チーム永瀬VSチーム羽生 第5回ABEMAトーナメント~予選Aリーグ第一試合振り返り~

チーム永瀬VSチーム羽生 第5回ABEMAトーナメント~予選Aリーグ第一試合振り返り~

ライター: 紋蛇  更新: 2022年04月20日

 4月16日(土)に放映された第5回ABEMAトーナメント予選Aリーグ第1試合、チーム永瀬「川崎家」(永瀬拓矢王座、増田康宏六段、斎藤明日斗五段)とチーム羽生「トワイライトゾーン」(羽生善治九段、佐藤紳哉七段、中村太地七段)の戦いを振り返る。
 初戦は増田-佐藤で増田勝ち、2局目は斎藤-中村で中村勝ちのタイで3局目を迎えた。対戦カードは永瀬-羽生のリーダー対決である。

【第3局 永瀬拓矢王座-羽生善治九段】

 永瀬と羽生は公式戦で対局数を重ねているが(永瀬の12勝4敗で5連勝中)、フィッシャールールで指すのは初めてだ。
 戦型は相掛かりに進み、永瀬が緩急をつけた指し回しでリードを奪おうとするも、羽生が受けの妙技を見せた。

【第1図は▲2一角まで】

 第1図は角を打ちこんだところ。狙いは▲3二角成△同飛▲2三歩成△同歩▲同飛成で、それを受けようと△4一玉は▲4四歩と力をためられる。残り時間は永瀬1分6秒、羽生1分19秒で、羽生は42秒考えて△4三角と受けた。▲2六飛なら、△5五歩の桂取りが▲4四歩に△5四角も用意する攻防手でぴったりになる。永瀬は△4三角に▲3四歩△同角▲3五飛△3一金▲4三角成△同角▲3三飛成(第2図)と攻めた。

【第2図は▲3三飛成まで】

 一見、第2図は竜を作った先手が好調に見える。しかし羽生は△3二金と上がって追い返し、▲3六竜に△5五歩と急所を突く。以下▲4四桂△3五歩▲同竜△3四歩▲4五竜△3三金▲4七竜△3五角(第3図)と進んだ。

【第3図は△3五角まで】

 ▲4四桂と攻めに使われても、歩で3筋をカバーしてから△3三金で受かっている。さらに最後の角打ちが△5六歩と△3五角を狙った絶妙手で、先手の攻めが切れて後手優勢になった。永瀬は粘りに粘ったが、羽生が押し切っている。
 バラバラの陣形で受けに回るときはかなり間違えやすい。しかも持ち時間の少ないフィッシャールールだ。第1図から第3図に至るまでに羽生は残り10秒を切ったときもあったが、正確な指し回しでリードを拡大している。百戦錬磨の強さが印象に残った一局だった。

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3局目▲永瀬-△羽生戦

【第8局 斎藤明日斗五段ー佐藤紳哉七段】

 第6局まで一進一退の攻防が続き、どちらも3勝3敗と譲らない。第7局は増田ー中村戦で増田が勝ち、チーム勝利まであと1勝とした。増田はこの日が初の3連勝で、出場を重ねるごとに力をつけているのがうかがえる。  第8局は斎藤-佐藤戦で、どちらも初白星が欲しい。斎藤はチームの作戦会議で「(先手の佐藤が)矢倉でくるんですかね。やりたいことがあるので、それでいこうかと思います」と話し、横歩取りに誘導した。公式戦でも指しているものの、2021年度は後手で1局しか採用していない。チーム羽生の作戦会議では、斎藤の2手目△8四歩で佐藤が矢倉を目指すと予想していたため、斎藤の2手目△3四歩を見ると羽生と中村から苦笑の声が上がった。  中盤は斎藤がリードを奪うも、形勢も時間も追い込まれた佐藤が踏ん張って逆転に成功した。

【第4図は△6五歩まで】

 第4図は歩を打って▲6一飛成の詰めろを受けたところで、残り時間は▲佐藤11秒、△斎藤7秒。クライマックスに解説の石井健太郎六段も「うわぁ、なんか先手が勝ちになってそうですけど。ただ、決めきれるか」と熱を帯びる。
 第4図で佐藤は▲2二飛成△同金に▲4二銀から詰ましにいく。以下△3二玉▲3三香成△同金▲同銀成△同玉▲4五桂打△2四玉▲2五歩△3五玉と進むと、後手玉が広くなり、1七の馬が攻防によく働いていて詰まない。先手は後手にたくさん駒を渡したため、逆に自玉に詰めろがかかって振りほどけなくなっている。佐藤は王手ラッシュを続けるも、斎藤は正確に逃げきった。
 佐藤は秒読みに泣く結果になってしまった。4図から△3五玉までの手順中、実戦の▲2五歩では▲3四金△1四玉▲1五歩△同玉▲1六歩△同馬▲同飛△同玉▲1八香△1七香▲2八桂△2六玉▲2七歩なら詰んでいたが、秒読みのなかでかなり読みにくい詰み筋だ。4図では▲2二飛成ではなく、▲3三香成△同銀▲4五桂のほうがわかりやすかっただろう。桂跳ねが詰めろかつ玉の逃げ道を広げる攻防手になっていて手堅い。
 斎藤は辛勝ながらも、局後のインタビューに「よかったです。本当に何が何でも勝ちたかったので。内容は本当に最後の一局はかなりひどかったんですけど、一安心ですね」と安堵の表情を浮かべた。
 チーム永瀬は3年連続の本戦出場に向けて好発進。チーム羽生は苦しいスタートになったが、チーム三浦(三浦弘行九段・池永天志五段・伊藤匠五段)との対戦で挽回したい。

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第8局のチーム羽生の控室。棋士がチームメイトの指し手に一喜一憂する姿を見られるのも、ABEMAトーナメントの魅力のひとつだ。画像は斎藤五段の2手目△3四歩に苦笑する様子

【総合成績】
第1局 増田〇-●佐藤(第1局はチーム永瀬が先手番。以下は交互)
第2局 斎藤●-〇中村
第3局 永瀬●-〇羽生
第4局 増田〇-●佐藤
第5局 斎藤●-〇中村
第6局 永瀬〇-●羽生
第7局 増田〇-●中村
第8局 斎藤〇-●佐藤
総合  5勝 ― 3勝

【個人成績】
永瀬王座 1-1
増田六段 3-0
斎藤五段 1-2
羽生九段 1-1
中村七段 2-1
佐藤七段 0-3

ABEMAトーナメント

紋蛇

ライター紋蛇

2012年より、ネット中継に携わる。担当局で一番長い中継が2013年3月の第71期順位戦C級1組の森けい二九段-近藤正和六段戦で、持将棋の末指し直しとなり、終局時刻は翌日の朝5時40分。「中継は体力だ」と痛感している。

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