チーム羽生VSチーム木村 第4回ABEMAトーナメント~予選Cリーグ第三試合振り返り~

チーム羽生VSチーム木村 第4回ABEMAトーナメント~予選Cリーグ第三試合振り返り~

ライター: 相崎修司  更新: 2021年06月08日

 6月5日に放映された第4回ABEMAトーナメントの予選Cリーグ第三試合、チーム羽生「in the ZONE」(羽生善治九段、佐藤紳哉七段、中村太地七段)対チーム木村こと「エンジェル」(木村一基九段、佐々木勇気七段、池永天志五段)の団体戦の模様をお送りする。

 第三試合開始時点における両チームの勝ち点は、「in the ZONE」が-3、「エンジェル」は+3。予選を一足先に終えたチーム豊島こと「スリースタービクトリーズ」の勝ち点はプラスマイナス0であるため、「in the ZONE」は予選突破のために5勝2敗以上の成績が求められる。そして「エンジェル」は第三試合で3勝を上げれば予選通過が決まる。

 チーム羽生の状況はどう考えても厳しいのだが、第一試合で「エンジェル」が、第二試合では「スリースタービクトリーズ」が見せた快進撃を、今回は「in the ZONE」が見せつけた。

 第1局は中村―木村戦。「思っていた以上に攻めてきましたね」と局後に佐々木がリーダーに語りかけたように、後手番ながら中村が積極的な順を見せ、大乱戦を制して白星スタート。続く第2局も「勢いを生かして」とチームメイトの推薦を受けた中村の連戦となり、今度は池永との熱戦を制した。

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第2局が終わって2連勝とニコニコの「in the ZONE」チーム

第3局 中村太地七段VS佐々木勇気七段

 第3局、「エンジェル」は3人目の佐々木が登場したが「in the ZONE」は何と中村の3連闘。同一棋士の3連続登場はトーナメント史上初である。3局目に臨むにあたり「勝っていると疲れは出ない」と中村は語ったが、盤上でその言葉を証明した。

【第1図は▲1五同香まで】

 第1図は▲佐々木―△中村戦の中盤戦。先手が端から動いた局面だが、ここで角取りを放置しての△3五歩が中村の用意していた切り返し。先手は勢い▲1三香不成だが△同香▲4五歩△1四飛と進み、逆に先手が1筋を受けにくくなっている。とはいえ第1図で先手が角を取らないと△1四歩を打たれてしまう。この△1四歩に備えるため▲1九飛も考えられるが、△1七歩の軽手があり、▲同飛に△3四飛と回られて次の△3六歩が受けにくい。△3四飛に▲3五歩は△同角が飛車当たりになるのが△1七歩の効果である。
 佐々木は△1四飛に▲1九歩と辛抱したが、△1八歩▲3五角△1九歩成▲7九飛△1八飛成▲5七玉△1七香成と1筋を破った中村が、そのまま成り駒を生かして攻め潰した。

 中村が3連勝。「本局に関してはすごくうまくいって、自分でもびっくりしています」と局後に振り返る。対して一瞬の戦機をつかれてそのまま押し切られた佐々木は「放送事故レベルの将棋でした。ひどいです」と自身に呆れるしかなかった。

 先鋒の大活躍で勝ち点をプラスマイナス0までに戻した「in the ZONE」は第4局で佐藤が登場。対して「エンジェル」は悪い流れを払拭すべく、リーダーの木村が出陣。相矢倉の真っ向勝負となったが、ここでは木村が貫録を示した。続く第5局、今度は「in the ZONE」が羽生リーダーの出陣となるも、佐々木が第3局の借りを返すかのような快勝劇を見せる。これで「エンジェル」は予選通過までマジック1となった。

第6局 羽生善治九段VS池永天志五段

 いよいよ剣が峰に立たされた「in the ZONE」。第6局は再び羽生が登場。池永との勝負は相矢倉となる。

【第2図は△1四歩まで】

 第2図は先手の飛車が狭そうだが、ここでの▲7五歩が軽妙。対して△4四歩と飛車を捕まえに行くのは▲7四歩△4五歩(角を逃げるのは▲8五飛)▲7三歩成△同桂▲7四歩で先手よし。池永は△8二飛と飛車回りに備えたが、▲7四歩△5一角に▲2三歩△同銀▲1一歩成△1三桂▲1五歩△同歩▲1四歩△同銀▲1五香と攻め立てた羽生が快勝し、勝ち越しへあと1勝とした。

