「将棋を観て楽しむ」ということの大切さ【将棋と教育】

どんな戦術で行くか、直接的な手かそれとも間接的な手にするか、対局中考えなければならないことは多々ありますが、最終的には、将棋は王様が詰まされたら負けです。常に王様の危険度を測りながら指し手を選ぶことが大切なのですが、王様を守るための「陣形」があります。今回は、陣形のデザインについてお伝えしていきましょう。

王様の危険度で戦況を判断できる

王様を取られたら負けですから、王様の状態には絶えず注意を払わなければなりません。自分が攻めに行くときには、「まず足下を見てから行け」というのが将棋の鉄則とされています。

攻めに移る前には自陣を見直し、王様の状況はどうか、危険はないかをチェックする。すると完璧だと思っていた自陣にも、遊んでいる駒がいるのが見えてきたりして、攻めより先に自陣の整備をすべきだと、はたと気づいたりすることもあります。王様の危険度という観点で自分の今の状況を冷静に把握すると、おのずと次の手も見えてくるようになるのです。

そんな落ち着いた状態で盤面全体に目を向けると、他のことも見えてきます。敵陣をじっくり眺めてみると、不十分な態勢だと確認できる場合もある。だったら、「よし!ここで攻めていこう」と決断できますし、逆に敵陣の様子から「ここはしっかり守りを固めよう」という判断をすることもあるわけです。

王様の危険度――このポイントで状況を見ることによって、攻めも守りも分かってくるのです。さらに、実際の対局をする立場でなくても、王様の危険度に着目すると戦況が分かりやすくなります。


第65期王座戦 第4局より

陣形のデザインの良し悪しに注目して見てみる

以前に、陣形のデザインということをご紹介しましたが、新聞の将棋欄やテレビの将棋番組をご覧になると、将棋に詳しくない方でも、なんとなくこちらの方がきれいに見えるということがあるのではないかと思います。特に「王様のまわりはどうなっているだろうか?」という視点でチェックしてみると、いっそうデザインの良し悪しがわかりやすいはずです。

新聞で掲載される棋譜は毎日少しずつ進んでいくなかで、変化に気づきます。「あれ、王様のまわりが昨日の形から変わってきた」とか、「こちらより向こうの方がだんだんきれいになってきた」などと、それだけでも楽しめるものです。

サッカーでも野球でも、FIFAワールドカップやWBCなどの世界一を決定する大一番となると、詳しいルールを知らなくても皆さん熱心にテレビ観戦して応援します。わからないながらも見ているうちに、なんとなく形勢を判断することができて、だんだんおもしろくなっていき、それがきっかけにその競技に興味を抱く人も増えていきます。

将棋というと難しく考えてしまう人が多いようですが、指し手はわからなくても、王様を中心とした陣形デザインを入り口にして、そんなふうに気軽に将棋観戦を楽しんでいただけたら嬉しく思います。「こちらの王様の方が何だか安全のように見えるし、デザインもきれい。こちらの棋士が勝ちそうな気がする」なんていう見方をしても面白いのではないでしょうか。

そうやって盤面の推移を見ていくと、どちらかがじりじりと追い詰められていくのが分かったりするものです。対局者はお互いに一手ずつしか指せないし、それぞれの駒の動きも種類ごとに同じなのに、なぜか両者のそれが違うように見えます。たとえば私の飛車も、羽生棋聖の飛車も同じ馬力。なのに私の飛車はオンボロ車で、羽生棋聖の飛車はスポーツカーのように見えることがある。そうした将棋の妙を味わっていただければ、将棋がより楽しいものとして感じることができるはずです。

指さないまでも「観る将棋ファン」という楽しみ方

もちろん将棋を実際に指すことを実体験で感じると、得るものは大きいです。けれども、見て楽しむという分野もあってもいいのではないかと私は思っています。最近の藤井聡太ブームで将棋に注目が集まっています。このコラムにも沢山の「観る将」ファンがいらっしゃると聞いています。

特に、近年は小さな子供を持つ保護者の方たちが、進んで子供たちに将棋をやらせる動向が広がりを見せています。実際、多くの子供たちが実体験を通して様々なことを学んでいってくれています。そしてそれを見守る保護者の方たちも、子どもの生活態度や勉強の取り組み方までみるみる変わってくるのを眼にして、将棋の教育的効果に気づいてくださっています。


第30期竜王戦 第4局より

しかし保護者の方たちも、「子供にやらせてみよう」ということだけで終わらず、ご自身も"観る将棋ファン"という立場で構いませんから将棋を楽しんでください。そうなれば、子どもとの会話も弾んで教育的効果もいっそう高まります。

そして一人でも多くの方が「将棋の世界っておもしろい」「日本も捨てたもんじゃないな」と、とらえるようになってくださると、将棋の世界にも何か新たな展開が出てくるのではないでしょうか。

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