大将戦でハプニングも?手に汗握る激闘の末、決勝進出チームが決定。~予選Bリーグ最終戦・チーム渡辺VSチーム稲葉戦の振り返り~

大将戦でハプニングも?手に汗握る激闘の末、決勝進出チームが決定。~予選Bリーグ最終戦・チーム渡辺VSチーム稲葉戦の振り返り~

ライター: 紋蛇  更新: 2020年05月18日

*前回の記事:5月16日放送、予選Bリーグ最終戦・チーム渡辺VSチーム稲葉 事前特集

Bリーグの勝ち抜けを懸けた、チーム渡辺「所司一門」とチーム稲葉「Invictus」の対戦が2020年5月16日(土)に放送された。オーダーは意外な組み合わせになった。

先鋒 石井健太郎五段-稲葉陽八段
中堅 近藤誠也七段-山崎隆之八段
大将 渡辺明三冠-佐々木大地五段

チーム稲葉は大将に若手の佐々木を置く、大胆なオーダー編成に出た。これを聞いた渡辺明三冠は「正直、予想外のオーダーがきたんですけど」とびっくり。オーダーの狙いについて「前回が惨敗だったので、オーダーをひっくり返して、気分を新たにやっていこう」と稲葉。実はチーム天彦戦のあとに、AbemaTVのスタッフに盤駒とチェスクロックを借りて、チーム内でみっちり練習したらしい。あとがないなかで、意表のオーダーと万全の準備で臨んだ。

先鋒戦 石井五段VS稲葉八段 

石井と稲葉は公式戦どころか練習将棋も指したことがないらしい。事前の作戦会議で、渡辺は稲葉を「シャープな攻め将棋」と分析していた。第1局は後手の石井が四間飛車でリードも奪ったが、稲葉が穴熊の固さを生かしてかみついた。

【第1図は△7四同金まで】

第1図は▲7四歩に△同金と払ったところだが、▲7一銀が鋭い。△同金は▲8三角成△同玉▲7一竜で寄ってしまい、△7一同玉は▲3四角成が王手竜取りになる。石井は銀を取らずに△9三玉と踏ん張ったが、▲7二角成△同銀に▲5二竜が両取りで厳しい。このまま稲葉が寄せ切り、チーム初勝利を挙げた。

第2局は矢倉模様から稲葉が急戦に出る。石井は斎藤慎太郎八段戦で受けの強さを見せたが、今回は稲葉の攻めに屈した。 チーム稲葉は2ポイントを獲得して、マイナス4に。2ポイントだったチーム渡辺はマイナス2ポイントで、総合のポイントは0になった。

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先鋒戦 石井五段VS稲葉八段

中堅戦 近藤七段VS山崎八段

近藤と山崎は、練習将棋を含めても初の対戦。第1局は近藤の先手で矢倉に。山崎が序盤に注文をつけ、6筋に位を取ってから銀矢倉→穴熊に組み替える珍しい展開。いつの間にか山崎がペースをつかみ、自身の初勝利を達成した。
第2局は山崎が得意の相掛かり。うっかりがあり、二枚換えになってしまい、形勢を損ねてしまう。だが、そこは山崎。独特の勝負術を披露した。

【第2図は△8二香まで】

第2図は△8二香と玉頭を狙って力をためたところだが、▲3五飛が逆転につながる一打。▲2二角成△同金▲3一角の狙いで、近藤は△3三銀▲3四歩△4四銀と受けたが、▲同角△同歩▲3三銀△同桂▲同歩成△同金▲3一角の強襲で流れが変わった。後に控室に戻った近藤は、第2図の△8二香に代えて△4九飛と攻防に打ち、香を温存するほうがまさったと振り返った。

