「不倒」対「百折不撓」最強の受け将棋はどちらか 第69期王座戦五番勝負展望

「不倒」対「百折不撓」最強の受け将棋はどちらか 第69期王座戦五番勝負展望

ライター: 生姜  更新: 2021年08月30日

【受け将棋同士の対決】

9月1日(水)からいよいよ第69期王座戦五番勝負が開幕します。対局場は宮城県仙台市「ホテルメトロポリタン仙台」です。両者の対戦成績は3勝3敗2千日手と成績が拮抗しています。しかしトップ棋士同士の対戦では少なめといえるでしょう。その中で2千日手は熱を感じさせますね。今シリーズでの千日手も十分考えられます。

両者の共通点はズバリ「受け将棋」です。永瀬拓矢王座は相手の攻め駒を丁寧にむしり取り、全滅させるような指し回しを武器としています。対する木村一基九段も「千駄ヶ谷の受け師」の異名を持つ受け将棋です。相手の攻め駒を責めて相手に力を出させない指し回しは天下一品。筆者も両者の受けっぷりには憧れました。ただ、受け将棋はある技術も必要です。

それは決して妥協しない積極的な指し回しです。わずかな隙があれば、リスクを承知ですかさずとがめにいきます。模様が悪くなった相手は無理気味にいきおい攻めかかってきますが、そこをしめしめとばかりに徹底的に受け潰すのです。これが両者に共通する勝ちパターンと分析します。

【不倒の永瀬王座】

前置きが長くなりましたが、それでは両対局者について取り上げていきます。

永瀬王座は2019年に当時の斎藤慎太郎王座を3勝0敗で破り、王座を奪取しました。20代ながら二冠を保持した経験があります。将棋に対して努力を惜しまないストイックな姿勢に感銘を受けた方も多いかもしれません。「不倒」が身上で、根性なら誰にも負けないといっても過言ではないでしょうか。昨年度の王座戦では挑戦者久保利明九段にフルセットの末、防衛を果たし、精神力の強さと底力を見せました。

【第1図は▲7五歩まで】

防衛を決めた第5局を紹介します。第1図から△5四歩が妥協しない踏み込みでした。▲5四同歩に△8八角成▲同銀△4五角と積極的に攻めかかります。大乱戦の恐れがある怖い順ですが、永瀬王座の自信がうかがえますね。以下▲3八玉△6七角成▲7七桂△5三歩▲7四歩△5八馬▲同金左△5四歩(第2図)と局面を落ち着かせます。ゆっくりした展開になれば手持ちの飛車が大きいのです。

【第2図は△5四歩まで】

よって久保九段は第2図から▲4六角△9二飛▲1五歩△同歩▲1三歩と攻めていきますが、△3一金と寄って丁寧に攻めを潰していき、永瀬王座のペースになって完勝を収めました。これぞ永瀬将棋です。実際はそこから勝ちきるまでが大変なのですが、あっさりと勝っているように見えてしまいます。これは底知れぬ努力の賜物によるものでしょう。

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撮影:常盤秀樹

【百折不撓の木村九段】

挑戦者の木村九段は2019年に初タイトルの王位を獲得しました。2005年に32歳でタイトル戦初出場を果たしてから6回連続で奪取に失敗。年齢的にピークは過ぎたかと思われましたが、諦めずに研鑽を積んだ結果、ついに46歳で実を結んだのです。まさに「百折不撓」を体現しています。現在はそのころよりもさらに勉強量が増えたとのこと。初タイトル獲得で満足せず、さらに進化しようとする姿勢が今回の結果に結びついたのではないでしょうか。

佐藤康光九段との挑戦者決定戦の将棋を振り返ってみましょう。

【第3図は△3一角まで】

第3図は序盤の駒組みが飽和状態に差し掛かっている局面です。形勢はこれからの勝負に思えますが、先手の右玉に対して△4五歩と玉頭を攻める主張があり、後手がまずまずの局面を迎えているのです。木村九段の立ち回りが秀逸でした。以下▲9七角△5三角▲2五桂△同桂▲同飛△3三金上(第4図)と進みます。

【第4図は△3三金上まで】

木村九段らしい力強い金上がりです。△2四歩から飛車を追い、△3二玉~△2一飛の筋を見せられて先手は無理気味でも攻めなくてはいけません。以下▲2九飛△2四歩に▲6五歩と動きましたが、△6五同歩▲5三角成△同金▲7五歩△同歩▲8六桂△7六歩▲同銀△7四歩▲7二歩△同銀▲7四桂△5二玉(第5図)

【第5図は△5二玉まで】

△5二玉ときっちり受け止めにかかります。持ち味を発揮できる展開に持ち込みリードを奪いました。

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撮影:常盤秀樹

【序盤の研究に注目】

どちらが序盤で隙を作らずにペースを握るのか。まずはここが注目ポイントです。現在は多くの棋士がAIを使って研究しているので、作戦勝ちを収めるのも大変な時代。最近のタイトル戦ではさらにその傾向が高まっているように思えます。両者の研究は恐らく膨大なもので、一見意味のわからない手も出てくると予想されます。そのハイレベルな攻防を堪能してみてはいかがでしょうか。
中盤戦からは熱のこもったねじり合いが予想され、「うわー」と声が出そうな受けも飛び出るかもしれません。研究手順の先の人間味あふれる指し回しにも期待が高まります。

両者とも開幕戦に向けていまもひたむきに努力を続けていることでしょう。オリンピックは終わりましたが、将棋界は熱い戦いが続きます。頭脳の祭典にもぜひ熱い応援を贈ってくだされば幸いです。

生姜

ライター生姜

1993年生まれ。将棋連盟モバイルを中心に活動する中継記者。2018年現在は最年少の記者。棋士の食事注文に肉生姜焼き定食があると反応する。

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