将棋川柳・第7乃句『とんだ時二歩を見つける下手将棋』(万句合・明和6年(1769年)の投句)

『とんだ時二歩を見つける下手将棋』

下の手と書いて「したて」と読む人は、よほど将棋が好きな人でしょう。この言葉に接する頻度が多いため、反射的にそう読んでしまう。もっともなことですが。これは「へた」とも読むのはご存じのとおり。技が未熟だということをいいますが。ほかに「ヘボ」と読むこともあって、川柳の世界では、どちらかといえばこちらの読み方の方がしっくりくる気がしております。

どっちが正しいという問題ではありませんが。表題の下の句、これを「へた将棋」と読んでしまっては、味も素っ気(そっけ)もありません。

さて、本句のメインテーマの「二歩」。これ、多くの場合、好手なんです。で、つい、ここに歩が打てればと考えてしまい、そうすればこうなってあぁなってこっちが良しだと、読みが先に先にと行ってしまう。となると、二歩のことはもうすっかり頭から消えてしまうのですヨ。

今日も町道場では皆さん、楽しく将棋を指しておりますが。たまには有段者でも二歩を指してしまうことがあるようです。

【図1は△8四角まで】

図1はアマ四段同士の対局。先手はここから▲5五歩と仕掛け、△同歩▲同銀△5四歩▲6四歩△5五歩▲6三歩成△4二銀▲5三歩(図2)と進みました。先手は銀の丸損ですが、次に▲5二とや▲5二歩成があり、十分に戦えるという読みです。

【図2は▲5三歩まで】

この途中、後手は△5五歩と銀を取り、あえて▲6三歩成とと金をつくらせていますが、これは先に銀得になるので、その時間差を利用して有利にしようという考えです。もっとも、と金はイヤだからと、△5五歩と銀を取る手で△6四同歩とすると、▲同銀△同銀▲同飛△6三歩▲7四飛△7三銀▲8四飛△同飛▲4五歩が一例の変化で、これは先手が優勢です。つまり、図1で▲5五歩と仕掛けてから図2までは、ほぼ一本道の手順と言ってもおかしくないようです。

図2となり、後手は△5六歩と筋良く突き出しました(図3)。

【図3は△5六歩まで】

8四の角筋を生かす狙いです。これに先手は当初、▲5六同金と取る予定だったとのこと。しかし、その時に△3五歩とされ、▲同歩に△5三銀(歩を入手)▲同と△同飛(図4)となると、次に△3六歩があることに気づいたと言います。

【図4は△5三同飛まで】

そこで......実戦は図3で安全にと、▲5八歩(図5)! なんと、これが二歩になったのです。

【図5は▲5八歩】

ちなみに、図4では▲5四歩と叩き、△同飛▲5五歩△5一飛▲3六銀で、先手が優勢でした。

それにしてもヘボというのは、紹介の句のように、とんでもないときに二歩をみつけるものナンです。

「あっ、なんだヨ、二歩じゃねぇ~か」

「おっと、そうか。二歩ちゃんネ」

「ダメだよ二歩は、反則なんだからサ」

「そうそう反則、反則。で、いつ前の歩は打ったんだい?」

「知らないヨ。お前さんが打ったんだから」

「そんなこと言わずに教えておくれヨ」

「いやだヨ」

「じゃまぁ、この勝負はなしということで」

「しょうがねぇ~ナ」

と、2人が初形に戻すと、なぜか余分な歩が1枚、駒台に乗ったとサ。

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