チーム渡辺VSチーム永瀬 第3回AbemaTVトーナメント決勝~生放送振り返り~

チーム渡辺VSチーム永瀬 第3回AbemaTVトーナメント決勝~生放送振り返り~

ライター: 紋蛇  更新: 2020年09月15日

*前回の記事:本戦準決勝 チーム永瀬チーム康光 振り返り

4月から放映されてきた第3回AbemaTVトーナメントは、8月22日に最終戦が行われた。決勝に進んだのはチーム渡辺(渡辺明名人、近藤誠也七段、石井健太郎六段)とチーム永瀬(永瀬拓矢二冠、藤井聡太二冠、増田康宏六段)。

チーム渡辺は本戦でチーム糸谷、チーム三浦を破った。予選からの勝敗を数えると、渡辺は5勝6敗と不調ながらも、予選や本戦の決着局で勝負強さを発揮している。近藤は7勝2敗、石井は5勝3敗と勝ち越し、強豪の波に飲まれることなく兄弟子を支えてきた。
チーム永瀬は本戦でチーム天彦、チーム康光に勝っての登場で、予選からの勝敗は永瀬が6勝3敗、藤井が7勝3敗、増田が6勝4敗。全員が勝ち越し、フィッシャールールとの相性のよさを見せている。

【第1局】石井健太郎六段VS藤井聡太二冠

第1局は石井-藤井戦で初手合い。石井は矢倉と角道を止めた振り飛車を得意にしており、本局は矢倉を採用した。相矢倉のじっくりした戦いから藤井が序盤でペースを握るも、石井が踏ん張ってねじり合いになる。「粘っているうちにチャンスがきたと思ったんですけど」と石井は手ごたえを感じていたが、148手で藤井が制した。チーム永瀬は本戦初戦をすべて藤井に託している。藤井はその期待に応え全勝し、チームのスタートダッシュに一役買った。


初戦の作戦会議。チーム永瀬「バナナ」を意識してか、渡辺と近藤はバナナをむしゃむしゃと食べる

【第2局】渡辺明名人VS増田康宏六段

第2局は、チーム渡辺はリーダーが登場。増田は「強敵なんですけど、自分の得意なことをやって戦うしかないかなと思っています」と抱負を述べ、相掛かりから機敏な仕掛けを見せた。

【第1図は△3五歩まで】

第1図から▲6五歩△同歩▲4六銀が好手で、後手は△3四金と守ることができない。渡辺は△2三金と角をぶつけて勝負したが、▲6四歩(△同銀は▲2二角成△同金に▲2四飛が十字飛車)に△7二銀と引くしかないようではつらく、後に控室に戻った渡辺は「ひっどい。しかし、あんなひどくなるかね普通、将棋って。▲6四歩なんて入っちゃったらもう」とぼやきが止まらない。実戦も大きな拠点を武器に増田が押し切り、名人を相手に金星を挙げた。

【第3局】近藤誠也七段VS永瀬拓矢二冠

第3局は近藤-永瀬戦で、先手の近藤が雁木、後手の永瀬が銀矢倉と珍しい戦いに進む。近藤は棋風通りに積極的な仕掛けを見せるも、永瀬が継ぎ歩攻めからB面攻撃と攻防を織り交ぜてリードを奪い、3連勝を決めた。

【第4局】渡辺明名人VS藤井聡太二冠

全員が1局ずつ指して迎えた第4局。渡辺と藤井がぶつかり、棋聖戦以来の対局が実現した。渡辺は事前のインタビューで、藤井戦の戦略を次のように答えている。

「(対策は)なんか考えるけど、基本的にキツイですからね。キツイという感じで、なんかのびのびとやって、ワンパンチを狙う感じですかね。そういう格下の戦いに徹したいと思います」

これには解説の戸辺誠七段も驚いていたが、ざっくばらんに答えるのはいかにも渡辺らしい。

戦型は相矢倉の脇システムになり、終盤で主導権を握ったのは渡辺。

【第2図は△8三香まで】

第2図で玉頭に狙いをつけた。△8五桂と跳ねれば、6九にいる銀と相まって8筋のロケットが炸裂する。先手に玉頭を強化する手段はないので絶体絶命に見えたが、▲7九金! いやはや、こんな受けがあるとは思わなかった。▲7九金は銀取りだが、玉頭がさらに弱体化するので普通はつぶれているとしたものだが......。実戦は▲7九金に△8五桂▲8六歩△7七桂成▲同玉△8六香▲6九金と進行した。次に△8九香成と桂を取られても、▲6七玉から▲5八玉の逃げ道があるので後手の攻めを緩和できている。もし7八に金がいたままだと△7八銀成から追い詰められてしまうし、6九の銀を取りきらねば5八の地点に逃げられない。▲7九金について、藤井は「具体的には攻め筋が分からなかったのでやってしまったんですが」と答えている。しかし、この金引きが勝因で寄せのスピードが逆転し、▲1四桂が間に合った。


