チーム佐々木VSチームエントリー ABEMAトーナメント2024~予選Dリーグ第三試合振り返り~

チーム佐々木VSチームエントリー ABEMAトーナメント2024~予選Dリーグ第三試合振り返り~

ライター: 生姜  更新: 2024年08月01日

 7月27日(土)に放送されたABEMAトーナメント2024予選Dリーグ第三試合。チーム佐々木「リーダー頑張ります!」(佐々木勇気八段、伊藤匠叡王、久保利明九段)とチームエントリー「四間の流儀」(大橋貴洸七段、井出隼平五段、冨田誠也五段)の戦いを振り返る。ついに予選の最終戦を迎えた。
 チーム佐々木とチームエントリーはともに初陣を落としている。勝ち数の条件はなく、シンプルに5勝を挙げたほうが予選抜けだ。

【1局目 伊藤匠叡王─井出隼平五段】

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 1局目は伊藤-井出戦。早速、興味深い手が現れた。

【第1図は▲6五歩まで】

 ▲6五歩と突いて角交換を狙った局面。ここで△4四飛と浮いたのがあまり見られない応手だった。▲4四同角は△同角で角のにらみが強く、▲6六銀は△6五銀、▲7七桂も△6五桂で手が続く。本譜は△4四飛に▲2四歩△同歩▲同飛△同角▲4四角△2八飛▲1一角成△2九飛成と進んだ。この分かれはいい勝負。その後、井出が嫌みな玉頭攻めでうまく食いつくことに成功し、強敵を破った。戦前の井出は「(目標は)王手を掛けたいですね」、「5分間耐えるゲームをやってこようと思います」と超控えめなコメントだったが、望外?の活躍で幸先のよいスタートを切ってみせた。

【2局目 佐々木勇気八段─冨田誠也五段】

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 2局目は佐々木と冨田が対戦。冨田の中飛車に対し、佐々木が△5四歩と位取りを拒否してから角交換に。冨田が飛車の捕獲に成功し、佐々木が暴れる展開となった。

【第2図は△2九飛まで】

 図は終盤戦。ここで▲2八金と寄って、△1九飛成▲3二銀なら先手が勝ち筋。しかし必至をかけた瞬間に自玉が非常に怖いので、実戦の▲2八銀はそう打つところ。以下△5三角▲4三金△4六歩▲3二馬△1二玉▲3三歩成△同桂▲3四歩△同金▲5三金△2三銀▲2一角△1三玉▲4三金△4七歩成と進む。

【第3図は△4七歩成まで】

 クライマックス。冨田は▲2三馬△同玉▲3二角成△1三玉▲2二銀△1二玉▲2一馬△2三玉▲3三金△同金▲3五桂として見事詰ましあげた。△3四玉に▲3三銀成△同玉▲4三馬から詰み筋。簡単に見えるが、意外にそうでないので冨田は焦ったという。チームエントリーが強敵を連続で破っての連勝で勢いに乗る。

 第3局は久保-大橋戦になった。久保が三間飛車に振っての相穴熊に。ともに秘術を出し合い、172手の長期戦を大橋が制す。スペースの都合上割愛するが、見どころの多い攻防が繰り広げられた。チームエントリーは開幕3連勝。

 第4局は伊藤と井出による再戦。井出の四間飛車に伊藤が居飛車穴熊で対抗。伊藤は最終的に銀冠穴熊にまで組めたのだが、井出は端攻めでサクサクと囲いを崩していく。気づけば振り飛車が有望となっており、井出の指し回しに唸るばかりだった。しかし伊藤も崩れず、うまい角の受けを見せて挽回に成功。そして素早く反撃を決めた。チームエントリーから「敗因不明」の声もあったほどの激戦を制し、チームに1勝をもたらす。

 第5局。チームエントリーは流れ通り冨田が出たのに対し、チーム佐々木は伊藤が連続出場。伊藤のカードを使い切るので意表の選択だったが、佐々木が冨田との当たりを避け、冨田と相性のいい伊藤をぶつける狙いだった。戦型は四間飛車対居飛車穴熊。冨田の実戦的な揺さぶりに、伊藤は堂々と指し続ける。深い読みに裏付けられた対応に困ったか、冨田の持ち味が出ない展開となった。伊藤が快勝で仕事を終える。

 第6局。久保と井出の顔合わせとなった。ともに相手が振り飛車党の場合は居飛車を指すタイプだ。どちらが飛車を振るかの駆け引きが注目された。井出の先手で▲7六歩△3四歩▲6六歩△6四歩の出だしから久保が右四間飛車を採用。そして居飛車穴熊に組む。そこで井出がまた工夫の順でさばきリードを奪う。久保も抵抗して逆転にこぎつけたが、時間切迫で再逆転。井出が逃げ切った。
 今回の久保は結果こそ残せなかったが、対抗形、相穴熊でのテクニックを存分に見せつけ、熱戦を演じていた。チームエントリーの力をたたえるべきだろう。

 第7局は佐々木と大橋のリーダー対決。戦型は角換わり。初の相居飛車戦だ。あとがなくなった佐々木だったが早繰り銀から機敏な手順で桂得に成功する。大橋にうっかりがあったようだった。以降も勝ちきるまでは大変な情勢だったものの、佐々木はうまくまとめて制勝。

【8局目 久保利明九段─大橋貴洸七段】

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 第8局は、「このままでは終われない」とリベンジに燃える大橋が連続出場。佐々木との再戦を望んでいるようだった。チーム佐々木はリーダーから「バトンを渡してください」と託された久保が出る。3局目では相穴熊だったが、本局は相銀冠になった。久保は石田流に組む。

【第4図は△4四同飛まで】

 きれいにさばき合ったが、手番を握っている先手の模様がいい。ここで▲5二銀が参考になる一着だ。△5三金には▲6一銀成で角を取ることができる。金は逃げられないので△5五歩▲同歩△5六歩と嫌みをつけるも、▲6三銀成△同金▲5四金と守り駒をはがす攻めが厳しく、大橋がはっきり優勢に。そしてそのまま危なげなくゴールを決めた。
 チームエントリーは強敵を次々に破って予選突破を果たした。控室の様子を見るにいい意味で肩の力が抜けている印象を抱いた。本戦ではどこまで勝ち進めるか。それにしても今回は対抗形の熱戦が多く、大いに勉強になる回でもあった。

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【総合成績】
第1局 伊藤●-○井出
第2局 佐々木●-○冨田
第3局 久保●-○大橋
第4局 伊藤○-●井出
第5局 伊藤○-●冨田
第6局 久保●-○井出
第7局 佐々木○-●大橋
第8局 久保●-○大橋
総合3勝-5勝

【個人成績】
佐々木八段 1-1
伊藤叡王 2-1
久保九段 0-3
大橋七段 2-1
井出五段 2-1
冨田五段 1-1

ABEMAトーナメント

生姜

ライター生姜

1993年生まれ。将棋連盟モバイルを中心に活動する中継記者。2018年現在は最年少の記者。棋士の食事注文に肉生姜焼き定食があると反応する。

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