私の趣味――先崎学九段

私の趣味――先崎学九段

ライター: 先崎学  更新: 2021年02月14日

棋士はあまり趣味を持たない

 棋士はあまり趣味を持たない人種だと、以前から思っている。将棋ファンの方から見れば、自分の大好きな事を仕事にできて、きっとうらやましい限りなのだろうが、もちろんそんな単純なものではない。あらゆる仕事は楽しいものではない。皆様がのめり込みつつげてやまない、この果てしなく面白いゲームに子供のころから誰よりものめり込み続けてお金を頂く身となってしまい、趣味をやっている暇がなくなってしまうのである。

 趣味があったとしても、たいがいはボードゲームである。当たり前といえばそれまでだが、棋士は皆これが上手だ。しかし、将棋のプロが囲碁だの麻雀だのトランプゲームなどが好きなのは、なにか純然たる趣味とはいえないような気もするのだ。やはり本業とは似ても似つかない競技(この書き方がすでにヘンだ)でなければ、王道ではないような気がするのである。

 体を動かすのが好き、という者も多い。でもですねぇ、聞くと「やはり運動不足になるから」とか「対局に挑むために体力をつけないと」などと返ってくる。要は本職のために、というわけで、これではとても胸を張って堂々とこれが趣味だとはいえまい。

かくいう私の趣味は

 かくいう私もボードゲーム全般(とくに囲碁と麻雀)プラス、ボクシング、というよくあるパターンなのだが、ひとつだけ毛色の違ったものがある。
 ジグソーパズルである。たいがいの人は子供の頃しかやらないであろう、あのクネクネしたピースをはめてゆくパズルが大好きなのだ。

 二十代の前半からやりだしだように思う。はじめは500ピースくらいのものをやっていたが、すぐに1000ピースになり、2000ピースになった。これ以上はないので2000で打止めである。また、ひとつのピースが小さいというパズルもあって、同じ1000ピースでもこれはしんどい。小さいので飾るのに楽なのだが、作るのは大変なのである。

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 こたつのような机の上に置いて、すこしずつ作ってゆく。2000ピースくらいのものだと、簡単なのもなら丸三日、難しいものなら丸四、五日といったところだろうか。同じ数なのに簡単とか難しいとか、何をいっとるんだと思われるかもしれないが、これが存外大変なのだ。一言でいえば易しい絵と難しい絵がある。色が少ない絵は難しく、様々な色、特に原色が多いものは易しいのだ。

パズルたちのゆくえ

 家にはこの完成されたものがごろごろあって、壁に飾ったりしていたのだが、家族の評判は、はっきりいってよろしいものではない。そりゃよく分かります。この完成された美しい絵に感動しているのは、苦労に苦労を重ねて作った当人の私だけであることぐらいは分かります。
家のパズルは増えていくばかりで、まったく困ったものだ、となっていた。ホントにホントにジグソーパズルを飾るだけのためにワンルームマンションを借りようと思ったくらいなのだ。

 そんな折、ひよっとしたことから事務所兼イベントスペースのようなものを借りることになった。小躍りする私。これで家に眠っている......かわいいあのパズルたちを――。
ところが妻に反対された。ファンの方だってくるんだから――。そりゃそうだと深くうなだれたのだった。
 かくしてパズルは眠る、その一部がこれである。

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 ちなみにまだまだいくらでも作れる。しかしこのジグソーパズルを作るという作業は、ものすごく首と腰に悪いのである。将棋の対局と同じくらい悪い、と書いてもファンの方にはよく分からないだろうが、とにかくこのふたつに悪いのだ。

 私も年齢とともにますます対局のたびに首と腰がガタガタになる。まあ、そんなわけで、すんごく難しい2000ピースは引退した後かなと考えている。

私のシリーズ

先崎学

ライター先崎学

1970年6月22日生まれ。青森県出身。(故)米長邦雄永世棋聖門下。
1987年10月19日四段。2014年4月1日九段。
著書に「うつ病九段」「将棋指しの腹のうち」
中村太地との共著「この名局を見よ20世紀編」「この名局を見よ21世紀編」など多数ある。
漫画「3月のライオン」監修。

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