ライター渡部壮大
将棋の月刊誌、週刊紙、書籍などの編集部に在籍経験あり。
アマチュア大会の最高成績は全国ベスト16だが、もう少し上に行けないかと日々努力中。
ライター: 渡部壮大 更新: 2020年11月02日
タイトル初防衛を目指す永瀬拓矢王座と、2017年1月の王将戦以来久しぶりのタイトル挑戦となった久保利明九段。タイトル戦での顔合わせは初で、居飛車対振り飛車の濃厚なシリーズとなった。永瀬は6月に開幕していた叡王戦の防衛戦が長引き、まさかのダブルタイトル戦に。
第1局は神奈川県秦野市「元湯 陣屋」にて。久保の四間飛車ミレニアムに永瀬は居飛車穴熊。堅陣から仕掛けを得て、徐々に居飛車がペースをつかんでいく。
【第1図は△4二歩まで】
先手は駒得の上に鉄壁で、あとはどう決めるかという局面。▲5八歩△4七金▲7七桂△6六歩▲4九香が視野の広い手で、金を取れば▲8一金からの寄せがある。実戦もその筋が実現し、先手が寄せきった。
撮影:日本将棋連盟
第2局は京都府京都市「ウェスティン都ホテル京都」にて。久保の中飛車に永瀬は異形の構えから急戦を仕掛ける。
【第2図は△7一歩まで】
馬を作ったものの、ここからどう優位を拡大するかは悩ましい。先手の腕の見せ所だが、ここからの指し回しが見事だった。実戦は▲7七桂△同銀不成▲4五歩△4四金寄▲5五歩△6四金寄▲4四歩△同歩▲6五歩△7五金で金銀をそっぽに追いやり、▲5四歩△同金▲7二馬△同歩▲5二飛が厳しい攻め。久保が快勝で1勝1敗のタイに。
撮影:日本将棋連盟
第3局は宮城県仙台市「仙台ロイヤルパークホテル」にて。久保の三間飛車ミレニアムに永瀬は居飛車穴熊。
【第3図は▲7三金まで】
先手の食いつきを後手が耐えきれるかの局面。実戦は△6二銀だったが、▲7二金△同金▲6一飛△7一金打▲7二馬△同玉▲1一飛成△8一玉▲7三金△6一歩▲7二香が厳しく、寄り筋に入った。図では△6二金打と埋めれば寄せきるのは簡単ではなく、千日手の可能性もあった。永瀬が2勝目をあげて防衛まであと1勝。
第4局は兵庫県神戸市「ホテルオークラ神戸」にて。久保の四間飛車に永瀬は持久戦模様。居飛車に穴熊に入られる前に戦いが始まった。永瀬がリードし防衛が近付いたが、久保も必死の粘りでなかなか土俵を割らない。
【第4図は△1八歩まで】
次に△1九角からの詰めろで、▲1八同玉も△3九飛成がある。受けに窮したかに見えたが、▲3七銀打が根性の受け。以下△同成銀▲同銀△3六銀▲3八銀△1九歩成▲同玉△3九飛成と迫ったが、▲4六桂△2四香▲4二角成△同銀▲2八金で穴熊が完成し、混戦となった。なおも熱戦が続いたが、粘りを実らせて久保が大逆転勝ち。決着は最終局へ。
第5局は山梨県甲府市「常磐ホテル」にて。先手となった久保は中飛車を選ぶ。永瀬は急戦模様から、両者妥協せず乱戦となった。
【第5図は▲6五桂まで】
永瀬はタイトル初防衛、そして3期目のタイトルで九段にも昇段した。渡辺明名人以外のタイトルホルダーが防衛に成功するのは久しぶりである。永瀬は叡王こそ失ったものの崩れない強さで王座を死守し、トップグループに踏みとどまった。
撮影:日本将棋連盟
ライター渡部壮大