲1二竜の王手で合駒がなくしびれます」
【第C図は△7六角まで】
決めに出た藤井
第6図からの指し手
△4三同玉▲4四銀 △同 玉 ▲6六角
△5五銀 ▲同 角 △同 玉 ▲5六銀
△5四玉 ▲2二歩成(第7図)
【第7図は▲2二歩成まで】
△4三同角とは取れない。△同金引と上も角が使えなくなる。というわけで△同玉は仕方がない。次の▲4四銀に△同銀も▲2二歩成が厳しい。羽生玉が中段に飛び出し、藤井が王手を掛け続ける。誰が見ても、藤井が攻めているのが分かる。
村山「▲6六角と王手を掛け、△5五銀に▲同角と切ったのが決断の一手。藤井五段が決めに出ました。▲7七角とと金を払うのは△4六銀左(D図)が玉の逃げ道を開ける攻防手でおかしくなります。羽生竜王が何度も仕掛けたワナを藤井五段はことごとくかいくぐっていきます」
【第D図は△4六銀左まで】
ついに羽生竜王を下した藤井五段。終局後の様子がこちらです。
歴史的勝利、そしてクライマックスへ
終局後、両対局者はすぐに大盤解説会場に向かい、そこで感想を述べた。
「終盤の入り口からはずっと苦しいと思っていた」と羽生。
「自分の力を出し切ることができました」と藤井。
そのあと、対局場に戻って感想戦、そして局後のインタビューが行われた。羽生は淡々と一局を振り返った。対する藤井も控えめだが、堂々と自分の意見を述べた。憶する様子は全くない。興奮もそれほどには感じられない。静かに、歴史的勝利の喜びをかみしめている様子だ。
それにしても、カメラが追うのは藤井、藤井、藤井聡太。さすがの羽生も主役の座を奪われた格好で、こんな羽生の姿を見るのも珍しい。
お客さんは対局者以上に興奮しているが、この日の対局はこれで終わりではない。午後からは決勝戦が待っている。
全文は藤井聡太全局集 平成28・29年度版でお読みいただけます。