輝く新星・第52期新人王戦三番勝負展望

輝く新星・第52期新人王戦三番勝負展望

ライター: 夏芽  更新: 2021年10月02日

 若手棋士の登竜門として50年以上の歴史を持つ新人王戦(しんぶん赤旗主催)。過去には羽生善治九段、森内俊之九段、渡辺明名人、藤井聡太王位・叡王・棋聖など、のちにタイトル戦で活躍する多くの棋士が、この棋戦で優勝の栄冠を手にしている。

 今年、第52期の決勝三番勝負は、伊藤匠四段と古賀悠聖四段の顔合わせになった。両者は、同じ2020年10月に四段になったプロ入り同期の間柄。それから1年、今度は初の棋戦優勝をかけて争う。

最年少棋士・伊藤匠四段

 伊藤匠四段は2002年生まれの18歳。現在の全棋士の中で最年少である。デビューから1年の通算成績は27勝10敗、勝率0.729という高い数字を維持している。

52shinjin_outlook-01.jpg
写真:生姜

 伊藤の強さを印象づけたのは、やはり先日放送を終えた第4回ABEMAトーナメント(準公式戦)だろう。同学年の藤井聡太王位・叡王・棋聖、先輩棋士の高見泰地七段と3人でチームを組んで見事優勝。伊藤もポイントゲッターとして大きく貢献した。

 今期の新人王戦は3回目の出場。初戦から順に加藤桃子女流三段、相川浩治三段、古森悠太五段、齊藤優希三段に勝ち、決勝進出を決めた。

【第1図は△7八金まで】

 第1図は準決勝、前期の準優勝者である齊藤三段との一戦から。

 △7八金の王手に対し、素直に▲同玉は△7六飛▲6九玉△5七桂と迫られて危ない。実戦は△7八金に▲8六玉と逃げ、以下△9四桂▲8七玉△8六金▲7八玉△7六飛▲6九玉と、相手の持ち駒を使わせてから金を取ったのが正確な対応だった。これで後手は王手が続かず、最後は伊藤が長手数の即詰みに打ち取っている。

 伊藤は第1図の局面で持ち時間を残していたが、終局までの間、ほとんど時間は使っていない。決断のよさ、正確な終盤力が大きな武器と言える。

フリークラスを抜けた古賀悠聖四段

 古賀悠聖四段は福岡県福岡市生まれの20歳。中田功八段門下で、兄弟子の佐藤天彦九段は、この新人王戦で2回の優勝歴がある。

52shinjin_outlook-02.jpg
写真:夏芽

 古賀は第65回と第67回の三段リーグで次点を2回獲得し、フリークラスの四段の道を選んだ。フリークラスの棋士が昇級するには、規定の条件を満たす必要があり、各棋戦でコンスタントに勝たなければならない。それを古賀はわずか1年という短期間でクリアした。

 今期の新人王戦は2回目の出場。初戦から順に西山朋佳女流三冠、青嶋未来六段、出口若武五段、梶浦宏孝七段に勝ち、初めての番勝負に臨む。

【第2図は▲3三桂まで】

 第2図は準決勝の梶浦七段戦。C級2組への昇級を決めた記念すべき一局だ。

 ▲3三桂は角道を止める狙いの犠打で、△同歩は▲6七金で竜を取られてしまう。実戦は▲3三桂以下△7九銀▲同玉△6八銀▲8八玉△3三角と進んで後手優勢に。銀を1枚捨てて△6八銀と打つ形を作ったのが好手順だった。

 ここまで実力者ぞろいの相手に勝ち上がってきており、その追い風を背に10年ぶりに福岡の地に新人王の知らせを届けたいところだ。

三番勝負の展望は

 両者は今回の三番勝負が公式戦での初顔合わせ。三段リーグでは3度対戦し、古賀が2勝1敗と勝ち越している。

 居飛車党である点は共通しており、おそらく三番勝負の戦型も相居飛車が濃厚。ただし、伊藤は先手番だと相掛かり、古賀は先手番だと矢倉を得意としている。準決勝までの一発勝負と違い、三番勝負では、そういった先後を踏まえた作戦選びも重要だ。そして、どの戦型になったとしても、両者、攻め将棋である点は変わらないだろう。

 注目の三番勝負は10月4日(月)に開幕。新人王戦にふさわしい、若々しい熱戦が期待される。

52shinjin_outlook-03.jpg 52shinjin_outlook-04.jpg
昨年の新四段の記者会見にて 写真:日本将棋連盟

夏芽

ライター夏芽

2011年から関西を拠点にインターネット中継記者として活動。将棋は指すより見て楽しむタイプ。暇さえあれば書店の将棋コーナーに足を運んでいます。

このライターの記事一覧

この記事の関連ワード

  • Facebookでシェア
  • はてなブックマーク
  • Pocketに保存
  • Google+でシェア

こちらから将棋コラムの更新情報を受け取れます。

Twitterで受け取る
facebookで受け取る
RSSで受け取る
RSS

こんな記事も読まれています