終盤は近藤の中段玉から激戦が続いたが、秒読みで受け切るのは難しい。近藤が投了を告げると、控室の稲葉と佐々木は「ひぇー」「ひぇー」「これは奇跡が起きてるぞー」と喜びを爆発させた。山崎の2連勝で、チーム稲葉はマイナス2ポイント。チーム渡辺もマイナス2ポイントと同点になり、勝負の行方は大将戦の三番勝負に持ち込まれた

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山崎八段の2連勝に喜ぶ控室

大将戦 渡辺三冠VS佐々木五段

渡辺と佐々木の第1局。対局前からともにワイシャツ姿で、佐々木は腕まくりをして気合十分。後手の渡辺が雁木を採用したが、佐々木が中盤でリードを奪う。渡辺が投了直後に「ひどい」とぼやくほど、一方的な内容だった。

これでチーム稲葉は予選突破まであと1勝。チーム渡辺がチーム天彦とチーム稲葉の戦いの模様をモニタで見守っていたとき、ワンサイドゲームを見た渡辺は「明日は我が身だからなぁ」とつぶやいていた。とはいえ、チームが5連敗を喫するとは思っていなかったのではないか。

第2局は矢倉模様から力戦形に進んだが、中盤で千日手が成立した。指し直し局は渡辺の一手損角換わりでハプニング起きる。終盤に佐々木がチェスクロックを叩いたものの、押せていなかったのだ。控室のチーム稲葉が絶叫、チーム渡辺が「気づくな!」と念じるなか、佐々木は残り1秒でチェスクロックを叩くファインプレー。渡辺は「ひぇー」と頭を抱えて「いや、(時間が切れるのを)待っていたのに」と苦笑すると、佐々木も釣られて笑ってしまった。最後は渡辺が制してタイに持ち込んだが、局後のインタビューでざっくばらんに語っている。

「(佐々木にチェスクロックが押せていないことを)たぶん個人戦だったら教えていたんですけど、チーム戦だし黙ってようかなと思って、それで切れるのを待っていたら1秒で気づいちゃって、逆にこっちも慌てて。もう『勝った』と思っているわけですよ、さすがに」
「時間切れで勝とうとしている志の低さなんで。1局目があまりにひどかったんで、もう時間切れじゃなきゃ勝てない気になってしまいました」。

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チェスクロックを押せていない佐々木に控室は絶叫

いよいよ最終局。振り駒の結果、佐々木が先手番になり、またも渡辺が一手損角換わりを採用。二転三転となったが、解説の田村康介七段が「かっこいい手」と評した△2五金(第3図)が決め手。

【第3図は▲6四同馬まで】

▲2五同玉に△2七竜▲2六香△2四歩で、5三の角がよく働いて先手玉が詰んでいる。渡辺の勝利により、チーム渡辺はマイナス1ポイントで決勝トーナメント進出。チーム稲葉は予選敗退となった。

渡辺は若手強豪を相手に迎えてカド番、さらに先手番を千日手で失うといった流れが悪いなか、後手番を連勝して踏みとどまった。逆境で結果を残す、これぞ三冠の底力だった。

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予選Bリーグ:
絶体絶命の稲葉チームの逆転は!?予選Bリーグ 第三試合<チーム渡辺 VS チーム稲葉>
ついに最強の渡辺三冠登場! 予選Bリーグ 第二試合<チーム渡辺 VS チーム天彦>
おしゃれチームVSインビクタス!予選Bリーグ 第一試合<チーム天彦 VS チーム稲葉>

予選Aリーグ:
予選Aリーグ第一試合<チーム豊島 VS チーム久保>
予選Aリーグ第二試合<チーム豊島 VS チーム三浦>
予選Aリーグ第三試合<チーム久保 VS チーム三浦>
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AbemaTVトーナメント

紋蛇

ライター紋蛇

2012年より、ネット中継に携わる。担当局で一番長い中継が2013年3月の第71期順位戦C級1組の森けい二九段-近藤正和六段戦で、持将棋の末指し直しとなり、終局時刻は翌日の朝5時40分。「中継は体力だ」と痛感している。

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