ライター渡部壮大
将棋の月刊誌、週刊紙、書籍などの編集部に在籍経験あり。
アマチュア大会の最高成績は全国ベスト16だが、もう少し上に行けないかと日々努力中。
ライター: 渡部壮大 更新: 2021年07月16日
渡辺明名人に斎藤慎太郎八段が挑戦した第79期名人戦七番勝負。渡辺は初防衛、斎藤は初の名人挑戦だ。昨年はコロナ禍により開幕が遅れ、対局場も多く変更が行われたが、今年は例年通りの開催となった。
第1局は恒例となっている東京都文京区「ホテル椿山荘東京」にて。斎藤が先手で矢倉からじっくりとした戦いになった。渡辺が優位に進めていたが、斎藤も粘って次第に局面は混とんとしていく。
【第1図は△2七歩成まで】
図はついに逆転したところ。ベタっと▲3四金と打ち、△1五馬に▲2三歩とプレッシャーを掛ける。金駒のいない穴熊は粘るのが難しい。以下△3八と▲2四香△3一銀▲1九飛△4八と▲同金△2六馬に▲3二歩が間に合って先手の一手勝ちだ。斎藤が逆転勝ちで先勝。
写真:中野伴水
第2局は福岡県飯塚市「麻生大浦荘」にて。相掛かりから早い段階で戦いとなったが、渡辺が巧みにリードを奪う。
【第2図は△9三同桂まで】
ここで▲7四歩が急所を突いた攻め。△8五桂▲7六銀と▲9五飛を消してから△7四歩と手を戻したが、▲7三歩△同銀▲8五銀△同歩▲7三馬△同玉▲8五飛とさわやかに攻めて先手優勢だ。以下押し切って渡辺が快勝。
写真:武蔵
第3局は愛知県名古屋市「亀岳林 万松寺」にて。第1局に続き斎藤が矢倉を志向したが、今度は急戦で動いていく。しかしうまく立ち回ったのはまたも渡辺で、局面をリードする。
【第3図は▲7二成銀まで】
次に▲6一飛成の詰めろが掛かっているが、先手の手駒も少ない。△5三歩▲7三角成△4一飛が勝ちを読み切った受け。▲同飛成から3~2筋に逃がしては捕まらないので▲2三桂とつないだものの、△3一飛▲同桂成に△5七桂まで先手投了。桂を手放したので▲7八玉に△5八飛以下先手玉は詰んでいる。
写真:飛龍
第4局は長野県高山村「緑霞山宿 藤井荘」にて。矢倉の出だしから本局は力戦となった。コンピュータの評価値上では先手が有利に進めていたが、実戦的には際どい攻め合いが続いていく。
【第4図は△6五金まで】
急所の銀を外して後手に流れが傾いたところ。ここで▲5六銀打が粘り強い。実戦は△6六銀▲4六玉△5六金▲同銀△5五銀打▲3六玉△5六銀と進んだが、▲3四角△4三金▲6四桂△6三玉▲5六角と外した手が好防手で先手が抜け出した。途中の△5五銀打では△3四歩と▲3四角を消す好防手も考えられたようだ。大激戦を制した渡辺が3勝1敗と追い込んだ。
写真:玉響
第5局は神奈川県箱根町「ホテル花月園」にて。渡辺の雁木に斎藤は右四間から激しく攻め立てていく。ペースをつかんだ斎藤だが、封じ手の2択が問題だった。
【第5図は△8七歩まで】
▲8七同金か▲8九金の2択だが、斎藤はどちらも少し指せると判断して▲8九金を選んだものの、△3七角▲6九玉△6二歩の局面は激戦になっている。以下は斎藤の攻めを受け止めて渡辺が逆転し、そのまま勝ち切った。図では▲8七同金と応じるべきで、△3七角に▲8五歩△同飛▲7七銀と強く桂を取りにいけば先手良しだった。以下△4八角成▲同金△7八飛▲6九玉△4八飛成には▲1五角がある。
渡辺は4勝1敗で名人初防衛。今年初めから続いた年下相手の防衛3連戦を充実の内容で乗り切った。
写真:睡蓮
ライター渡部壮大