痛恨の敗局【瀬川晶司六段編】(4)冴えがなかった終盤戦

前回のコラムはこちら:(3)油断による見落とし

第29期竜王戦ランキング戦6組準々決勝 VS近藤正和六段戦

冴えがなかった終盤戦

この対局があった2016年度の成績は17勝19敗でした。棋士人生初の負け越しと前述しましたが、翌年の2017年度はさらに落ち込んで12勝20敗。さすがに勝率3割台は堪えましたね。2018年度はなんとか巻き返すことができ、19勝15敗でした。

勝ち越すことができた理由はいくつかありますが、自伝の『泣き虫しょったんの奇跡』の映画が18年9月に公開されたことが大きいと思います。あまりひどい成績だとさすがにカッコがつかないですから。自分の人生が映画化されるとは本当に夢のようでした。DVDが2019年11月末に発売されていますので、まだご覧になっていない方はぜひお手に取ってみてください。

楽観から難しい形勢になり、▲5二歩成に△1八飛(第8図)と打って反撃しました。ここからの近藤さんの手がうまかったですね。▲4六歩△同角で角を自陣の利きから外されて、▲6二銀△7二金に▲4二歩。飛車の横利きを止められて、もう先手の攻めを切らす展開ではなくなってしまいました。

【第8図は△1八飛まで】

そこで△6八歩と攻め合いに出ましたが、△4八金と打ったほうがよかったかもしれません。△5八金を防ぐには▲6八金寄しかありませんが、遅いようでも△3二飛(参考2図)が間に合いそうです。

【参考2図は△3二飛まで】

痛恨の敗着

本譜は△6八歩以下、▲同金寄△同角成▲同金△6七香成▲同銀△6八飛成と切り込んでいきました。▲6一成銀(第9図)に18分考えて△6九金と打ちましたが、ここでついに逆転を許してしまいました。▲3五角がまさに攻防の一着なのです。

【第9図は▲6一成銀まで】

△6九金では平凡に△6七竜と銀を取るべきでした。▲7一成銀を△同金と取ると▲同銀不成△同玉▲6八香で逆転します。△同竜はもちろん▲3五角の王手竜ですね。ただし▲7一成銀に△7八金(参考3図)と打てばこちらが勝っていました。

【参考3図は△7八金まで】

うっかりがあって、先手の攻めを切らすのが難しくなってから指し手が乱れてしまいました。対局中はかなり悪いと思っていたのですが、あとでソフトに解析させてみるとそうでもなかった。かなり形勢がよくて勝利を意識していたのに差が詰まったので、実際よりも悪く見えてしまったのです。それでさらに疑問手を続けてしまった。この辺りは実戦の心理状態も大いに影響しています。(続く)

※写真はすべて2015年7月31日 第74期順位戦C級2組3回戦 瀬川昌司五段 対 上村亘四段戦で撮影(段位は当時)
撮影:常盤秀樹

*(5)「わかってはいるけど治らない」へ続く

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