痛恨の敗局【瀬川晶司六段編】(3)油断による見落とし

痛恨の敗局【瀬川晶司六段編】(3)油断による見落とし

ライター: 大川慎太郎  更新: 2020年01月27日

前回のコラムはこちら:(2)序盤でつかんだリード

第29期竜王戦ランキング戦6組準々決勝 VS近藤正和六段戦

油断による見落とし

先手はとにかく攻め続けるしかありません。攻めが止まってしまったら負けなのです。
飛車交換をした第5図で、先手は飛車と歩2枚しかありません。どう見ても攻めはなさそうですが、▲5三角成!が渾身の勝負手。△同金でタダですが、▲5一飛で攻めをつなげる意図です。

【第5図は△3一同金まで】

たださすがにこれは強引で、△4一飛▲5三飛成△5二銀引で大丈夫です。

以下、先手はしゃにむに攻めてきましたが、6三の金で銀を取った▲5三金(第6図)の局面では、「ラクになったな」と安心していました。銀を取られたとはいえ、攻めの要の金が玉から離れています。それにやはり先手は持ち駒が銀と歩だけでは攻めが続きません。

【第6図は▲5三金まで】

攻め続けられてずっと緊張していたのですが、「受けきった」と思ってすっと力が抜けたのがまずかった。正直にお話をすると、「次は青嶋君かー。どんな戦型でいこうかな」なんてこともチラリとよぎってしまっていたんです。お恥ずかしい。

実際、△3五角がピッタリなのです。▲6三金に△7一桂も狙いの一着。▲6四金と引かせて温泉気分でした。実はここで近藤さんが10分くらい考えていたので、投了すると思っていたのです。いやー、甘かった。

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受けの決め手を逃す

△1九馬と香を取ったのがつまずきの始まりでした。ここは△6一飛(参考1図)と金銀両取りに打てばゲームセットでした。分かってはいたけれど、そこまでする必要もないかな、と。それも甘いですね。

【参考1図は△6一飛まで】】

本譜の▲5一成銀に△6二香が厳しいと思っていました。▲5四金なら△5七歩が激痛です。こちらのほうが攻めが早いと思ったし、棋譜としても美しいのではないかと。

でも▲5三歩を見落としていました。△6四香に▲5二歩成(第7図)とされた局面は、対局者の心理としては難しい形勢になっています。と金を作られたし、先手玉は穴熊なので堅い。

【第7図は▲5二歩成まで】

局面に集中しなければいけないのに、「なんでこうなっちゃったんだ」と悔やんでいたのもよくなかったですね。後悔は対局の後にすればいいわけですから。(続く)

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※写真はすべて2015年7月31日 第74期順位戦C級2組3回戦 瀬川昌司五段 対 上村亘四段戦で撮影(段位は当時)
撮影:常盤秀樹

(4)「冴えがなかった終盤戦」へ続く

痛恨の敗局

大川慎太郎

ライター大川慎太郎

出版社退社後、2006年より将棋界で観戦記者として活動する。著作に『将棋 名局の記録』(マイナビ出版)、『不屈の棋士』(講談社現代新書)などがある。趣味は音楽鑑賞、サッカー観戦。映画、海外ドラマも好きで、最近はデヴィッド・フィンチャー監督の「マインドハンター」に度肝を抜かれた。

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