チーム戦ならではの光景も!本戦1回戦 チーム三浦VSチーム広瀬、準決勝進出を決めたのは?~生放送振り返り~

チーム戦ならではの光景も!本戦1回戦 チーム三浦VSチーム広瀬、準決勝進出を決めたのは?~生放送振り返り~

ライター: 紋蛇  更新: 2020年07月18日

*前回の記事:本戦1回戦 チーム康光VSチーム久保 振り返り

 生放送されている第3回AbemaTVトーナメント本戦。7月11日はチーム三浦(三浦弘行九段、高野智史五段、本田奎五段)とチーム広瀬(広瀬章人八段、青嶋未来六段、黒沢怜生五段)の対抗戦が行われた。チーム三浦は全員がバリバリの居飛車党で最新形を好む。チーム広瀬は広瀬と青嶋がオールラウンダー、黒沢が振り飛車党で、作戦選択の幅はリードといったところか。


チーム広瀬「大三元」 左から黒沢怜生五段、広瀬章人八段、青嶋未来六段

第1局は本田と青嶋が先発を務めた。まずは第4局までの勝敗をまとめよう。

第1局 本田◯-●青嶋
第2局 本田●-◯広瀬
第3局 三浦◯-●黒沢
第4局 高野◯-●青嶋
総合   3勝-1勝

 チーム三浦は白星スタートの本田を2連投してスタートダッシュを狙ったが、リーダーの広瀬がきっちり止めた。しかしチーム広瀬は連敗し、第5局に敗れるとあとがない状況になってしまう。予選では常に勝ち星が先行していたので、「我々、初めて追い込まれました」と広瀬。そこで繰り出したのが黒沢だった。


チーム三浦「チームミレニアム」 左から本田奎五段、三浦弘行九段、高野智史五段

【第5局】三浦弘行九段VS黒沢怜生五段


三浦弘行九段VS黒沢怜生五段

 第3局のリベンジを誓う黒沢。「ここは上着を脱ぎ捨ててでも、頑張ってください」と広瀬に発破をかけられたこともあってか、対局開始直後に上着を脱いでワイシャツ姿になった。第2局で三浦の居飛車穴熊を厄介とみて、今度は△8八角成から得意の角交換四間飛車で穴熊を牽制する。だが、三浦は固い銀冠から機敏に仕掛けてリードを奪った。

【第1図は▲5三桂成まで】

 第1図は△6四銀と打ったのに対し、4五の桂を成り込んだところ。△5三同銀なら▲7四桂で決まるし、大駒の取り合いは先手の注文通りになる。しかし、黒沢の△4六角▲同角△同飛▲6二銀△4四角が冴えた粘りだった。飛車を手順に4六に逃げて、最後は角で王手成桂取りをかける。のちに△5五角の王手飛車が生じるので、急に先手がかなり神経を使う格好になった。

 黒沢はこのあとも粘り倒して逆転勝ちを収めた。終局後のインタビューには次のように答えた。

「この一局に関しては善悪とかそういう問題じゃなくて勝ちたかったですし、自分の将棋が精いっぱい出せたと思うので。悪い手は調べたらいっぱいあると思うんですけど、自分の将棋なので、それはそれでいいかなと思っています」

 何があっても、ただ自分の将棋だと信じればいい。チームの期待に応えた大きな勝利だった。

【第8局】青嶋未来六段VS高野智史五段

 第6局は高野-広瀬、第7局は本田-黒沢戦になり、いずれもチーム広瀬が制して勝ち数が逆転。チーム広瀬「大三元」がリーチをかけ、青嶋を送り出した。チーム三浦は3連敗と流れが悪いなか、高野が登場する。勝利が絶対条件で後手番と苦しい立場だが、「(最終局に)つなげるように頑張ります。私、後手大好きなんで。大将対決になるように頑張ります」と爽やかに語った。


青嶋未来六段VS高野智史五段

 戦型は青嶋の振り飛車穴熊。戦前に青嶋は「やっぱり、あれを出すしかないですかね。相手も予想ずみだと思いますけど」、高野は「(青嶋の)伝家の宝刀」と語っていた。

 見ごたえのある攻防が続き、最後は青嶋が穴熊の絶対詰まない玉形、いわゆる「Z」を生かした猛攻に出る。解説の藤森哲也五段は「(焦点が自分の)玉周りになったら(受けを得意にする)高野さん強い。ただ、穴熊の底力を出してますね、青嶋さんが」と絶叫していた。第2図は▲4四銀不成と飛車を取ったところ。

