アマ棋界を代表する強豪が悲願の初優勝。第73回アマ名人戦全国大会レポート

第73回アマチュア名人戦の全国大会が9月7~9日に東京都港区の「チサンホテル浜松町」にて開催された。

各都道府県の代表62人に、前アマ名人の鈴木肇さんと支部名人の知花賢さんの二人を加えた計64人の大会だ。予選は2勝通過2敗失格のリーグ戦で、その後は32人によるトーナメント戦だ。

初日と2日目は持ち時間は50分、切れたら秒読みが30秒で1日3局のみと、全国大会ならではの長丁場だ。

今回の注目選手は銀河戦で大活躍し、プロ編入試験に挑戦する折田翔吾さん(大阪)だろう。他の選手からもエールを送られるシーンが多く見られた。


折田翔吾さん

予選で横山大樹さん(北海道)、中川慧梧さん(東京)、小山怜央さん(神奈川)、鈴木肇さん、知花賢さんら優勝候補が黒星を喫していたが、予選3回戦は勝って決勝トーナメントに駒を進めた。

決勝トーナメント1回戦・2回戦

決勝トーナメント1回戦で小山さんと早咲誠和さん(大分)のビッグネームが激突。早咲さんは45歳のベテランながら、現在行われている第50期新人王戦では若手強豪棋士をなぎ倒してベスト4に進出している。今回は5度目のアマ名人を目指しての戦いだったが、小山さんの力強い指し回しの前に屈した。


左/早咲誠和さん 右/小山怜央さん

小山さんは続く2回戦で折田さんと対戦。こちらも小山さんが力強い指し回しで競り勝った。プロ棋戦で活躍するアマでも全国大会を勝ち抜くのは容易ではない。


左/小山怜央さん 右/折田翔吾さん

連覇を狙った前アマ名人の鈴木さんは準々決勝で高橋英晃さん(静岡)に敗れた。高橋さんは2年前に続く最終日勝ち残り。


左/鈴木肇さん(前アマ名人) 右/高橋英晃さん

準決勝

記録的な台風が押し寄せた9月9日だったが、選手は会場のホテルに宿泊しているので進行に問題はない。準決勝の小山─中川戦は社会人ナンバーワンチームのリコー対決。団体戦ではリコーの二枚看板として肩を並べる両者だが、大一番での対戦となった。結果は中川さんの作戦が的中し完勝。中川さんは意外にも初の決勝進出となった。


左/中川慧梧さん 右/小山怜央さん

天野啓吾(兵庫)─高橋戦は天野さんが終盤に勝ち筋を逃して逆転負け。3年前に優勝、2年前に準優勝とこの大会に相性の良い天野さんだが今年はここまでとなった。


左/高橋英晃さん 右/天野啓吾さん

決勝は学生時代からのライバル対決に

数年前まで中川さんは立命館大学、高橋さんは京都大学に在籍していたため、当時は京都大会や学生大会で数多く対戦した間柄だそうだ。決勝は中川さんの矢倉対高橋さんの雁木となった。


左/高橋英晃さん 右/中川慧梧さん

図は8筋で歩と角が交換になったところ。ここで▲8七歩では△8一飛と引かれて後手満足。▲6四歩が習いある手筋。実戦は△8八歩に▲8七歩と時間差で受けたのが落ち着いた手で、△8九歩成▲同玉で先手良しとなった。良くなってからの中川さんは慎重に時間を使って押し切り、悲願の初優勝となった。図では△6四同銀と取り、▲9七角に△9六飛としておけば本譜よりは難しい戦いだった。不出来な一局となってしまい、高橋さんには残念な結果だった。

【図は△8六同飛まで】

高校1年生でアマ王将のタイトルを取るなど、若いころから屈指のアマ強豪として知られていた中川さん。しかし社会人になって首都圏に引っ越してからは代表も遠のき、アマ名人戦の出場も久しぶりだった。優勝後のインタビューでは「最近は稲葉(聡)さんや横山さん、小山君に差をつけられて......。今回はラストチャンスなんじゃないかと思っていた」と感極まって涙を流すシーンも。アマ棋界を代表する強豪が、ついにビッグタイトルを手にした。


悲願の初優勝を手にした中川慧梧さん

*第73回アマチュア名人戦全国大会は、あいおいニッセイ同和損保が特別協賛となり開催されました。

撮影:渡部壮大

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