決勝トーナメントへ進んだのはどちら?~予選Cリーグ第3試合・チーム康光VSチーム木村戦の振り返り~

決勝トーナメントへ進んだのはどちら?~予選Cリーグ第3試合・チーム康光VSチーム木村戦の振り返り~

ライター: 紋蛇  更新: 2020年06月11日

*前回の記事:予選Cリーグ3回戦・チーム康光VSチーム木村 事前特集

予選突破の残り1枠を懸けた、Cリーグの第3試合。チーム康光「Legend」は1ポイント、チーム木村「酔象」はマイナス2ポイントで迎えた。

オーダーは下記の通りで、ともにチーム糸谷戦からガラッと変えている。チーム康光は予想通りだったようだが、控室に戻った木村は「ずいぶん外れたよね」と意表を突かれたようだ。

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行方VS森内戦前の木村控室

先鋒 森内俊之九段-行方尚史九段
中堅 佐藤康光九段-野月浩貴八段
大将 谷川浩司九段-木村一基王位

【先鋒戦】森内俊之九段VS行方尚史九段

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先鋒戦 行方尚史九段VS森内俊之九段

 森内と行方は何十年も練習将棋を指しており、互いに手の内は知り尽くしている。第1局は森内の先手で相矢倉になり、受けに回った森内が勝った。第2局も相矢倉から行方の攻め、森内の受けの構図になる。

【第1図は▲4四金まで】

 第1図は▲4四金と打ったところ。先手陣に直射している角の利きを止めながら玉頭を狙う攻防手だ。後手は△6七角成▲同玉△5七金から迫りたいが、まだ少し駒が足りない。だが、ここから森内は一気に引き離す。第1図で△4八銀▲3五飛△3四歩▲同飛△4三金が好手順だった。飛車取りに銀を打って△5七桂成や△5七銀成を作り、「大駒は近づけて受けよ」の△3四歩を利かしてから△4三金で駒の入手をはかる。金を持ち駒に加えれば△6七角成▲同玉△5七銀成からの寄せに迫力が出て、先手は受けがない。実戦も△6七角成からの寄せが実現し、森内が押し切った。

 森内の2連勝でチーム康光は3ポイントになり、決勝トーナメントまであと1勝とした。控室に戻った森内は谷川と佐藤に笑顔と拍手で迎えられ、「ありがとうございます」と照れ笑いを浮かべている。チーム木村はマイナス4ポイントであとがない。リーダーの木村は「空回りしちゃったか」と意気消沈する行方を慰めた。

 後日、森内に取材すると、フィッシャールールの対局は、将棋どころか趣味のチェスでもあまり指したことがなく、AbemaTVトーナメントに出場が決まってから加藤桃子女流三段、山根ことみ女流二段と何局か練習したそうだ。

 「高見さんと行方さんに勝てたのは彼女たちのおかげですね。10秒将棋はある程度、将棋になるんですけど、フィッシャールールの5秒は考えて動かすだけです。団体戦は小学生のころ、羽生さんのチームと対戦したことがあります。中堅戦で迎えた高見戦は、負けても自分だけの責任ではないこと、行方戦は先鋒だったので、どちらも気楽でした(笑)。チームメイトの勝敗よりは将棋の内容に興味がありましたね。でも、あと1勝で決勝トーナメントが決まるときは、佐藤さんが勝ってくれないかなと思っていました(笑)」(森内)

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森内の会心の指し回しで2連勝に康光控室は笑顔

【中堅戦】佐藤康光九段VS野月浩貴八段

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中堅戦 佐藤康光九段VS野月浩貴八段

 作戦会議で、佐藤は「相掛かりを指す棋士は渋い手が多い」と野月を分析していた。第1局は先手の野月が得意の相掛かりに出る。途中は時計の押し忘れのハプニングがあるも、佐藤陣にできた一瞬のスキを突いて快勝した。

