フルセットの激闘、伊藤が制し二冠に ~王座戦振り返り~

 藤井聡太王座に伊藤匠叡王が挑戦した第73期王座戦五番勝負。藤井から初めてタイトルを奪って以来、伊藤が二冠目を狙っての挑戦となった。

第73期王座戦五番勝負第1局

 第1局はシンガポール対局。後手の藤井は雁木を目指し、伊藤は早い戦いを目指して乱戦となった。

【第1図は▲2一飛成まで】

 際どい終盤戦だが、△7六歩が勝ちを読み切った一手。次に△7七銀の詰めろで受けは難しい。▲3一竜△5一玉▲3三角に△6一玉▲4一竜△5一金が冷静で、先手の投了。合駒を使えないので銀を取られてしまうが、自玉が詰まなければ問題ない。藤井がまずは先勝。


写真:紋蛇

第73期王座戦五番勝負第2局

 第2局は兵庫県神戸市「ホテルオークラ神戸」にて。角換わりから藤井がリードを奪い、終盤戦も優位に進めていくが、伊藤も粘り強い指し回しで決め手を与えずチャンスを待つ。双方入玉模様の一分将棋となり、ついに伊藤に形勢が傾いた。

【第2図は▲3六歩まで】

 △4六銀成▲同金に△同竜▲同玉△3六飛が厳しい寄せ。どちらで取っても金を打っての一手詰みとなる。▲5五玉とかわしたものの、△4七馬で先手玉は逃げ切れない格好だ。伊藤が逆転勝ちで1勝1敗に追い付く。


写真:翔

第73期王座戦五番勝負第3局

 第3局は愛知県名古屋市「名古屋マリオットアソシアホテル」にて。相掛かりから先手が1筋を攻め、手にした桂香での攻め合いとなった。

【第3図は△6三玉まで】

 ここで▲8六金で竜を捕まえるのが好着想。金を使っても、後手陣はバラバラなので飛車を手にすれば手が続く。以下△7七竜▲同銀△5四歩に▲3一飛で先手勝勢がはっきりした。伊藤が連勝で奪取まであと1勝とした。


写真:潤

第73期王座戦五番勝負第4局

 第4局は神奈川県秦野市「元湯 陣屋」にて。角換わりの出だしから、後手の伊藤が工夫を見せて類型の少ない形となった。

【第4図は△5四銀まで】

 ここで▲2八角が見えにくい引き場所。以下△2五歩▲5五歩△4五銀▲4六歩と銀を捕獲し、△5五角に▲4五歩△2八角成▲同飛△8九飛成▲6四角とさわやかに攻め合ってはっきりと優位を得た。以下は着実に駒得を拡大しながら押し切り、藤井が2勝2敗と追い付いて決着は最終第5局へ。


写真:玉響

第73期王座戦五番勝負第5局

 第5局は山梨県甲府市「常盤ホテル」にて。振り駒で先手となったのは伊藤。相掛かりから、後手の藤井が先攻する展開に。大駒を取り合って一気に終盤戦に突入した。

【第5図は△8八とまで】

 8八のと金を払う一手に見えるが、それは△2四香で飛車を取られてしまう。構わず▲8四桂が好判断だった。王手で金を取られてしまう形だが、後手の玉頭に歩が垂れているので攻め合いは分がある。実戦は△7三銀▲8一飛△7一歩▲7四歩と、互いにと金には触れず進む。この攻め合いが利いたのは大きく、先手が抜け出す。この後の難解な終盤もノーミスで乗り切り、伊藤が制した。


写真:文

 伊藤は3勝2敗で王座を奪取し二冠に。そして通算3期目のタイトル獲得で、九段に昇段した。一方の藤井は六冠に後退。同学年のライバル二人による対決は、次はどちらが挑戦者となるか。

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