第75期順位戦C級2組、西尾VS脇戦で使われたツノ銀型の雁木の組み方

今回のコラムでは「雁木」の組み方についてご紹介します。初めからこの連載を読んでいただいている方には、あれ? 第9回10回でもやったじゃん。と思われるでしょう。そう思っていただいた方、長くお付き合いいただき、ありがとうございます。そのときは、昔からある、銀が6七と5七に並ぶ形の雁木でした。今回は、近年流行している形を見ていきます。では、どんな形か見ていきましょう。

角交換に強いツノ銀型の雁木

囲いの特徴:第1図をご覧ください。

【第1図は▲3七桂まで】

平成29年3月2日、第75期順位戦C級2組、▲西尾明六段ー△脇謙二八段戦(肩書は当時)です。昔から雁木を愛用されている方には、先手陣を見てあれ? と思われるでしょう。そうです、7七に角を上がっているので、8筋で角交換をされてしまいそうですよね。雁木では、角交換は避けるべきと言われていましたが、西尾七段はどういう意図で指してたのでしょうか? 進行を見ていきましょう。

第1図から、△8六歩▲同歩△同角▲同角△同飛▲8七歩△8二飛▲4七銀△4三金右▲2九飛△1四歩▲1六歩△3一玉▲7九玉△4二金寄▲8八玉△3二玉▲9六歩△9四歩▲4五歩△同歩▲同桂△2二銀▲3五歩△4四歩▲4六銀(第2図)と進みました。

【第2図は▲4六銀まで】

脇八段は、8筋から飛車先の歩と角を交換してきました。後手がだいぶ得をしたように見えますが、西尾七段は▲4七銀~▲2九飛と、平然と駒組みを続けていきます。
もし、▲4七銀のところで▲5七銀と従来の形に組もうとすると、すかさず△3五歩(第3図)と桂頭を襲われて、不利になってしまいます。

【第3図は△3五歩まで】

第3図で▲3五同歩は△3六歩ですので、桂頭を守りにいきますが、▲2六飛には△1五角が痛打(なお、△3六歩▲同飛△2八角でも後手よし)で、▲2七飛△3六歩で先手が収拾つかなくなります。また、▲4七金は△3六歩▲同金で形が乱れますし、以下①△3九角▲5八飛△3八歩、②△3四銀で次に△3五歩を狙う(▲3五歩は△4七角▲5八角△3六角成▲同角△3五銀▲5四角△3六歩)③△4七角▲5八角△3六角成▲同角△3五金▲5四角△3六歩のいずれでも、先手不利の形勢となってしまいます。

この場合は4七に銀を上がるのがよい形で桂頭をカバーしています。また、2九に飛車を引いたのも、桂が跳ね出したとき3七への打ち込みや、△6九角の筋も消しており、縦横にぞんぶんに利いていますね。

第2図まで進み、△4五歩と桂を取られてしまいそうですが、▲同銀△4四歩▲3四銀で手順に銀が進軍できます。実戦は以下西尾七段が▲3四歩~▲3五銀と銀が大威張りの形を築き上げ、快勝しました。

このように、近年流行っているツノ銀型の雁木は、角交換に強いところも大きな特徴のひとつです。それでは、先手の駒だけを配置して、囲いを組むまでの手順を見ていきましょう。

ツノ銀型の雁木、組むまでの手順

囲いを組むまでの手順:初手から、▲7六歩、▲6六歩、▲6八銀、▲6七銀、▲7八金、▲2六歩、▲2五歩、▲6九玉、▲4八銀(第4図)。

【第4図は▲4八銀まで】

5七に右銀を上がる形では、右四間飛車から機を見て▲6五歩と伸ばし、▲2五桂と仕掛けていくこともあるので、飛車先の歩は保留しますが、ツノ銀型では右四間飛車にすることはほぼないので、飛車先を伸ばしてしまって構いません。相手が急戦を仕掛けてきたときにも、すぐに反撃もできます。第4図から、▲5六歩、▲5八金、▲3六歩、▲4六歩、▲4七銀、▲3七桂(第5図)。

【第5図は▲3七桂まで】

玉を8八まで囲ったり、▲4八金と上がったりと、さまざまな形がありますが、ひとまず第5図を完成形としておきます。次回は組む際の注意点と発展形を見ていきます。

おすすめの記事

棋士・棋戦

2024.01.16

里見、2年連続の挑戦を跳ね返す