第5回ABEMAトーナメント~本戦トーナメント決勝 チーム稲葉VSチーム斎藤 振り返り~

第5回ABEMAトーナメント~本戦トーナメント決勝 チーム稲葉VSチーム斎藤 振り返り~

ライター: 牛蒡  更新: 2022年09月30日

 9月24日(土)に放映された第5回ABEMAトーナメントの本戦トーナメント決勝、チーム稲葉(稲葉陽八段・服部慎一郎四段・出口若武六段)とチーム斎藤(斎藤慎太郎八段・木村一基九段・佐々木勇気七段)の戦いを振り返る。

【忍者VS天使】

 チーム稲葉は忍者、チーム斎藤は天使のコスチュームで登場した。チーム稲葉は服部の異名である「忍者服部」、チーム斎藤は「シン・エンジェル」のチーム名に由来する。対局前日に発表された斎藤の結婚も話題になった。

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チーム稲葉は忍者のコスチューム

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チーム斎藤は天使のコスチューム

【第2局▲佐々木勇気七段-△服部慎一郎四段】

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 前半戦は服部が魅せた。木村、佐々木、斎藤を相手に3連勝を決めたのだ。第1局の▲服部-△木村戦は、不動駒が1枚だけという激戦だった。第3局の▲服部-△斎藤戦も二転三転したが、111手目▲4五歩の手裏剣が刺さり、121手で服部が勝ちきった。第2局の▲佐々木-△服部戦は図面付きで紹介する。

【第1図は△6五飛まで】

 戦型は角換わり。2015~16年ごろに指された形だ。54手目△6二飛までは前例があるが、佐々木は「思い出すのに時間がかかってしまった」という。この時点で残り時間は、佐々木が2分46秒、服部が5分24秒と差がついた。55手目▲4四桂の新手に対して、△3三銀と駒を埋め、▲5二桂成で金を取り、△6五飛と走って第1図。

 佐々木はもう残り1分強しかない。その大半を投入して▲5六銀としたが、△5五飛▲同銀△3七歩成▲2九飛△2二玉が冷静な対応だった。後手陣の銀銀金の守りが厚い。実戦的には▲5六銀ではなく、▲3三角成と切り飛ばすしかなかったようだ。最終盤は「詰めろ逃れの詰めろ」が出て服部が勝利。チーム稲葉の面々は「いい内容だった」と服部をたたえた。

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第2局の終局直後。服部四段は大活躍した

【第5局▲出口若武六段-△斎藤慎太郎八段】

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 第4局は▲木村-△稲葉戦。1~2筋が主戦場になったのだが、1~3筋をひらひらと舞う稲葉玉が妙に捕まらない。ふと気づけば先手の攻めは重くなり、後手の反撃が始まっていた。稲葉が勝って4連勝。優勝は目前となった。

【第2図は△7一飛まで】

 カド番を任されたのはリーダーの斎藤。対するはこの日、初登場の出口だ。第2図は出口が追い上げている最中だが、あと一歩というところで▲6一成桂が甘かった。△6七成銀が詰めろで入り、以下▲7九玉△6八角▲同金△同と▲同飛△同成銀▲同玉△5八飛で終局となった。△5八飛に▲6七玉と逃げても△5六金▲7七玉△6六角で詰む。

 きわどい終盤だった。とはいえ、先手に勝ちがあったかというと難しい。2図で▲6二銀としても△5一飛▲同銀不成△8八角の退路封鎖がある。斎藤は「△8八角をどこで打つか」と話していたので、視野に入っていたのは間違いない。

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全力の拍手で迎えられた斎藤八段

【第6局▲斎藤慎太郎八段-△稲葉陽八段】

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チームメンバーに託されたリーダー対決

 第6局は順当にいけば佐々木の出番だ。しかし、チームメンバーは斎藤を推した。5連勝を実現するには、これしかないと判断したからだ。斎藤はこれを受け、稲葉とのリーダー対決に臨んだ。

 斎藤は角換わり早繰り銀を採用、稲葉は右玉で対抗した。斎藤がペースをつかみ、敵陣に竜を作ったが、右玉特有の懐の深さに手を焼いた。「勝ちが見つからなかった」という。いつしか受けに回る展開になった。

【第3図は▲6八金まで】

 ▲6八金と受けて第3図。△6八同角成が英断だった。以下▲6八同銀△7八金▲9八玉△6八金▲3五角△7二玉▲6八角に△7八銀が決め手だ。斎藤は▲8八銀で粘ったが、△6七銀打と食いつかれ、しだいに受けがなくなっていった。最後は8二から△9三玉と上がるピッタリとした手で決着。チーム稲葉の優勝が決まった。

 稲葉は「(チーム斎藤は何度も逆転劇を演じているので)ここで私が負けたら大逆転をくらうかもしれないと思いました。精神的にはギリギリでした」と話していた。

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頼れるリーダーの稲葉八段。予選からの通算成績は7勝1敗

 チーム稲葉は予選2回戦から勢いに乗り、優勝の栄誉と賞金1,000万円を手にした。本当に強いチームだった。チーム斎藤は予選から決勝まで全47局(1試合平均は8局弱)を戦い抜いた。あらためて拍手を送りたい。以下は決勝のまとめ。【総合成績】の並びは、左がチーム稲葉、右がチーム斎藤。

【総合成績】
第1局 服部〇-●木村
第2局 服部〇-●佐々木
第3局 服部〇-●斎藤
第4局 稲葉〇-●木村
第5局 出口●-〇斎藤
第6局 稲葉〇-●斎藤
総合  5勝 ― 1勝

【個人成績】
稲葉八段  2-0
服部四段  3-0
出口六段  0-1
斎藤八段  1-2
木村九段  0-2
佐々木七段 0-1

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優勝を決めたチーム稲葉。最後も「ニンニン!」

ABEMAトーナメント

牛蒡

ライター牛蒡

2010年、サラリーマンから「名人戦棋譜速報」の中継記者に転身。 現在は日本将棋連盟モバイルの中継業務も担当。ペンネームを「牛」に改名しようかと検討中。

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