将棋地口・第2笑 『宝塚過激団』

 今晩は、仕事帰りに一杯ひっかけて当道場(おっと、将棋"クラブ"でした)に寄ってくれた常連さんがおります。平日の夜、それも9時を回っているのですが、どういう風の吹き回しか、今日はけっこうな人で賑わっているのですね。ちなみに、当クラブの営業時間は、午後1時から午後10時までです。

 平日は毎日やっているトーナメント以外、特別、これといったイベントがあるクラブではないのですが、ありがたいことに今晩は盛況で、あちらこちらで楽しい会話が行き交っています。

「今晩は大勢いて、賑やかですね」
「いや~、嬉しいことですが、どうしてでしょうかネ? 暖かくなったからでしょうか?」

 常連さんは席主の私に話し掛けてきて、珍しいナという顔をしました。そして、顔見知りのザッカさんと呼ばれる人の脇に腰を降ろし、対局が付くまでしばらく見学することになりました。

ザッカさんは、商売が雑貨屋であることからそう呼ばれていて、冗談や洒落が好きで、とてもウィットに富んだ人なのです。

「今日はずいぶんと遅いご帰還じゃゴザンセンか?」

 ザッカさんは盤に目をやったまま、その常連さんに人懐(ひとなつ)っこい声で話し掛けていきました。

「えぇ、年度末の付き合いで、軽く飲んできたものですから」
「そりゃまたケッコウ毛だらけだ。おっと、敵にそうこられては、こっちも黙っちゃいられないっていうモンだぜ」

 私もついでにザッカさんの将棋を覗きましたが、局面は中盤の戦いに入っていて、駒がたくさんぶつかっています。

「今晩は、ザッカさんの将棋もこのクラブ同様、だいぶ賑やかじゃないですか」

 と常連さん。

「そ~よ、切った張ったが将棋の面白いところヨ。こ~でなくちゃイケネ~や。そうだろ~」

そう言って、ザッカさんはグイッと銀を出ていきましたが、私がフッと隣の対局に目を向けてみると、そちらの将棋もかなりの激戦となっていたのです。

 陽気が良くなり、皆さん、自分では気づかぬうちにウキウキとしているのでしょうか? それとも日ごろの憂(う)さを晴らそうということ、あるいは、景気が良くなるようでなかなか実感が伴わないやるせなさを、将棋にぶつけているのでしょうか?

気がつくと、それまで楽しい会話が続いていたほかの対局も、「ヒェ~!」とか「アリャ~!」とか「トリャ~!」などといった、意味不明の音声に変っていました。将棋クラブというより、どちらかといえば剣道の道場にでもいるような雰囲気になっていたのです。

 そんな中、ザッカさんの将棋は図のような終盤の局面を迎えました。

 今、時間に追われた相手が、少し慌て気味に激しく銀を打ち込んできたところです。

するとすかさず、ザッカさんには比較的新しい洒落が大声で出たのです。その声には、日ごろの憂さを吹き飛ばすパワーがありました。

「待ってました、宝塚"過激"団!」

【図は△2七銀まで】

*図から、▲2七同銀△同歩成▲同玉△4九竜(参考図1)が後手の読みでしたが、先手の持ち駒に銀が加わったため、以下、▲6一竜△同玉▲5二金△同玉▲4一銀△6一玉▲5二金△7二玉▲6一角(参考図2)△8二玉▲8三歩△9二玉▲8四桂まで、後手玉は詰んでしまいました。

【参考図1は△4九竜まで】

【参考図2は▲6一角まで】

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