二冠同士の頂上決戦、始まる お~いお茶杯第62期王位戦七番勝負展望

二冠同士の頂上決戦、始まる お~いお茶杯第62期王位戦七番勝負展望

ライター: 武蔵  更新: 2021年06月28日

【待ちに待った対決】

 現在の将棋界八大タイトルのうち、半分が中京圏のとある県出身者に集まっているのをご存知だろうか。藤井聡太王位に豊島将之竜王(叡王)が挑戦するお~いお茶杯第62期王位戦七番勝負は、6月29日、30日(火、水)に、愛知県名古屋市「名古屋能楽堂」で開幕する。ともに愛知県出身、そして二冠同士の対決となった。

 昨年、王位と棋聖を奪取して史上最年少の18歳1カ月で二冠となった藤井は、今月6日(日)に開幕した第92期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負と並行して、過密な日程でダブル防衛に挑む。

 対して豊島は3期ぶりの王位奪還を目指す戦い。挑戦者決定戦に勝った豊島は、局後の記者会見で藤井について「自分の力が出るような展開にして、なんとかいい勝負にしたい」と挑戦者としての抱負を話した。タイトル戦では初顔合わせとなる両者。今期の王位戦も名勝負が期待される。どのような戦いになるだろうか。両者の最近の将棋をそれぞれ振り返りながら、七番勝負の見どころを探ってみよう。

【藤井の終盤力に裏づけされる時間の使い方】

 まず、藤井は棋聖戦五番勝負を第2局までを戦い終え、連勝で防衛にあと1勝と迫っている。

【第1図▲6六銀まで】

 第1図はヒューリック杯棋聖戦第2局の最終盤。挑戦者・渡辺明名人(棋王・王将)の攻めの面倒を見ていたかと思いきや、突然ギアを変えて▲6六銀と銀を捨て、寄せを目指した。△6六同金は▲3一馬△1二玉▲1四歩で先手よし。本譜は△4二歩と受けたが、▲7六角が働きの弱かった角を前線に繰り出す好手。一気に後手玉に牙をむき、そのまま押し切った。

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藤井聡太王位

藤井は中盤の早い段階からでも持ち時間を惜しみなく投入して考えるが、終盤では必ず数分を残して決断よく指し進める。この将棋も71手目から残り5分となるも、最後まで一分将棋に入ることはなかった。この独特な時間の使い方も確立されてきたように見える。終盤力に絶対の自信があるからこそ、中盤での難しい局面でしっかりと時間をつぎ込み、自分の納得いくまで読み進められるのだろう。ただ、王位戦は二日制の対局。一日で勝負が決まる対局とは、当然持ち時間の使い方も変わってくる。前期七番勝負では「持ち時間の使い方が難しかった」と話す場面があった。今期はタイトルを防衛する立場として、どのように調整してくるかが見どころのひとつだ。

【隙のない豊島の将棋】

 次に、豊島が王位挑戦を決めた羽生善治九段戦を振り返る。この将棋は羽生の積極策が目を引いた。

【第2図は▲2四歩まで】

 第2図はいきなり▲2四歩と突っかけた局面。突き捨ては戦いを起こすために突くものだが、今回は例外だった。△2四同歩に▲6八角と引き揚げ、後手の対応を△2四同歩に限定させる。今後戦いが起きれば△2四同歩の形が負担になるだろう、という考えだが、その工夫に豊島は難なく対応する。突き捨てを逆用して金銀4枚の金冠の堅陣に構え、玉形を整えたのが好判断だった。

【第3図は△4三金まで】

 第3図の局面はすでに先手から戦いを起こしにくい。現地での検討では「千日手濃厚」の評判で、「先手がどこから戦うかわからない」との声も聞かれた。△4三金に対して、羽生は▲5五歩から打開を図るも、豊島がきっちりと受け止めて勝ちきった。局後のインタビューで羽生に「2筋を突き捨てた(39手目▲2四歩)のが、もしかすると問題があったかもしれない。作戦の組み立てに問題があったような気がする」と言わしめるほどの、完璧な対応だった。「序・中・終盤に隙のない将棋」とは、豊島の棋風を紹介するときに多用される言葉だ。その魅力はこの番勝負で存分に楽しめるだろう。

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豊島将之竜王

ほかに、大きなポイントがひとつ。これまで新幹線での移動を主としていた豊島は、飛行機の移動を解禁した。体調の関係で空路での移動を避けていたが、治療によって改善が見られたようだ。遠方の対局となると陸路のみの移動では体力と時間、どちらも負担が大きい。空路での移動を可能にして、タイトル奪取を目指す意気込みが感じられる。

【雌雄を決するのは】

 封じ手にも注目が集まる。昨年の王位戦七番勝負では、木村一基王位(現九段)の提案で、第2局~第4局の間、通常は2通用意される封じ手を3通作成し、そのうちのひとつずつをオークションに出品。収益から実費を差し引いた全額が被災地支援に寄付され、大きな話題となったのは記憶に新しい。

 藤井が最も苦戦している相手が挑戦者に名乗りを上げた。豊島は対藤井戦で公式戦6連勝を記録し、その強さからファンの間では「ラスボス」という異名もついている。しかし、今年の1月にこの第1局が開催される同じ愛知の地で、ついに藤井が初勝利を挙げた。豊島は朝日杯での借りを返す絶好の機会を得たといっていい。

 藤井がタイトル保持者として成長を見せるか、豊島が貫禄を示すのか。両者が脳内で繰り広げる至極の名勝負を、胸躍らせながら楽しもう。

武蔵

ライター武蔵

2016年10月から、日本将棋連盟の中継スタッフとして働く。趣味は音楽鑑賞、野球観戦。サザンオールスターズと広島東洋カープの話になると、ただでさえ止まらないトークが、より勢いを増す。

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