将棋界最高峰の頭脳対決。豊島名人VS渡辺三冠による第78期名人戦七番勝負の展望は?

将棋界最高峰の頭脳対決。豊島名人VS渡辺三冠による第78期名人戦七番勝負の展望は?

ライター: 武蔵  更新: 2020年06月09日

新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が解除され、いよいよ第78期名人戦七番勝負が始まる。幕開けとなる第1局は6月10日(水)から、三重県鳥羽市「戸田家」で行われる。

豊島将之竜王・名人に挑戦するのは、A級を史上4人目となる全勝で勝ち抜いた渡辺明三冠。複数冠を保持する現代将棋界最高峰の両者が繰り広げる頭脳勝負に、大きな期待が集まっている。どのような勝負になるのだろうか。2019年度の両者の活躍や対戦成績を元にして、読み解いていく。

竜王・名人を併せ持つ 豊島

まず、前期の七番勝負で4連勝して名人位を奪取。新元号に変わって初の名人となった豊島。その後、竜王も獲得して竜王と名人の同時戴冠を果たした。豊島以前の竜王・名人は、達成した順に羽生善治九段、谷川浩司九段、森内俊之九段の3名しかいない。その錚々たる顔ぶれに豊島も名を連ねた。

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2019年度の成績は39勝19敗。棋聖戦や王位戦では惜しくもタイトル防衛とはならず悔しい思いをしたが、各棋戦で安定した成績を収めており、好調を維持している。AIを用いた研究を武器にして、一気に棋界のトップに躍り出た。竜王位を獲得する前には「竜王を獲っても二冠に復帰するだけで、いまの勢力図ではトップではない」と語ったことがある。しかし、最近では相手の得意な形を受け入れ、受けきって勝つという内容が増えてきた。将棋の内容も充実しており、王者といえる風格すら出てきている。

今期A級順位戦全勝 渡辺

対する渡辺は今期A級全勝という、中原誠十六世名人、森内俊之九段、羽生善治九段に続いて史上4人目の完全勝利を収め、他の追随を許さない活躍で挑戦者に名乗りを上げた。順位戦だけを見ると、第76期にB級1組陥落を経験して以降というもの、一度も負けていない(21連勝)というのはすさまじい成績だ。21連勝は史上2位タイの記録。ちなみに1位は森内九段が打ち立てた26連勝である。

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2019年度の成績は41勝15敗。2019年度は棋聖戦、棋王戦、王将戦の番勝負に登場した。棋聖戦では豊島からタイトルを奪った。棋王戦では勢いのある若手、本田奎五段の挑戦を退け、3月末に行われた王将戦ではフルセットの末に王将を防衛した。タイトル戦が続いて対局が多く、大変な日程ではあったが、ふたつのタイトルの防衛に成功しており、まさに順風満帆といえる流れだ。

両者の対戦成績と戦型

これまで対戦成績は豊島の11勝、渡辺の16勝と渡辺が勝ち越している。初対戦から渡辺が大きく勝ち越してリードしていたが、直近の5試合では豊島が4勝と盛り返している。直近の対戦は、叡王戦の挑戦者決定戦三番勝負。豊島が2勝1敗で渡辺を破り、挑戦者になったのは記憶に新しい。両者がタイトル戦で相まみえるのは、昨年の棋聖戦五番勝負以来となる。豊島から見れば、棋聖を奪われた雪辱を果たす絶好の機会といえるだろう。

戦型について見てみると、両者は居飛車党なので相居飛車の将棋になることは間違いない。最近の将棋は、序盤から積極的に敵の弱点を狙う早い展開が顕著になった。角換わりや相掛かりの人気が高く、矢倉も復活傾向にある。その代わりに横歩取りは減少傾向。各戦法で昔からの定跡にとらわれない新しい指し回しが増えている。例えば、矢倉においてはがっぷり四つに組むようなじっくりとした戦いは減り、先手が5筋の歩突きを保留して、後手からの急戦策を防ぐ作戦が流行中だ。どの戦法も日進月歩で、目まぐるしく変化し続けている。両者はどの戦型になったとしても対策や研究に抜かりはないだろう。

ほかに気になる点としては、新型コロナウイルスの影響により、多くの棋戦で対局が先送りになったため、日程が過密になることだ。豊島は名人戦のほかに叡王戦の挑戦者でもある。渡辺もその点では同じで、名人戦の最中に棋聖戦の防衛戦を戦わなければならない。棋聖戦は藤井聡太七段が史上最年少でのタイトル挑戦を決め、否応なしに世間の注目も高くなってくる。将棋の内容もさることながら、体調管理が最重要課題になりそうだ。

2019年度はタイトル挑戦者がその勢いのまま、タイトルを奪取するという傾向にあった。防衛したのは、棋王と王将を堅持した渡辺のみだ。

数年前には、タイトルを1人が1つ保持した「群雄割拠」と呼ばれた時代があった。現在は豊島、渡辺、永瀬拓矢二冠が複数冠を保持し、木村一基王位が続いている。タイトル挑戦から奪取の流れが続くようならば、棋界の勢力図が大きく変わる可能性もあるだろう。両者の対戦もさることながら、棋王戦挑戦者になった本田五段や、3年連続で勝率8割超えを達成した藤井聡太七段などの若手の活躍が近年は著しい。タイトル保持者を脅かす存在が着実に迫っている点も要注目だ。

豊島がタイトル初防衛となるのか、渡辺が自身初の四冠王となるのか、現代将棋界の頂上決戦を楽しみにしたい。

武蔵

ライター武蔵

2016年10月から、日本将棋連盟の中継スタッフとして働く。趣味は音楽鑑賞、野球観戦。サザンオールスターズと広島東洋カープの話になると、ただでさえ止まらないトークが、より勢いを増す。

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