7月5日(土)に放映された予選Aリーグ2位決定一回戦、チーム伊藤「宮田一門」(伊藤匠叡王、斎藤明日斗六段、本田奎六段)対チーム菅井「振り飛車+渚」(菅井竜也八段、藤本渚六段、西田拓也六段)戦の模様をお伝えする。負けたら後がない、瀬戸際同士の対戦である。 第1局はチーム菅井の先手で▲西田―△伊藤戦となる。チーム菅井の予想としては斎藤が来ると踏んでいたようで、いきなり読みを外されることに。その影響でもないだろうが、戦型は西田得意の三間飛車に対して伊藤が早い段階でペースを握って快勝。リーダーとしての貫禄を示した。続く第2局は▲本田―△藤本戦で本田勝ち。そして第3局は▲菅井―△斎藤戦で、ここまでは各チームが全員1回ずつ登場することになった。
【第3局 菅井竜也八段-斎藤明日斗六段】
【第1図は△2六歩まで】
第1図は▲菅井―△斎藤戦の最終盤。ここから▲5二歩△同金寄▲5三歩△2七歩成▲8二銀△6二玉▲5二歩成△同玉▲5三歩△6二玉▲2七金△1五桂▲2八玉△3八歩まで、斎藤六段の勝ち。最終手△3八歩に対し、菅井は▲4五桂を着手しようとしたが、指に駒がつかず時間が切れてしまった。ただ、終局図における形勢自体は後手が優勢である。先手は第1図から▲5八銀と受けに回った方がよかったようだ。
ここまで3連敗で「不細工な負け方をしました」と菅井が反省の弁を述べていたが、土俵際に追い込まれたようでもチームの雰囲気は悪くないように見えた。果たして第4局からは西田が本田に、藤本が伊藤に、西田が斎藤に勝ち、逆に3連勝。一気にタイに持ち込んだ。 改めて三番勝負となった第7局は本田が菅井を破り、勝ち抜けへあと1勝とする。続く第8局は伊藤がリーダー自ら決めに行った。対するチーム菅井はエースの藤本に望みを託す。
【第8局 伊藤匠叡王-藤本渚六段】
【第2図は▲7九歩まで】
戦型は後手の藤本が角交換拒否の雁木に進めた。形勢が二転三転して迎えた最終盤。第2図の▲7九歩は受けになっておらず、代えて▲7五銀なら後手玉が詰んでいた。歩が打たれた瞬間にチーム菅井の控室は色めき立ち、チーム伊藤の控室では本田六段が「△同金で防げてないんじゃない?」とつぶやく。実際、△7九同金なら先手玉が詰んでいた。実戦は△6九飛成▲7五銀△同玉▲6六角△6四玉▲6九銀△7九金▲同玉△6八銀まで、藤本六段の勝ち。投了局面の先手玉は即詰みである。そして手順中の▲6九銀では▲5三銀なら後手玉に詰みがあった。フィッシャールールならではのドラマが目まぐるしくおきた最終盤だった。
最終9回戦はチーム伊藤が斎藤、チーム菅井はリーダーの登場となる。改めて振り駒が行われ、斎藤の先手番となった。チームメイトがいずれも2勝を上げているのに自身はここまで勝てていない菅井にとってはまさしく正念場である。そして相穴熊の対抗形となった一局は、なんと千日手に。 先後を入れ替えての指し直し局は▲5六歩△5四歩の出だしから、後手の斎藤が中飛車に振り、穴熊に組む。菅井は流れ矢倉の形で対抗した。
【第9局 菅井竜也八段-斎藤明日斗六段】
【第3図は△7八銀まで】
第3図。先手玉は腹銀で迫られているが、まだ詰みはない。ここでの▲5四角が厳しい一着だった。△3三飛は▲8一角成△同金▲8二金△同玉▲7四桂の順で後手玉が詰む。斎藤は△4一歩と竜の利きを遮ったが、▲4三角成と飛車を奪ったのは大きな戦果である。もっとも、この瞬間の後手玉は絶対詰まない形なので、先手も▲4三角成を決断するには覚悟が必要だ。ただ、この馬の利きが大きく、先手玉を寄せるのも難しい。実戦は△8九銀成から迫ったが届かず、最後は菅井が押し切ってチームに大きな勝利をもたらした。
最後にリーダーが意地を見せたチーム菅井が5勝4敗で勝利し、2位決定戦への進出が決まった。続いて7月12日に放映される予選Bリーグ2位決定一回戦、チーム天彦対チームエントリーの対戦もどうぞお楽しみに。
【総合成績】
第1局 西田●-○伊藤(第1局はチーム菅井が先手番。以下は第8局まで交互、第9局はチーム伊藤の先手番から千日手指し直し)
第2局 藤本●-○本田
第3局 菅井●-○斎藤
第4局 西田○-●本田
第5局 藤本○-●伊藤
第6局 西田○-●斎藤
第7局 菅井●-○本田
第8局 藤本○-●伊藤
第9局 菅井○-●斎藤
総合5勝 ― 4勝
【個人成績】
菅井八段 1-2
藤本六段 2-1
西田六段 2-1
伊藤叡王 1-2
斎藤六段 1-2
本田六段 2-1