第53期新人王戦三番勝負展望

第53期新人王戦三番勝負展望

ライター: 相崎修司  更新: 2022年09月30日

第53期新人王戦の決勝三番勝負は黒田尭之五段と服部慎一郎四段で争われることになった。黒田は井田明宏四段、宮田大暉三段、西山朋佳白玲・女王、阿部光瑠七段を、服部は横山友紀四段、古賀悠聖四段、佐々木大地七段、齊藤優希三段を破っての決勝進出だ。両者ともに新人王戦決勝三番勝負は初登場である。過去には3度対戦があり、服部の2勝1敗だ。

今期の黒田はここまで9勝4敗。成績として突出しているわけではないが、7割近い勝率を上げているのはさすがである。居飛車振り飛車と何でもござれのオールラウンダーで、ここまでの新人王戦では後手三間飛車、先手四間飛車、先手中飛車を居飛車で迎え撃つ、相掛かりをそれぞれ指している。相手に作戦を読ませにくくしているというのは番勝負におけるアドバンテージだろう。

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写真:名人戦棋譜速報より

棋風はどの戦型においても攻め将棋。第1図は準決勝の対阿部戦だが、ここからの▲9五歩△同歩▲9三歩△同香▲4五桂△4二銀▲6五桂△3三桂▲同桂成△同角▲9二歩という手順にも攻め将棋の棋風が表れている。

【第1図は△3四歩まで】

対する服部の今期成績は圧巻だ。ここまで26勝8敗と、対局数と勝ち数で全棋士中トップを走っている。直近では準公式戦のABEMAトーナメント決勝戦で、3連闘3連勝を達成し、チーム稲葉の優勝に大きく貢献したのは記憶に新しい。また昨年度の加古川青流戦で優勝しており、大舞台での経験では黒田の一歩先を行く。

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居飛車党だが、定跡にとらわれずに力戦調の将棋を好むタイプだ。そして名字から来ているあだ名が「忍者服部」。非勢になっても相手が迷う順を指してあわよくばの逆転を狙う。第2図は準決勝の齊藤戦、ここで頑張るなら△4三銀打だが、それでは勝ち目がないと見たか、△5七桂成▲同玉△4八角▲6七玉△6八桂成と切り込む。▲同玉に△5七銀▲7七玉△6六銀成▲8八玉△7七金から先手玉を即詰みに打ち取って逆転勝ち。△6八桂成に▲同金ならば先手勝ち筋だったが、△8七飛成以下の順を正確に読む必要があるので、残り時間が少ない状況では致し方ない部分もあるだろう。

【第2図は▲3四桂打まで】

改めて三番勝負について考えると、対戦成績や今期の成績では服部に分があると言えそうだが、逆に黒田は対局数が少ない分、相手に自身の傾向を読ませにくいというメリットはありそうだ。上記でも触れたが、オールラウンダーであることもそれに拍車をかけている。両者で戦われた直近の公式戦は昨年6月の竜王戦(服部勝ち)だが、今年の8月に行われたABEMAトーナメントのチーム稲葉対エントリーチームで、▲服部―△黒田戦が実現している。この時は服部が黒田の三間飛車を破ったが、黒田にとってはその借りを返す絶好の機会だ。まずは黒田が居飛車を選ぶか飛車を振るか。バラエティに富んだ戦型が見られそうなシリーズである。三番勝負の第1局は10月3日(月)に、関西将棋会館で行われる。

相崎修司

ライター相崎修司

2000年から将棋専門誌・近代将棋の編集業務に従事、07年に独立しフリーライターとなる。2024年現在は竜王戦、王位戦・女流王位戦、棋王戦、女流名人戦で観戦記を執筆。将棋世界などにも寄稿。

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