【第2図は▲4四銀不成まで】

後手玉は▲1六香からの詰めろになっており、△同玉は▲1七飛△2五玉▲3七桂△2四玉▲3三銀不成まで。それを見切って△2五銀がこの一手。以下▲1六香△同銀▲1七歩△2五銀▲2一飛に△1二金から正確にしのいで勝ち切り、チーム連敗を止めてタイに持ち込んだ。

【第9局】三浦弘行九段VS広瀬章人八段

 広瀬は予選から6戦全勝。三浦は4勝4敗ながら、予選のプレーオフで豊島将之竜王・名人を破った勝負強さを見せている。


三浦弘行九段VS広瀬章人八段

 後手になった広瀬は珍しく四間飛車に構える。ただ、早めに9筋の位を取ったので、若手時代に得意にしていた穴熊ではない。三浦が瞬時に得意の右四間飛車に構えたのが好判断で、後手陣の立ち遅れを突いた。「広瀬さんが意表を突いた戦法選択ではあったんだけど、三浦九段がいい反応をした」と藤森五段。三浦の攻めに広瀬はいつノックダウンしてもおかしくなかったが、うまく持ちこたえて勝負形に持ち込む。終盤は難解になった。

【第3図は△5三桂まで】

 第3図は先手玉が三段目に引きずり出されて、流れ弾に当たりやすい。しかし三浦が▲5三同と△同金▲6一飛成△同玉▲5三角成と踏み込んだのが勝因になった。▲5三角成に広瀬は△6六金▲同玉△6五飛と詰ましにいくも▲同銀△同歩▲7七玉△6六銀▲8八玉で続かず、AbemaTVトーナメントで初めて投了を告げている。三浦が予選に続いてリーダーとしての務めを果たし、準決勝進出を決めた。

 局後のインタビューには、それぞれ次のように答えた。

「(自分が広瀬に勝利したことについて)本当に運だけで勝ち残れたなと思っているので、もとはといえば高野さんが私に繋いでくれたその思い、そして不利な分だけ追いついたというところでこちらに流れがきたのかなと」(三浦)

「最後はチャンスがあったというか千日手に持ち込む変化もあったと思うので、そこを選びきれなかったのが悔やまれます」(広瀬)

 千日手に持ち込む変化とは、▲5三角成に△6六金ではなく△6二金▲7三金△5二金打▲6二金△同金▲7三金△5二金打のこと。『広瀬章人の一喜一憂ブログ』では、舞台裏が赤裸々に綴られている。広瀬は「この日不振に終わり責任を感じていた青嶋六段に準決勝でリベンジの舞台を用意してあげたかった」と述べ、「団体戦はやはり個人戦とは違いプレッシャーも大きかったですがこれほど他人の将棋を応援したことはなかったと思うので新たな楽しみ方というのを教えてくれました」と振り返った。

 第5局で黒沢が対局開始直後に上着を脱いで勝利を収めてから、黒沢と青嶋は必ずワイシャツ姿になって対局に臨んでいる。リーダーの「ここは上着を脱ぎ捨ててでも、頑張ってください」に元を担いだのは、チーム戦ならではの光景だった。チーム広瀬のメンバーがまたAbemaTVトーナメントの舞台に戻ってくることを期待したい。

【最終結果】
第1局 本田◯-●青嶋
第2局 本田●-◯広瀬
第3局 三浦◯-●黒沢
第4局 高野◯-●青嶋
第5局 三浦●-◯黒沢
第6局 高野●-◯広瀬
第7局 本田●-◯黒沢
第8局 高野◯-●青嶋
第9局 三浦◯-●広瀬
総合   5勝-4勝

【個人成績】
三浦九段 2勝1敗
本田五段 1勝2敗
高野五段 2勝1敗
広瀬八段 2勝1敗
青嶋六段 0勝3敗
黒沢五段 2勝1敗

ABEMAプレミアムで公開中

・大三元の勢いにミレニアムが迎え撃つ!!<チーム広瀬 VS チーム三浦>
・本戦開幕!レジェンドと振り飛車の衝突!<チーム康光 VS チーム久保>
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AbemaTVトーナメント

紋蛇

ライター紋蛇

2012年より、ネット中継に携わる。担当局で一番長い中継が2013年3月の第71期順位戦C級1組の森けい二九段-近藤正和六段戦で、持将棋の末指し直しとなり、終局時刻は翌日の朝5時40分。「中継は体力だ」と痛感している。

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