チーム永瀬VSチーム康光 第3回AbemaTVトーナメント決勝へ進むのは?~生放送振り返り~

チーム永瀬VSチーム康光 第3回AbemaTVトーナメント決勝へ進むのは?~生放送振り返り~

ライター: 紋蛇  更新: 2020年08月19日

*前回の記事:本戦準決勝 チーム渡辺VSチーム三浦 振り返り

 決勝に進むのはチーム永瀬(永瀬拓矢二冠、藤井聡太棋聖、増田康宏六段)か、それともチーム康光(佐藤康光九段、森内俊之九段、谷川浩司九段)か。8月8日に生放送された第3回AbemaTVトーナメント本戦準決勝は、現タイトルホルダーが2名いるチーム永瀬と、タイトル獲得合計が52期・棋戦優勝が47回と断トツの実績を誇るチーム康光が対戦した。若手有利といわれる超早指しで、百戦錬磨の永世称号の有資格者たちはどんな戦いを繰り広げたのだろうか。

まず、第5局までの結果を見てみよう。

第1局 藤井◯-●佐藤
第2局 永瀬◯-●谷川
第3局 増田◯-●森内
第4局 永瀬●-◯佐藤
第5局 藤井●-◯森内

チーム永瀬は本戦1回戦のチーム天彦戦に続いて、初戦に藤井を繰り出す。藤井が幸先のよい勝利を収めると、続く永瀬と増田も快勝で3連勝を決めた。
だが、第5局に佐藤が177手の長手数で永瀬をねじ伏せると、森内が藤井のポカをとがめて押し切る。チーム康光の2連勝で、第6局の谷川-増田戦を迎えた。

【第6局】谷川浩司九段VS増田康宏六段


谷川浩司九段VS増田康宏六段

放送前に収録されたインタビューで、谷川は戦略を次のように語った。
「自分のペースに強引にでも引っ張り込んで、少し時間を使ってもらってというふうなことができたほうが、内容はともかく結果は伴うかもしれないので」
時間攻めも視野に入れた作戦宣言。実戦は谷川の得意形の角換わりに進んで予定通りに見えたが、ペースをつかんだのは右玉の増田だった。谷川は打開を探るために時間を使わざるをえず、不本意な開戦を強いられている。

【第1図は▲5四歩まで】

第1図は△1七角成と角を取られたにもかかわらず、▲5四歩と打ったところ。△4二銀と引けば▲1七香、△2六馬は▲5三歩成で先手優勢になる。だが、増田の△5四同銀▲同銀△4四馬が大きい受けだった。▲6六歩だと△5四金なので▲5五銀は仕方ないが、以下△5四金▲4四銀△5八歩と叩きの歩で飛車先を止められてしまい、銀取りも残っているので先手の攻めが切れてしまった。
終局後の増田は「前回は負け越しだったので、今回は勝ち越しを決定できたので、チームに貢献できたかなと思っています」と答えている。流れがチーム康光に傾きそうななか、快勝でチーム勝利にあと1勝に迫った。

【第7局】永瀬拓矢叡王VS森内俊之九段

チーム永瀬はリーダー自らの登場。追い込まれたチーム康光は、予選からここまで勝率8割!の森内を投入する。対局直前の作戦会議では、次のようなやりとりがあった。

「(永瀬叡王が)終盤とにかく粘っこいんで(笑)」(森内)
「森内さんも負けていないと思います」(谷川)
「体力では勝てませんので、短期戦を目指します」(森内)


森内VS永瀬戦を前に、作戦会議で笑う三人

最近の永瀬は千日手どころか持将棋も多い。森内はそれを警戒していたようだが、永瀬の激しい攻めに入玉含みの受けをひねり出し、長手数もいとわない。秒読みで不安定な玉形と危険極まりないものの、森内はスパッと見切った。

【第2図は▲2八金まで】

第2図で大駒の両取りがかかったが、残り18秒から16秒割いて△9二香!と踏み込んだ。▲同竜なら△8四桂で一手一手の寄りだが、▲1八金と竜を取れば詰めろになるし、▲9二竜の補充も1回は利くので後手玉が寄っても不思議ではない。しかし、実戦は△9二香以下▲1八金△2三玉▲9二竜△8四桂▲2五香△2四歩▲同香△同玉▲3五銀△1三玉と進み、森内がそのまま押し切った。竜を取らせてからと金を払うのが正確なしのぎで、△8四桂を実現させた。


