現代の子供が苦手な応用・創意工夫。解決のヒントは将棋にあった。【子供たちは将棋から何を学ぶのか】

TVゲームではボタンを押せば一定の答えが簡単に出てくるのに対して、将棋では毎回の指し手のたびに、自分で考え、先を読み、指し手を決めていきます。ひとつの答えに向かって考えるのではなく、いくつもある可能性に向かって創意工夫を重ねるのです。

本来の「遊び」もまた、創意工夫を凝らして形を変えながら、学びを得るものでもあるのです。

創意工夫が不得意になってしまった現代の子どもたち

最近の子どもたちは、TVゲームの氾濫などにより、感覚的になってきてしまい、創意工夫や思考などが不得意になってしまっているように感じます。学習も暗記が中心で、使いやすい公式や定理だけは知っているのですが、応用が利かなかったり、その公式や定理に至るまでのプロセスは、まったくわかっていなかったりと、外見だけの知識だけを得てしまっているのです。事実、最近行われた全国学力調査でも応用分野での児童の解決への導き方の問題が指摘されています。

答えのはっきりしたものをとらえることはできるのに、いざ答えが2つ、3つあるという曖昧さの中では、上手く考えられない子が増えてしまっているのです。また同時に、「正解をしないといけない」「間違えると恥ずかしい」という、「恥の文化」が浸透してしまったことも遠因になっているようにも思います。

将棋が教育にもたらす効果

文部科学省は20年以上前から小学校のクラブ活動の中に将棋の奨励を行ってきています。また、最近でも、将棋の教育における効果が見直されてきています。特に応用力や思考という点では、将棋は非常に効果があるものと認識されています。

将棋は全く同じ対局というのはありません。対局のたびに異なる局面に出くわし、そのときそのときで指し手を考えていきます。以前の対局での経験や本で得た知識をフルに活用し、創意工夫しながら勝ちへの道筋を組み立てるという作業を行うのです。

深くまで指し手を読んで、自分の読みの中ではこれが最善と思った一手を指したとしても、相手が自分の読みにない手を指されれば、またそこから新たに指し手を考えていかなければなりません。

まさに、ひとつの答えを求めるのではなく、いくつもある曖昧さの中から自分で決断して進んでいくことを体感できます。将棋という遊びを通じて、思考力や応用力、創意工夫する力を養うことができるのです。

本来の「遊び」と現代の「ゲーム」の違い

子どもたちが学ぶ場というのは、以前は生活の中にありました。言い換えれば、生活の中の「遊び」に学ぶものがありました。仲間と遊ぶことによって、そこに子どもたちのルールができていき、それを発展・改良させてより楽しく遊べるように創意工夫をしていったのです。また、異年齢の友達との関わりにおいては、礼儀を重んじるということを、遊びながら体感していたのです。

遊びにおいて現在と昔を比較してみると、数の面において現在の方が大変な数の遊びが存在しているように見えますが、実は「遊び」そのものは減少していると私は思います。いわゆる「ゲーム」といわれる製品の数は確かに多いでしょう。しかし、本来の「遊び」と今の「ゲーム」というものは実は全然違うものなのです。

「遊び」というものは生活の中のなくてはならない学習の場であって、もっと言えば、創意工夫、思考などによって形を変えていくのが本来の姿です。一方で今の「ゲーム」は、ボタンを押せば一定の答えが簡単に出てくるようなもので、生活の中の学習の場ではないのです。便利さと効率さを求めていく現代社会が、さらに自分の思考を使わないでも楽しめるゲームを広めていったとも言えるのではないでしょうか。

一方で、昔の夏の夜などに見られた縁台将棋のように、生活の一つの顔でもあったものが、ほとんど見かけなくなってしまったことを寂しく思います。

子どもたちの生活の中に「遊び」を

子どもたちは感受性豊かで、多くのものを吸収して成長していきます。TVゲームのように手軽にできるものも楽しいかもしれませんが、子どもたちには試行錯誤や創意工夫を繰り返しながら学べる「遊び」を経験してほしいと思います。答えがすぐ出ないことを「面倒くさい」と敬遠するのではなく、それを楽しみ、新たなものを創造する土台となる考える力を、将棋を「遊び」ながら身に着けていってほしいものです。

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