藤井聡太二冠VS渡辺明名人

【第5局】近藤誠也七段VS永瀬拓矢二冠

チーム永瀬があとひとつに迫った第5局は、2度目の近藤-永瀬戦。先手の近藤が相掛かりから強気に戦い、永瀬の居玉をうまく突いてリードを奪う。永瀬は勝負勝負と迫り、ギリギリの終盤戦になった。

【第3図は△7二歩まで】

第3図の受けに▲7六玉と桂を払ったが、△5八角成▲6六銀に△4七飛が△6七飛成と△4六飛成の両狙いで、急に先手玉は一手一手の寄りになってしまった。永瀬がそのまま勝ち、リーダー自らが優勝を決めている。近藤は「途中は形勢がいいと思ったんですけど、熱くなってしまって冷静な手を指せていないですね。中終盤でなぜか熱くなっているんですね」と振り返った。第3図では▲4七歩だったか。△8八桂成に▲同玉から受けに回ることになるが、後手は角を使えていないので攻めが細い。


決着局の近藤誠也七段VS永瀬拓矢二冠

 チーム永瀬は本戦初の5連勝で完全優勝を成し遂げた。ただ一局一局の内容は濃く、リーダーの渡辺が「みんなが一生懸命やった結果ですし、相手には大きなミスがありませんでした」とブログで総括したのもうなずける。

表彰式はリーダーの永瀬に佐藤康光・日本将棋連盟会長から優勝のパネルが手渡された。チーム永瀬の感想、賞金の使い道は以下の通り。


優勝パネルを持つチーム永瀬

永瀬 自分で決めることができたのは望外。(賞金の使い道は)必要な靴下とハンカチぐらいしか思いつかなかった......。あ、最近歩いているので、ジャージを買おうと思います。

藤井 今回は団体戦ということで、チームのお二人に助けられてここまでこれたと思います。パソコンを組むつもりなので、パーツを買いたいと思います。

増田 (優勝は)最初から狙っていたんですけど、優勝できてとてもうれしく思っています。(『すごく練習したそうで』といわれたのに対し)それもあってうまく指せたのかなと思います。昨年免許を取ったので、かっこいい車を買いたいです。

第3回AbemaTVトーナメントには12チーム、棋士36人が参加した。予選からの最多勝は藤井聡太二冠と森内俊之九段で9勝。本戦進出者で勝率1位は広瀬章人八段で8割5部7厘(6勝1敗)だった。
最後に各リーダーの言葉を掲載する。

各リーダーからのメッセージ

永瀬 今日もほとんど対戦相手や作戦のことにすべての時間を注いで、こうやって形になってよかったです。藤井二冠は3連覇が懸かっていたので、それにチームメイトとして貢献できたのはよかったと思います。増田さんには前回も含めてかなり助けていただいて、藤井二冠と増田六段の力が大きかったと思いますので、お二人に感謝しかないです。

渡辺明 今回が初めての団体戦だったんですけど、弟弟子2人と一門の三人でとても楽しく戦うことができました。応援していただいた皆様、ありがとうございました。

佐藤康 今回レジェンド2人とチームを組ませていただいて、いま若手棋士が非常に活躍している将棋界のなかで、ベテランの存在感を見せられたと思いますので、私にとりましてもいい刺激になりました。また次回の機会があれば参加させていただけるよう、自分の実力を高めたいと思います。

三浦 本当にすばらしいメンバーと長い間対局できて、本当にうれしかったです。

久保 本大会は将棋界の甲子園。第二の青春をさせていただきました。めちゃめちゃ楽しかったです。

佐藤天 とても朗らかな優しいチームメンバー2人とまったり楽しむことができました。

広瀬 AbemaTVトーナメントは初出場したんですけど、思ったより勝てて楽しかったです。また機会があれば出たいと思います。

糸谷 団体戦に出場して、奥の深さを思い知らされました。次はオーダーだけじゃなくて、もっといい形で楽しめるように頑張りたいと思います。

豊島 団体戦出場は非常によい経験となりました。早々に予選落ちしてしまいましたが、そのあとは一ファンとして楽しませていただきました。

木村 早指しの棋戦で大変楽しい時間でした。早々と負けてしまったのは少々残念でしたけど、また指したいなと思わせる棋戦です。

羽生 初めての団体戦ということもあり、いままでになかったような将棋番組になったのではないかなと思っています。

稲葉 初めての団体戦、結果としてはちょっと不満が残るところはありますが、初めての団体戦は非常に楽しかったので、また次回があればよりいい結果を出したいと思います。

将棋界で団体戦は珍しく、ドラフト制によってチームカラーが生まれた。メンバーの対局に一喜一憂し、盤上はひとりでもバトンをつなげるために戦う姿はいままでにないものだった。また開催されることを期待したい。

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AbemaTVトーナメント

紋蛇

ライター紋蛇

2012年より、ネット中継に携わる。担当局で一番長い中継が2013年3月の第71期順位戦C級1組の森けい二九段-近藤正和六段戦で、持将棋の末指し直しとなり、終局時刻は翌日の朝5時40分。「中継は体力だ」と痛感している。

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