永瀬拓矢叡王VS森内俊之九段

後に森内が控室に戻ると、佐藤は「よく受け切れますねぇ」、谷川は「森内さんらしい勝ち方でしたねぇ」と絶賛の嵐。公式戦の復調も予感させる勝ちっぷりだった。

【第8局】佐藤康光九段VS藤井聡太棋聖

とはいえ、チーム康光はあとがない。8回戦は佐藤が出陣すると、相手は藤井。佐藤は「これは意表を突きましたね」と予想外のオーダーだったようだ。


佐藤康光九段VS藤井聡太棋聖

1局目の藤井-佐藤戦は、後手の佐藤から角交換型振り飛車からいつも通り?独創的な構想を見せていた。本局は相矢倉になり、総矢倉VS6四銀・7三桂型と佐藤の誘導で珍しい戦いに進む。佐藤が先攻してリードを奪ったように見えたが、藤井がうまく持ちこたえて反撃して優勢になった。

【第3図は△6九銀まで】

第3図は最終盤で、△6九銀と詰めろをかけたところ。これが自玉は詰まないのを見切った手で、▲4四竜△4三歩▲3四桂△5二玉▲5四竜△5三歩▲4二飛△同金▲同桂成△同玉▲2四角△5二玉で佐藤の投了となった。投了以下▲5一角成△同玉▲5三竜は△5二銀▲4二金△6一玉▲5二竜△7一玉で詰まない。7三の銀が最後に役立つとは......。藤井将棋は遊び駒が少なく、よくここまで盤上を広く使うものだ。
チーム永瀬は決勝に進出。増田が快勝で2連勝を決めたのが光る。決勝でも大いに期待できるだろう。

チーム康光は残念ながら敗退となった。平均年齢が唯一の50代で、ドラフト会議で佐藤は「かなりダントツで年長になってしまいますけど、本気出せば強いんですよというところをお見せしたいなというところがありますね」と宣戦布告していたが、気迫あふれる指し回しから十分に伝わっただろう。

 AbemaTVトーナメントの団体戦は、大棋士に新たな刺激を与えたようだ。森内俊之九段のYoutubeチャンネル「森内俊之の森内チャンネル」では、準決勝前日にチーム3人と森内の弟弟子・広瀬章人八段(AbemaTVトーナメントは6勝1敗!)で練習を行った模様が配信されている。
※「森内チャンネル ♯17 【感謝!ご声援ありがとうございました。チームレジェンド直前練習突撃取材!】」https://www.youtube.com/watch?v=I79VkG4bWes

今年4月に開設された3人のTwitterの共同アカウントhttps://twitter.com/teamyasumitsuでは、日々のつぶやきに加えて、過去の名勝負の振り返りも行われた。ときには対局のエールを送り合った。チームを組まなければ、どれも実現しなかったことだろう。
ツイッターには、三人から感謝の言葉がつづられている。アカウントはAbemaTVトーナメント決勝戦が行われる8月22日までは残されるようなので、なくなる前にぜひチェックしていただきたい。

【総合成績】

第1局 藤井◯-●佐藤
第2局 永瀬◯-●谷川
第3局 増田◯-●森内
第4局 永瀬●-◯佐藤
第5局 藤井●-◯森内
第6局 増田◯-●谷川
第7局 永瀬●-◯森内
第8局 藤井◯-●佐藤
総合  5勝 ― 3勝

【個人成績】

永瀬二冠 1-2
藤井棋聖 2-1
増田六段 2-0
佐藤九段 1-2
森内九段 2-1
谷川九段 0-2

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AbemaTVトーナメント

紋蛇

ライター紋蛇

2012年より、ネット中継に携わる。担当局で一番長い中継が2013年3月の第71期順位戦C級1組の森けい二九段-近藤正和六段戦で、持将棋の末指し直しとなり、終局時刻は翌日の朝5時40分。「中継は体力だ」と痛感している。

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