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第6局を考えなが振り返る羽生善治九段

第7局 羽生善治九段VS佐々木勇気七段

 勝負の第7局。こうなると「in the ZONE」はリーダーに全ての命運を託す。対して「エンジェル」は佐々木が3度目の出陣となった。戦型は角換わりとなったが、途中は先手の佐々木がはっきりリードする。
 だが羽生も懸命の粘りを見せて、迎えたのが第3図。

【第3図は△8四香まで】

 ここでは先手玉に△8八竜以下の詰めろが掛かっている。佐々木は▲7七金寄と受けたが、△8五桂の追撃が厳しく逆転ムードに。▲7七金寄では▲6八金ならば、△8七香成には▲1五歩△1三玉に▲8七金と手を戻して、先手玉が詰まず後手玉は詰めろで、先手の勝ち筋だった。
 △8五桂に佐々木は▲1五歩△1三玉▲1四歩△同玉▲1五歩△1三玉▲1四歩△同玉▲1五歩△1三玉▲1四歩△同玉▲1五歩△1三玉と、3歩を犠牲に時間を稼いだが、ここに至っては手段もなく、次の▲1七銀には△5九竜から先手玉を寄せ切った羽生が逆転勝ち。終局の瞬間「来たあああああ」「いよおおおおお」「すごいねえ」「感動した」と、「in the ZONE」の作戦部屋は絶叫した。

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第7局の結果を見て喜ぶ「in the ZONE」チーム

 予選Cリーグ第三試合の最終結果は以下の通りだ。
第1局 中村○―●木村
第2局 中村○―●池永
第3局 中村○―●佐々木
第4局 佐藤●―○木村
第5局 羽生●―○佐々木
第6局 羽生○―●池永
第7局 羽生○―●佐々木
総合 「in the ZONE」5勝―2勝「エンジェル」

 この結果、Cリーグは3チームとも勝ち点がプラスマイナス0となり、全くの横一線で並んだ。ここからはチームリーダーによるプレーオフで、予選通過の2チームを決める。

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結果的に三つ巴となってしまった予選Cリーグ

 最初に行われた抽選で羽生がシード枠を引き、この時点で「in the ZONE」の予選通過が確定する。プレーオフの第一試合は「スリースタービクトリーズ」を代表する豊島将之竜王と、「エンジェル」を率いる木村との対戦となった。

【第4図は▲7六同銀まで】

 第4図から豊島は△4四角と打つ。▲8四竜に△3六歩▲2八角△7五歩と迫る(▲7五同竜や▲8七銀なら△8八角成、▲7五同銀も△8八角成▲同竜△7六桂がある)が、▲7三歩成の切り返しがあった。△同金▲同竜△8八角成に▲8二竜が王手馬取りとなる。△4四角では△7五銀(▲同銀は△7六桂▲5九玉に△7九飛~△8八桂成)ならば難しかった。

 豊島は△8八角成を指す直前に一瞬の逡巡を見せたが、ここに至って修正は利かなかった。以下は木村が勝ち切って「エンジェル」も予選通過が決まった。

 Cリーグの1位を決める第二試合は木村の先手で相掛かりに。

【第5図は△3五歩まで】

第5図からの▲4四歩が「いい手だと思います」と解説の出口若武五段が称えた好手である。△同角に▲5五銀△2二角▲4八飛の進行は後手がすでに受けにくくなっているのだ。羽生は△3六歩と攻め合いに活路を求めたが、▲4四歩△3七歩成▲同桂△3六歩に▲4三歩成△同金▲同飛成△同玉▲5四銀△同飛▲2二角成と強攻した木村がそのまま押し切り、チームの1位通過を自らの手でもぎ取った。

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何とか予選Cリーグを一位通過した「チームエンジェル」の木村九段

 次回は予選Dリーグ第一試合、チーム天彦とチーム広瀬が対戦。6月12日(土)19時からの放映をどうぞお楽しみに。

ABEMAトーナメント

相崎修司

ライター相崎修司

2000年から将棋専門誌・近代将棋の編集業務に従事、07年に独立しフリーライターとなる。2024年現在は竜王戦、王位戦・女流王位戦、棋王戦、女流名人戦で観戦記を執筆。将棋世界などにも寄稿。

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