名人戦は決着 8月上旬の注目対局を格言で振り返る

名人戦は決着 8月上旬の注目対局を格言で振り返る

ライター: 渡部壮大  更新: 2020年09月08日

 名人戦は挑戦者が奪取し、新名人が誕生しました。叡王戦は2持将棋を含む長期戦になっており、清麗戦も挑戦者が巻き返してフルセットになっています。

第78期名人戦七番勝負第5局

第1図は第78期名人戦七番勝負第5局(▲豊島将之名人△渡辺明二冠)。序盤から見たこともない力戦となった本局。

【第1図は△5四角まで】

図は中盤戦で、「居玉は避けよ」「二枚換えなら歩ともせよ」の格言通りなら先手が良いはず(角と銀二枚の交換)ですが、この場合はいい勝負です。先手の右辺にある飛、金、銀が使えておらず、駒の効率が悪いからです。以下▲7三銀△9二飛から激戦が続きましたが、最後は後手が制しています。


撮影:琵琶

第78期名人戦七番勝負第6局

第2図は第78期名人戦七番勝負第6局(▲渡辺明二冠△豊島将之名人)。矢倉から後手の豊島名人が急戦を仕掛けました。

【第2図は△4四同歩まで】

図は飛車を切ったところで、すでに先手勝勢です。▲4一銀が「要の金を狙え」の寄せで、後手は受けが難しくなりました。以下は△4二金に▲6三角と足して寄り筋です。4勝2敗で渡辺二冠の勝利となり、悲願の名人となりました。


撮影:金子光徳

第5期叡王戦七番勝負第7局

第3図は第5期叡王戦七番勝負第7局(▲豊島将之竜王・名人△永瀬拓矢叡王)。第6局を挑戦者が勝ち、2勝2敗2持将棋で迎えた第7局。

【第3図は▲3九香まで】

本来なら最終局ですが、持将棋が2回あったためまだ決着局になりません。相掛かりから序盤早々大駒が総交換になる乱戦となりました。図で攻めるなら△3八角成▲同金△2九竜ですが、本譜は△6四歩▲7五歩△6三角成と「馬は自陣に引け」と長期戦のルートを選びました。以下▲9二馬△8三歩と渋い展開となりましたが、永瀬叡王が制して防衛まであと1勝としています。


撮影:睡蓮

第61期王位戦七番勝負第3局

第4図は第61期王位戦七番勝負第3局(▲藤井聡太棋聖△木村一基王位)。矢倉からいよいよ終盤に入りそうな局面です。

【第4図は△7三桂まで】

ここから▲3五歩△同歩▲1五歩が「開戦は歩の突き捨てから」で、先手の攻め筋が大きく広がりました。以下△1五同歩▲3三歩△同桂▲同桂成△同銀▲3五銀と攻めて好調です。木村王位の粘りに終盤はあわやという局面もありましたが押し切り、3連勝とした藤井棋聖が二冠に大きく近付きました。


撮影:中野伴水

第2期ヒューリック杯清麗戦五番勝負第4局

第5図は第2期ヒューリック杯清麗戦五番勝負第4局(▲上田初美女流四段△里見香奈清麗)

【第5図は△5一歩まで】

ここから▲5八銀△1九飛成▲4四飛成△7四香▲4九歩が堅い受け。「金底の歩岩よりも堅し」という格言もありますが、銀の足に打つ底歩も非常に堅く、横からの攻めをシャットアウトしました。以下も激戦が続きましたが、先手が押し切っています。挑戦者が2連敗から2連勝と巻き返し、決着は最終局へともつれこみました。


撮影:常盤秀樹

第68期王座戦挑戦者決定戦

第6図は第68期王座戦挑戦者決定戦(▲渡辺明二冠△久保利明九段)。四間飛車対銀冠で、居飛車が9筋の位から逆襲して戦いが始まりました。

(第6図は▲3八竜まで)

図は後手勝勢の終盤戦で、△9六歩▲9八金△9七桂が「寄せは俗手で」の決め手。8九の地点を狙えば受けがありません。以下▲8八金に△8二飛と質駒を拾って後手の勝ちが決まりました。久保九段と永瀬拓矢王座が番勝負を戦うのは初となります。


撮影:常盤秀樹

注目対局プレイバック

渡部壮大

ライター渡部壮大

高校生でネット将棋にハマって以来、趣味も仕事も将棋な人。
将棋の月刊誌、週刊紙、書籍などの編集部に在籍経験あり。
アマチュア大会の最高成績は全国ベスト16だが、もう少し上に行けないかと日々努力中。

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高崎一生

監修高崎一生七段

棋士・七段
1987年生まれ、宮崎県日南市出身。2005年10月に四段。(故)米長邦雄永世棋聖門下。 攻める棋風を持ち味としている振り飛車党。
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