チーム渡辺VSチームエントリー 第4回ABEMAトーナメント~予選Eリーグ第三試合振り返り~

チーム渡辺VSチームエントリー 第4回ABEMAトーナメント~予選Eリーグ第三試合振り返り~

ライター: 相崎修司  更新: 2021年07月19日

 7月17日(土)に放映された第4回ABEMAトーナメントの予選Eリーグ第三試合、チーム渡辺「ホームラン」(渡辺明名人、戸辺誠七段、近藤誠也七段)対チームエントリー「わっしょい」(小林裕士七段、梶浦宏孝七段、藤森哲也五段)の団体戦の模様をお送りする。

 Eリーグはチーム斎藤が一足早く予選を終えて、勝ち点がプラスマイナス0。そして「ホームラン」が+3、「わっしょい」が-3となっている。「相当追い込まれている状況なので、チームエントリーとして力一杯頑張りたいと思います」とは土俵際に立たされている小林の意気込みだ。

 第1局は戸辺―小林戦で、振り駒の結果、戸辺の先手となる。開始前「状況的にはこっちが有利ですけど、あっちは火がつくと乗るタイプなので、こっちも最初から気合を入れてきましょう」と渡辺が檄を飛ばした。対局の内容は戸辺が得意のゴキゲン中飛車から猛攻をかけ、最後は入玉する小林玉を捕まえて勝利した。続く第2局は近藤―藤森戦で、相穴熊となる。これは両チームの共通した予想だった。結果は「初戦、戸辺さんが勝ってくれたので、だいぶ気が楽な状況で臨めましたね」という近藤が快勝し、チームの予選通過に王手をかけた。

【第3局 渡辺明名人―梶浦宏孝七段】

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 第3局、「ホームラン」は渡辺が出陣し、リーダー自らが決めに行った。対して2連敗で後がなくなった「わっしょい」は梶浦が登場。将棋は相矢倉となったが、中盤で戦機をつかんだ梶浦が局面をリードして、最終盤の第1図を迎える。一目、後手玉に受けはなく、先手玉が詰むや詰まざるやだが......。

【第1図は▲5八玉まで】

 実戦はここから△5七金▲5九玉△5八金打▲同飛△同金▲同玉△4七歩成▲同玉△4九飛と進んだが、これは後手の駒不足が明らかとなり、先手玉は詰まない。以下▲3八玉△3九飛成▲2七玉△2九竜▲2八歩の局面で梶浦が駒を投じ、「ホームラン」の予選通過と「わっしょい」の敗退が決まった。

 終局直後の作戦部屋からは「いやすごいね」「ふう」「詰まなかったのかな」「すごい迫力だった」と熱戦を称える声が上がった。「これで一応、大将の面目は保てたかな」とは終局直後の渡辺。
 第1図の先手玉に詰みはない。だが△4七歩成▲同玉(他は詰み)△5六馬という順があった。▲3七玉に△3六金▲4八玉△4七金▲5九玉と先手玉の上部を制圧してから△3四馬と攻めの要の桂を抜くのである。これで後手玉は詰まず、先手玉には△5八金打で清算してから△4六桂という順の詰めろが掛かっている。梶浦にとっては惜しい敗戦だった。「チームの敗退が決まったのは申し訳ないですけど、1勝でも多くあげられるよう、頑張っていきたい」と語った。

【第4局 藤森哲也五段―戸辺誠七段】

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 団体戦の勝敗は決まったが、それぞれの個人のプライドのためにも、負けられない戦いは続く。第4局は戸辺―藤森で「一度は指したかった」(藤森)という実況者対決が実現した。「(藤森が得意の)直線一気の展開にならないように」(戸辺)、「気持ちの良い攻めを、戸辺攻めじゃなく藤森攻めを見せたいと思います」(藤森)と、それぞれが意気込みを語った。

【第2図は▲7二金まで】

 相穴熊から迎えた第2図。ここで戸辺が打った△6二飛は穴熊ならではの受けの手筋。▲同金ならばその瞬間の後手玉が絶対に詰まないため、△7七歩成で後手が勝つ。藤森も当然そんなことはわかっているので、▲8一金△同玉と、後手玉に王手がかかる形を維持した。

実戦は以下▲5一飛△6一金▲同飛成△同飛▲7四桂△7三角▲6二金△同角▲6三金△7一金▲6二金△同金▲8二桂成△同玉▲5五角......と力の入った攻防が続くが、最後は178手の熱戦を戸辺が制し「いい将棋が指せてよかったです」と振り返った。

 ▲5一飛では▲6三歩があったか。詰めろであるため△7七歩成の余裕はない。△6三同飛に▲5一飛と打てば、△6一金には▲7四金が飛車取りになる。以下△5一金▲6三金は先手玉が詰まず、後手玉の受けが難しく、先手勝勢だ。

【第5局 近藤誠也七段―梶浦宏孝七段】

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 第5局は近藤―梶浦戦。お互いが対局前に「一緒に競馬に行った」と口をそろえ、小学生時代から交流のある仲だが、そのような関係であるからこそライバル意識は強い。相掛かりから迎えた第3図

【第3図は△7三桂まで】

 ここでは先手の近藤が優勢だが、次の▲8六飛がまずかった。対する梶浦の△7五角が好手で、▲8二銀成には△8六角が王手になるし、▲8七飛は△8六歩と打たれてまずい。実戦は▲7六飛だが、△8三金▲同歩成△同飛とキズなく8筋を収めてしまえば駒得の実利が後手に残る。第3図では▲8二銀成△8五桂▲7二成銀△同角▲4五桂ならば先手が有利を維持できていた。△8三同飛以下も的確に指し、勝ち切った梶浦がチームに初白星をもたらした。

 だが、「わっしょい」の奮闘もここまで。第6局の渡辺―梶浦戦は、角換わりの将棋を渡辺が制して、5勝1敗で勝ち越しを決めた。

予選Eリーグ第三試合の最終結果は以下の通りである。
第1局 戸辺○―●小林
第2局 近藤○―●藤森
第3局 渡辺○―●梶浦
第4局 戸辺○―●藤森
第5局 近藤●―○梶浦
第6局 渡辺○―●梶浦
総合 「ホームラン」5勝―1勝「わっしょい」

 この結果、Eリーグの予選1位は勝ち点を+7としたチーム渡辺で、プラスマイナス0のチーム斎藤が2位となり、それぞれ本戦進出を決めた。

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 次週からはいよいよ本戦トーナメントがスタートする。開幕戦は予選Bリーグ2位のチーム糸谷「FREESTYLE」対予選Cリーグ2位のチーム羽生「in the ZONE」というカードだ。そして本戦からは全ての対局が生放送となる。7月24日(土)17:00~の放映をどうぞお楽しみに。

ABEMAトーナメント

相崎修司

ライター相崎修司

2000年から将棋専門誌・近代将棋の編集業務に従事、07年に独立しフリーライターとなる。2024年現在は竜王戦、王位戦・女流王位戦、棋王戦、女流名人戦で観戦記を執筆。将棋世界などにも寄稿。

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