第2局は野月の右玉から激しい攻め合いになった。第2図は8四の地点で飛車交換になり、△同馬と取り返したところ。

【第2図は△8四同馬まで】

 残り6秒だった佐藤は1秒まで考えて▲7八飛 ! △同金になんと▲6七金から詰んでいる。実戦は▲6七金以下△7五玉▲7六歩△6四玉▲5六桂△5五玉▲4四角△4六玉▲3七銀△4五玉▲4六歩△5四玉▲5五歩△4三玉▲5三銀成△同金▲3三銀成で野月が投了。途中の△4五玉に代えて△4七玉は▲4八歩があり、最後の▲3三銀成に△5二玉は▲5三角成△同玉▲4三金までの詰みだ。佐藤がいつも通りの豪腕を発揮し、リーダー自らの勝利で決勝トーナメント進出を決めた。

 実は、佐藤は読み切れないまま▲7八飛を指し、ギリギリの着手だったので時間切れ負けも覚悟していたという。局後のインタビューに何度も「運がよかった」と振り返った。
第3局は野月が勝ち、意地を見せている。

【大将戦】谷川浩司九段VS木村一基王位

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大将戦 谷川浩司九段VS木村一基王位

 第1局は谷川の先手で角換わりの最新形になり、今年2月に行われた第13回朝日杯将棋オープン戦▲千田翔太七段―△藤井聡太七段戦(先手勝ち)から木村が変化して、リードを奪った。

【第3図は▲8一角成まで】

 第3図は▲8一角成と飛車を取ったところ。ここから△6六桂▲6三馬△3一玉▲7四馬△7六歩と進み、最後の歩の取り込みが詰めろで後手優勢がはっきりした。途中の△6六桂に▲6八金は△8八銀▲同玉△5八桂成の筋を狙われてしまう。▲6三馬は仕方ないが、△3一玉で△2二玉の逃げ道ができ、先手の追撃が甘くなった。谷川は△7六歩に▲8八金打と受けたものの、△7八桂成▲同金△6六銀と食いつかれては振りほどけない。木村の入念な研究はもちろんのこと、途中は持ち時間を7分!まで増やし、完全勝利といえる内容だ。

 第2局は谷川が久々にゴキゲン中飛車を採用したが、木村が超速3七銀から駒得を生かして快勝する。最終ポイントはチーム木村がマイナス1、チーム康光がゼロ。チーム糸谷は1ポイントだったので、Cリーグも大接戦だったといえよう。

 収録後(※収録は2020年2月に行なわれた)、木村が記者を「酔象」の打ち上げに誘ってくれた。対局が近い野月は早めに切り上げたが、木村と行方は日本酒を飲み続けた。お開きになったのは深夜3時過ぎ。「チームに貢献できなかったから」と行方がすべて支払い、記者もご相伴に預かった。

■ABEMAプレミアムで公開中 予選の動画一覧はこちら>>

予選Cリーグ:
予選Cリーグ 第一試合<チーム康光 VS チーム糸谷>
予選Cリーグ 第二試合<チーム木村 VS チーム糸谷>
予選Cリーグ 第三試合<チーム康光 VS チーム木村>

予選Aリーグ:
予選Aリーグ第一試合<チーム豊島 VS チーム久保>
予選Aリーグ第二試合<チーム豊島 VS チーム三浦>
予選Aリーグ第三試合<チーム久保 VS チーム三浦>

予選Bリーグ:
予選Bリーグ 第一試合<チーム天彦 VS チーム稲葉>
予選Bリーグ 第二試合<チーム渡辺 VS チーム天彦>
予選Bリーグ 第三試合<チーム渡辺 VS チーム稲葉>

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AbemaTVトーナメント

紋蛇

ライター紋蛇

2012年より、ネット中継に携わる。担当局で一番長い中継が2013年3月の第71期順位戦C級1組の森けい二九段-近藤正和六段戦で、持将棋の末指し直しとなり、終局時刻は翌日の朝5時40分。「中継は体力だ」と痛感している。

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