女流二強時代に風穴を開けるか――第14期マイナビ女子オープン五番勝負の展望

女流二強時代に風穴を開けるか――第14期マイナビ女子オープン五番勝負の展望

ライター: 玉響  更新: 2021年04月05日

 春を彩る桜の季節にマイナビ女子オープン五番勝負は開幕する。
今期、3連覇中の西山朋佳女王に挑むのは、本棋戦初挑戦の伊藤沙恵女流三段。第1局は4月6日(火)に神奈川県秦野市「元湯 陣屋」で行われる。両者がタイトル戦で相まみえるのは初めて。その注目の五番勝負を展望してみよう。

「8度目の正直」となるか

 挑戦者に名乗りを上げた伊藤は、8回目のタイトル挑戦。番勝負の舞台に立つのは2019年11月に行われた第27期大山名人杯倉敷藤花戦以来のことだ。不思議なのは、いずれもタイトル奪取に至らなかったこと。これまで番勝負に登場した7回のうち6回は里見香奈女流四冠、1回は当時の加藤桃子女流王座に阻まれている。フルセットまでもつれ込んだのは計3回だ。今回こその思いがあるだろう。

14mynavi_outlook_02.jpg
撮影:玉響

 伊藤は挑戦を決めた日のインタビューで西山についての印象を聞かれると、「力強い振り飛車党という印象で、劣勢の将棋でも逆転の将棋が多いイメージ」と語った。五番勝負については「久しぶりのタイトル戦、まず精一杯指すことがいちばんだと思う。西山さんとの番勝負は大変だと思うので、そういったところも楽しめたら」と意気込んでいた。伊藤は開幕局の対局場である「陣屋」で対局するのは初めてなので、各地を転戦するタイトル戦特有の環境もひっくるめて「楽しめたら」という心境だったのではないかと思う。

 本シリーズは記録にも注目される。2019年9月に木村一基九段が7回目の挑戦で初タイトルの王位を獲得したことは記憶に新しいが、8回目の挑戦で初戴冠というのは例がない。現在の女流棋界は里見女流四冠(清麗・女流名人・女流王位・倉敷藤花)と、西山女王(女流王座・女流王将)でタイトルを分け合う二強時代。そこに誰が割って入るのか、そろそろ見たい。そういったファンの期待も高まっているのではないだろうか。最近では山根ことみ女流二段が女流王位戦の挑戦者に躍り出るなど、新勢力の台頭が目立つ。だが、伊藤がこのシリーズを制することができれば、悲願の初タイトル獲得とともに、改めて存在感を示すことができる。

女王に死角なしか

 立ちはだかるのは西山女王。西山は4月1日、同日付で奨励会を退会し、女流棋士に転向することを発表したばかり。1年間、悩みながら今回の決断に至ったと話しており、新年度からは吹っ切れた気持ちで五番勝負に臨むことだろう。

 西山は現在進行中の第1期ヒューリック杯白玲戦・女流順位戦を除き、これまで参加資格のあったマイナビ女子オープン、リコー杯女流王座戦、霧島酒造杯女流王将戦の3棋戦でタイトルを総なめにしている。今後はそれ以外の棋戦にも参加することになるので、西山の豪快な振り飛車を目にする機会が増えそうだ。

14mynavi_outlook_01.jpg
撮影:玉響

  タイトル戦登場回数は今回で9回を数える。初の番勝負登場となった第4期リコー杯女流王座戦五番勝負(注1)では当時の加藤女王に屈したが、それ以降のタイトル戦はすべて奪取、または防衛に成功している。まさに向かうところ敵なしだ。今回のシリーズを制覇すれば、加藤女王が第7期から第10期にかけて達成した女王の最多連覇記録である4連覇に並ぶ。
(注1)里見女流王座の休場に伴い、挑戦者決定戦まで勝ち上がった二人でタイトルが争われた

対戦成績と戦型予想

 最後に、両者の対戦成績と戦型の傾向について見ていく。

年月タイトル戦名勝者戦型
2014年8月 リコー杯女流王座戦 西山勝ち 相振り飛車
2016年8月 リコー杯女流王座戦 西山勝ち 相振り飛車
2016年10月 マイナビ女子オープン 西山勝ち 四間飛車
2018年8月 リコー杯女流王座戦 伊藤勝ち 三間飛車
2019年8月 霧島酒造杯女流王将戦 西山勝ち 三間飛車
2019年9月 リコー杯女流王座戦 西山勝ち 三間飛車

 対戦成績は西山が5勝1敗と大きく勝ち越している。戦型は伊藤の居飛車が多く、それ以外は相振り飛車だ。生粋の振り飛車党である西山は、中飛車と三間飛車が主力戦法。しかし、相手が飛車を振る可能性があると、三間飛車を採用する傾向にある。今回も三間飛車を軸に戦うと予想する。

 一方、どのような戦型になるかは伊藤の選択次第ということになりそうだ。一般的に相振り飛車は力戦になりやすく、事前研究で作戦勝ちに結びつけるのは容易ではない。よって伊藤が居飛車の場合は、より具体的に策を練ってきたとみていいだろう。今回の五番勝負は居飛車対三間飛車の対抗形と、相振り飛車の両方が見られるシリーズになるのではないだろうか。

玉響

ライター玉響

平成元年生まれ。2004年から2016年1月まで奨励会に在籍。同年5月からフリーライターとして活動開始。以来、日本将棋連盟のネット中継業務を担当している。ほかに将棋番組制作、将棋教室の仕事にも携わる。将棋漬けの日々を送っているが、実戦不足なのが悩み。

このライターの記事一覧

  • Facebookでシェア
  • はてなブックマーク
  • Pocketに保存
  • Google+でシェア

こちらから将棋コラムの更新情報を受け取れます。

Twitterで受け取る
facebookで受け取る
RSSで受け取る
RSS

こんな記事も読まれています