第75期順位戦B級1組 久保九段VS阿久津八段戦でも使われた「中飛車左穴熊」の組み方とは?

今回のコラムでは「中飛車左穴熊」をご紹介します。中飛車といえば、振り飛車戦法。でも囲うのは飛車がいた右側のはずなのに左? わざわざ相手の飛車がいるほうに囲うの? と、囲い名を聞いただけでは思われるかもしれません。ですが、プロの対局でも指されている有力な指し方なのです。では、中飛車なのに左側に穴熊に囲うというのはどういうものなのか? そちらを見ていきましょう。
囲いの特徴:第1図をご覧ください。

【第1図は▲5五歩まで】

平成28年6月16日、第75期順位戦B級1組、▲久保利明九段ー△阿久津主税八段戦です。久保九段の中飛車に阿久津八段が三間飛車に振り、相振り飛車となったところです。

ここから、阿久津八段は△6二玉と右側に玉を上がります。相振り飛車でも右側に囲うということは普通ですよね。ところが、久保九段は▲6八玉! と左側に玉を上がりました。駒組みが進み、囲い合ったのが第2図になります。

【第2図は▲6八角まで】

こうなると、相振り飛車というよりは居飛車対振り飛車の相穴熊という感じに見えますよね。先手側からすると守備駒がいない右辺が気になりますが、5六にいる飛車が横利きでカバーしています。

相振り飛車は、中飛車より四間飛車、四間飛車より三間飛車、といったように、飛車が左にいくほどよいと言われていました。相手の玉により近いところに飛車を配置しているというのが理由の一つです。よって、中飛車が得意な棋士に対しては、居飛車党でも相振り飛車にする棋士もいたくらいです。いまご紹介している将棋の阿久津八段も、居飛車党ですしね。

ところが、第2図を見るととうでしょうか。先手の飛車と後手の飛車では、先手の中飛車のほうが、後手の三間飛車より相手玉に近いですよね。もちろん、それだけで優劣が決まるほどではありませんが、理にはかなっている指し方とは言えますよね。また、5筋の位を取り、それを飛車で支えているので、藤井システムのような角のラインで急戦を仕掛けるといったこともしにくくなっています。穴熊に囲いやすいというのも特徴です。それでは、いつも通り先手側の駒だけを配置して、囲いに組むまでの手順を見ていきましょう。

囲いを組むまでの手順:初手から、▲5六歩、▲5八飛、▲7六歩、▲5五歩(第3図)。

【第3図は▲5五歩まで】

まずは中飛車に振り、5筋の位を取ります。なお、ここでは相手が三間飛車と仮定して組んでいきます。ここから、左に玉を囲っていきます。第3図から、▲5六飛、▲6八玉、▲7八玉、▲7七角、▲8八玉(第4図)。

【第4図は▲8八玉まで】

飛車を5六に浮かない指し方もありますが、いつでも△3六歩と突かれる手があると不安ですよね。最初のうちは浮いたほうが安全でしょう。第4図から、▲9八香、▲9九玉、▲8八銀、▲7九金、▲5九金、▲6九金右、▲4八銀、▲7八金右、▲5七銀、▲6六銀(第5図)。

【第5図は▲6六銀まで】

ここまで組めればひとまずは満足でしょう。金銀四枚の非常に堅固な穴熊ですし、場合によっては▲7五歩と突いて仕掛けるという狙いもあります。次回は組む際の注意点と発展形を見ていきましょう。

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