豊島、波乱の長期戦制す

豊島、波乱の長期戦制す

ライター: 渡部壮大  更新: 2020年10月19日

 持将棋、千日手が続き波乱続きとなった第5期叡王戦。こちらも緊急事態宣言により、当初の予定より2ヶ月遅れての開幕となった。

第5期叡王戦七番勝負第1局

 第1局は静岡県賀茂郡「今井浜温泉 今井荘」にて。持ち時間は5時間。角換わり相早繰り銀から永瀬が有利に局面を進めていたが、終盤で千日手となる。打開も有力な局面と見られていたので意外な結末だった。指し直しは角換わりから永瀬の右玉。

【第1図は▲4六桂まで】

図は終盤戦で、4枚の桂が絡み合う複雑な局面だ。ここから△6五銀▲5四桂△同銀上▲7七桂と巧みな桂使いを続けた先手がリードを拡大。そのまま押し切った。

第5期叡王戦七番勝負第2局

 第2局は兵庫県豊岡市「城崎温泉 西村屋本館」にて。持ち時間は5時間。角換わり腰掛け銀から永瀬がリードを奪うが、決めきれず相入玉へ。際どく豊島も点数を確保し、持将棋が成立。

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撮影:夏芽

第5期叡王戦七番勝負第3・4局

 第3、4局は愛知県名古屋市「亀岳林 万松寺」。1日で2局を行う1時間制。第3局は矢倉の脇システムから永瀬が優位に立つが、決めきれず第2局に続いての持将棋となった。

 第4局は横歩取りへ。青野流から乱戦となり短手数の決着と思われたが、簡単には終わらない。

【第2図は△5七角まで】

図は投了図で、以下は▲5七同香に△2九金から詰み。30数手目に大駒が総交換になって攻め合いとなる将棋だったが、手数は232手と持将棋になった2局を上回る長さだった。

第5期叡王戦七番勝負第5局

 第5局は東京「将棋会館」にて。持ち時間は3時間。相掛かりから乱戦となった。

【第3図は△2三歩まで】

苦しい時間の長かった永瀬だが、辛抱を実らせた。ここから▲7一桂成△同金で竜の利きを止め、▲3四桂が厳しい寄せ。△同歩▲2四角上△6六桂▲4九玉△2四歩に▲3三銀と押さえつけて受けなしだ。

第5期叡王戦七番勝負第6局

 第6局は大阪「関西将棋会館」にて。持ち時間は3時間。横歩取りから互いに手の難しい中盤戦が続く。

【第4図は▲7五同歩まで】

ここで△5七桂が鬼手。3五の金取りにもなっているので▲同角と取るよりないが、△6五桂打が継続手。以下▲同歩△同桂▲6八角打とつなぎ熱戦が続く。後手にチャンスのある局面が続いていたが、最後は逆転で先手が制している。これで2勝2敗2分。

第5期叡王戦七番勝負第7局

 本来なら最終局となるはずの第7局は東京「将棋会館」にて。持ち時間は6時間。相掛かりから大駒が総交換となる乱戦に。

【第5図は△4五桂まで】

ここから▲5八金△5四香▲6七金左△6五歩▲7七銀と自陣に手を入れたのが落ち着いた指し回し。後手陣は修復が難しいので、攻めを消していけば自然と良くなると見ている。以下は優位を拡大し、先手が押し切った。

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撮影:睡蓮

第5期叡王戦七番勝負第8局

 第8局は神奈川県秦野市「元湯 陣屋」にて。持ち時間は各6時間。角換わりから先手の豊島が速攻を決め、リードを奪う。

【第6図は△7九とまで】

△7九とは最後の勝負手だが、▲同金△4九銀に▲7八玉が冷静。△5八飛に▲6八金と弾いて先手の勝ち筋に入った。決着は史上初の第9局へともつれ込んだ。

第5期叡王戦七番勝負第9局

 第9局は東京「将棋会館」にて。豊島が先手となり、後手の永瀬は持ち時間6時間を選択。角換わり腰掛け銀から双方に派手な手が出る華々しい戦いとなった。

【第7図は△5九角まで】

ここで▲2五桂が好手。△同歩に▲6二と△3七角成▲6三角△2三金▲4四歩で技ありだ。以下△4四同歩なら▲2五飛が十字飛車となって決まる。実戦は▲4四歩に△2八馬と取ったものの▲4三歩成が厳しく先手勝勢となった。

 豊島が4勝3敗2持将棋1千日手の死闘を制し、叡王を獲得。棋史に残る長丁場のシリーズとなった。

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撮影:日本将棋連盟

注目対局プレイバック

渡部壮大

ライター渡部壮大

高校生でネット将棋にハマって以来、趣味も仕事も将棋な人。
将棋の月刊誌、週刊紙、書籍などの編集部に在籍経験あり。
アマチュア大会の最高成績は全国ベスト16だが、もう少し上に行けないかと日々努力中。

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