里見香奈女流四冠、リターンマッチへ 第10期リコー杯女流王座戦五番勝負展望

里見香奈女流四冠、リターンマッチへ 第10期リコー杯女流王座戦五番勝負展望

ライター: 渡辺弥生女流初段  更新: 2020年10月27日

 2020年9月14日、東京・将棋会館の「特別対局室」で第10期リコー杯女流王座戦の挑戦者決定戦が行われた。ここまで勝ち上がってきたのは昨年度女流王座のタイトルを西山朋佳女王・女流王将(現女流三冠)に奪われた里見香奈女流四冠と、第5期女流王座戦挑戦者の伊藤沙恵女流三段。タイトル戦常連のふたりの将棋は、序盤から駒がぶつかる力戦に。終盤、ぎりぎりの攻め合いを制した里見が挑戦権を獲得した。西山女流王座との五番勝負の展望を予想する。

初のクイーン王座がかかった番勝負

挑戦者の里見香奈女流四冠(清麗・女流名人・女流王位・倉敷藤花)は清麗2期、女王1期、女流王座4期、女流名人11期、女流王位6期、女流王将7期、倉敷藤花10期の合計41期を獲得し、タイトル戦登場回数は今度の第10期女流王座戦で50回に上る女流棋界の第一人者。28歳にしてクイーン名人、クイーン王位、クイーン王将、クイーン倉敷藤花の資格保持者で、今度の第10期女流王座戦でタイトルを奪取すれば初のクイーン王座誕生となる。

 里見の今年度4月からの成績は15勝3敗、勝率0.833。6月に行われた第31期女流王位戦五番勝負では加藤桃子女流三段に3連勝で防衛。また7月から8月にかけて行われた第2期ヒューリック杯清麗戦五番勝負では上田初美女流四段と対戦、最終局までもつれこんだものの最後は底力を見せ3勝2敗で防衛に成功した。第42期霧島酒造杯女流王将戦では挑戦者決定戦で室谷由紀女流三段に敗れてタイトル挑戦を逃したものの、相変わらずの強さである。4月1日にその実績を評価されて女流六段に昇段。里見は女流タイトルホルダーとして男性の公式戦にも参加しており、第62期王位戦の予選では3回戦まで勝ち上がっている。調子も上々と見て良さそうだ。

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撮影:常盤秀樹

 将棋は終盤の鋭い寄せが武器の振り飛車党。「出雲のイナズマ」の異名は皆さまももうお馴染みだろう。振り飛車が得意だが相手が振り飛車党のときは居飛車を指すことも多く、終盤の粘りも人後に落ちない。第62期王位戦予選の西川和宏六段や宮本広志五段との対局でも苦しい局面で辛抱強く戦い、最後は逆転で勝利をものにした。

第1図は伊藤沙恵女流三段との第10期リコー杯女流王座戦挑戦者決定戦の中盤戦。後手の伊藤が先手の角頭を狙って△1五歩と突いたところ。▲1五同歩は△4六歩▲同銀△1六歩で角の行き場がない。困ったようだが、ここから一気に里見がリードを奪う。

【第1図△1五歩まで】

第1図以下の指し手
▲4五桂△同銀▲同歩△1六歩▲4四角△同金▲同歩△同角▲4八飛

 里見は▲4五桂と自然に攻める。△4二角は▲1五歩と戻しておいて先手有利。以下△1五同角は▲4四角△同金▲1五香がある。実戦の△4五同銀▲同歩△1六歩に▲4四角が好手だ。△同金▲同歩△同角に▲4八飛と回り、先手は攻め駒がきれいにさばけた。このあと伊藤が鋭い勝負手を放ち、終盤詰むや詰まざるやの激戦になったが、最後は里見が伊藤の玉を見事即詰みに討ち取った。

