棋士に人気の高い駒は、菱湖書。羽生三冠がタイトル防衛をきめた最終局でも使われていた!

将棋の対局に欠かせない道具といえば盤と駒。公式戦では例外はあるが、いずれも最上級のものが使われる。特に駒は個性豊かで好みが分かれることから、熱心な蒐集家も多い。そうした駒の「顔」ともいえるのが書体だ。今回はその中から、棋士に人気の高い「菱湖(りょうこ)書」を取り上げたい。


大竹竹風作・菱湖書

菱湖書の特徴は細身かつ流麗な字形である。対局者は持ち時間によっては非常に長い時間、駒を見つめ続けることになる。見た目にすっきりとして目の負担にならないことが、人気を集める理由だろう。個々の駒に目を向けたとき、王将と玉将を見比べると、違いが点の有無だけではないことがわかる。これは他のほとんどの書体にはない、珍しい特徴といえる。


竹風作・菱湖書

菱湖書の源流は江戸時代後期の書家、巻菱湖(まき・りょうこ)に求められる。菱湖は越後国巻(現在の新潟県新潟市西蒲区巻)の生まれ。市河米庵、貫名菘翁とともに「幕末の三筆」に数えられた。平明で端麗な書風が人気を博し、門下生は1万人を超えたと伝わる。


影水作・巻菱湖書

ただし駒の書体は菱湖自身が確立したわけではなく、これについての経緯は観戦記者の東公平氏による調査に詳しい。東氏は阪田三吉について調べる中で、阪田が右腕として頼んだ高濱作蔵という棋士の情報を得た。作蔵には同様に棋士だった弟の禎がいたが、東氏が禎の子息家を訪問したところ、禎の覚え書きには、禎自身が菱湖の手本から駒字を作った経緯が記されていた。この駒字をもとに、「近代将棋駒の祖」と謳われた駒師の豊島龍山が駒を作った。以上が菱湖書確立の通説となっている。菱湖書のほかに「巻菱湖(まきのりょうこ)書」という書体もあり、この2つは、見た目はほぼ同じで、由来も同様である。


静山師作・菱湖書 王位戦中継ブログより

最近のタイトル戦では、第57期王位戦七番勝負第7局で使われた陣屋所蔵の駒が静山(せいざん)師作・菱湖書だった。長く使い込まれたことから生じる風合いも、駒の価値を語るうえで欠かせない。

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