チーム康光VSチーム天彦 第5回ABEMAトーナメント~予選Dリーグ第一試合振り返り~

チーム康光VSチーム天彦 第5回ABEMAトーナメント~予選Dリーグ第一試合振り返り~

ライター: 紋蛇  更新: 2022年06月23日

 6月18日(土)19時に放映された第5回ABEMAトーナメント予選Dリーグ第1試合、チーム康光「枝豆」(佐藤康光九段・郷田真隆九段・先崎学九段)、チーム天彦「HADO」(佐藤天彦九段・梶浦宏孝七段・佐々木大地七段)の戦いを振り返る。

【第1局▲梶浦宏孝七段-△郷田真隆九段】

【第1図は▲8四馬まで】

 先発は郷田と梶浦。相掛かりで郷田が飛車を取られるのをうっかりしたものの、幸運にも勝負になる順が残っていた。寄せ合いに持ち込み、1図は▲8四馬と王手されたところ。△5二玉に▲3三香が厳しそうだが、郷田は△4四角▲3二香成△1一角▲4二金△6一玉と際どくしのぐ。先手の持ち駒に金がないため、後手玉は詰まない。梶浦は△6一玉に▲8五桂△6九飛▲3八玉とプレッシャーをかけるも 、△6八飛成▲2七飛△3六歩▲7三桂成△3七歩成▲同飛△2八金で投了に追い込まれた。飛車で銀を取らずに6八に成って詰めろをかけるのが正解で、△3六歩から一手一手の寄り。最後の△2八金で先手玉は詰み筋に入っている。

5abema_0618playback_01.jpg

 チーム天彦の控室では、天彦が「香に角で『ゴラァ』が郷田流」と▲3三香に△4四角を予想していた。郷田らしい切り合いの好手順だったといえるだろう。
 郷田は連投で第2局で佐々木に勝つ。そこからチームが2連敗するも、第5局でまたも梶浦をくだして流れを引き戻した。康光も「枝豆、好きなだけ御馳走しますので」と拍手で讃えた。

【第8局▲佐藤康光九段-△佐々木大地七段】

5abema_0618playback_02.jpg

 第6、7局は先崎の連投に天彦、梶浦が勝ってリーチをかける。残っているのはチーム康光がリーダーのみ、チーム天彦が天彦1回・佐々木1回で、佐々木が第8局に出場した。

【第2図は△4五歩まで】

 康光が先手で矢倉を目指し、佐々木が流行の中住まいから千日手模様で待つ。第2図は先手が4筋から仕掛けたのに対し、後手が中央から反発して手を戻したところだ。このまま△5四歩▲4四歩△同銀▲同銀△同角から収めれば後手ペースになる。しかし、先手を持つのは康光。第2図から▲5六金!と力強く攻め駒を足した。以下△8六歩▲同歩△5四歩とされても、▲4四歩△同銀▲同銀△同角 に▲4五桂のぶつけが金上がりを生かした継続手で、△8五歩に▲3三桂成△同角▲4四歩(△同角は▲4五金から▲4四桂)が気持ちのよい手。

 リーダーが若手強豪を圧倒するパワフルな指し回しに、控室では先崎が元気を取り戻していた。2回の天彦戦はどちらも熱戦ながらあと1歩が届かず、3連敗に「人としてクズでだめかと思った」のぼやきも漏れていたが、郷田に「考えすぎなんだよ~」と慰められ、検討中に終盤の寄せをいち早く見つけると「見えてんじゃ~ん。なんだよ~」と優しい言葉をかけられていた。チーム戦、そして30年以上の付き合いがある同世代ならではの光景だったと思う。

5abema_0618playback_03.jpg
ブランコで童心に帰るチーム康光

【第9局▲佐藤康光九段-△佐藤天彦九段】

 最終局はリーダー同士の対決。振り駒の結果、康光が先手、天彦が後手に決まった。作戦会議で天彦は「(佐々木を倒した康光の)矢倉はやはり強敵となると......」と2手目△3四歩で矢倉の回避を示唆する。対局は初手から▲7六歩△3四歩▲2六歩△8四歩で横歩取りかと思いきや、康光が▲6六歩△8五歩▲7七角で回避し、結局は相矢倉に進んだ。康光が主導権を握って攻めるも、天彦が入玉を目指して盛り返した。

【第3図は▲3四歩まで】

 第3図は角筋を通して▲1三角成を狙った。△3五香と防ぐのは▲3三銀で食いつかれる。実戦の△5五香▲6六飛 △5七歩が明るい受けで、5筋で角の利きを止めれば 後手は上部に脱出しやすい。実戦は△5七歩に▲5六桂△同香▲同飛と何とか角を復活させようとするも、△6五桂が遊び駒を使って歩を絶品。康光も必死に食いつこうとしたが、天彦が入玉を確定させてから寄せに転じてチーム勝利をつかみ取った。局後に康光が「この将棋を負けちゃうのは衝撃だった」と振り返ったように、天彦がペースをつかまれながらもギリギリでしのいだ力が光る。天彦はチーム勝利を次のように総括した。
「チーム全員が1回ずつ勝つことができてよかった。ABEMAトーナメントは1回勝たないと精神的につらいところがあるので、みんなで助け合いながらチーム戦で勝つことができのがよかった」

5abema_0618playback_04.jpg
第9局を制し、チーム勝利を決めた佐藤天彦九段

【総合成績】
第1局 郷田〇-●梶浦
第2局 郷田〇-●佐々木
第3局 先崎●-〇天彦
第4局 康光●-〇佐々木
第5局 郷田〇-●梶浦
第6局 先崎●-〇天彦
第7局 先崎●-〇梶浦
第8局 康光〇-●佐々木
第9局 康光●-〇天彦
総合   4勝-5勝

【個人成績】
康光九段  1勝2敗
郷田九段  3勝0敗
先崎九段  0勝3敗
天彦九段  3勝0敗
梶浦七段  1勝2敗
佐々木七段 2勝1敗

ABEMAトーナメント

紋蛇

ライター紋蛇

2012年より、ネット中継に携わる。担当局で一番長い中継が2013年3月の第71期順位戦C級1組の森けい二九段-近藤正和六段戦で、持将棋の末指し直しとなり、終局時刻は翌日の朝5時40分。「中継は体力だ」と痛感している。

このライターの記事一覧

この記事の関連ワード

  • Facebookでシェア
  • はてなブックマーク
  • Pocketに保存
  • Google+でシェア

こちらから将棋コラムの更新情報を受け取れます。

Twitterで受け取る
facebookで受け取る
RSSで受け取る
RSS

こんな記事も読まれています