今年も記録ずくめの西山朋佳女流王座

里見の挑戦を受けて立つのは西山朋佳女流王座。現在25歳で関東奨励会に所属し、女流王座のほかに女王、女流王将の合わせて三冠を保持している。昨年の10月から12月にかけて行われた第9期リコー杯女流王座戦は3勝1敗の成績で里見から女流王座のタイトルを奪取、奨励会員として出場できるすべての女流棋戦でタイトルを獲得した。

 今年度西山が対局した女流棋戦は第13期マイナビ女子オープン五番勝負と第42期霧島酒造杯女流王将戦三番勝負。マイナビ女子オープンでは3勝2敗で加藤桃子女流三段の挑戦を退け、防衛に成功。

 西山は今年に入ってからも記録ずくめだ。昨年の10月から今年の3月にかけて行われた第66回奨励会三段リーグ戦で14勝4敗の成績を取り、次点を獲得。第33期竜王戦6組ランキング戦に出場し、ベスト4まで勝ち上がった。また第92期ヒューリック杯棋聖戦では4連勝で一次予選を突破。三段リーグ次点も棋聖戦二次予選進出も女性として初めて。見事な成績、戦いぶりである。

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撮影:常盤秀樹

 将棋は中終盤の強烈な攻めが魅力の剛腕の振り飛車党。不利な局面でもパワーと技で押し切ってしまう西山の指し回しに感動した方も多いことだろう。

第2図は昨年の第9期リコー杯女流王座戦五番勝負第3局、里見香奈女流王座と西山朋佳女王・女流王将の一戦の中盤戦(肩書は当時)。後手の里見が▲2五歩に△1三角と引いたところ。ここからの西山の指し方が秀逸だ。

【第2図は△1三角まで】

第2図以下の指し手
▲2七金△7六歩▲6五桂△3三銀▲2六金△6五銀▲同銀右△3四桂▲2七金△1二玉▲3六歩

 ▲2七金から▲2六金が西山らしい、力強い手。▲2六金は次に▲1五香△同香▲同金と出る狙い。そうなると次の▲1四香が厳しく、後手は収拾不能だ。実戦里見は△6五銀▲同銀右に△3四桂で先手の金を引かせて耐えたが、今度はその桂を狙って▲3六歩と突いたのが良い手で、西山がペースをつかんだ。このあとも激しい玉頭戦が続き、最後は西山が後手玉を即詰みに討ち取った。西山は続く第4局も勝利し、女流王座のタイトルを奪取した。

女流棋界の頂上決戦

 西山と里見は15度の対戦があり、西山9勝、里見6勝。このうちの11局がタイトル戦の番勝負で、第12期マイナビ女子オープン五番勝負、第41期霧島酒造杯女流王将戦三番勝負、第9期リコー杯女流王座戦五番勝負と、すべて昨年の春から冬にかけて行われたものだ。結果は3度続けて西山が無敵の里見からタイトルを奪取することとなり、西山が一躍女流棋界の双肩を担う存在となった。

 とは言えまだ対局数は多くはないし、番勝負として敗れたと言っても内容は激戦で、里見が決して負けていたわけではない。今度の番勝負もどちらが勝つかまったくわからない、熱戦になるのは間違いないだろう。

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撮影:常盤秀樹

 これまでの両者の対局は相振り飛車が6局、西山の振り飛車に里見が居飛車を採用した居飛車対振り飛車の対抗型が9局となっている。直近の6局で里見は西山相手には居飛車で戦っており、今度の番勝負でも対抗型と相振り飛車、どちらの戦型も見ることができそうだ。終盤が強いだけでなく、西山も里見も序盤で様々な工夫を見せてくれることが多い。最初から最後まで目の離せない戦いになるだろう。

 女流棋界の頂上決戦にぜひご注目ください。

第10期リコー杯女流王座戦五番勝負第1局は10月28日(水)、東京都文京区「ホテル椿山荘東京」で開幕する。

渡辺弥生女流初段

ライター渡辺弥生女流初段

大学で将棋を覚えて以来、すっかりその魅力の虜になった。王様より飛車が大事な、振り飛車でしか勝てない居飛車党。

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