「絶対女王」里見倉敷藤花か、7度目のタイトル挑戦にして伊藤女流三段の悲願の初戴冠となるか 第27期大山名人杯倉敷藤花戦の展望は?

「絶対女王」里見倉敷藤花か、7度目のタイトル挑戦にして伊藤女流三段の悲願の初戴冠となるか 第27期大山名人杯倉敷藤花戦の展望は?

ライター: 相崎修司  更新: 2019年11月09日

第27期大山名人杯倉敷藤花戦の三番勝負が始まろうとしている。今期のシリーズは里見香奈倉敷藤花に伊藤沙恵女流三段が挑戦、両者によるシリーズは第25期以来、2年ぶり2度目の対戦となる。

今期のトーナメントを振り返ってみると、まず目につくのは加藤結李愛女流初段の活躍だろう。デビュー2年目の加藤だが、初参加となる今期倉敷藤花戦でブレークを果たした。初戦で同世代の礒谷真帆女流初段を破ると、続けて斎田晴子女流五段、香川愛生女流三段、井道千尋女流二段を連破。準決勝でも前期挑戦者の谷口由紀女流二段を下して挑戦者決定戦進出を決めた。初参加の棋戦で挑戦者決定戦へ進出したというのは相当に例がないことである。

決勝では伊藤が先輩の貫禄を見せたが、トーナメントベスト4のうち、伊藤、加藤、谷口の3名は今期の勝率順でもベスト4にある。他棋戦でも充実している証拠だろう。

なんといっても挑戦者の伊藤はすごい。今期成績はここまで25勝4敗の勝率0.862。対局数、勝ち数、勝率、そして連勝(9連勝)の記録四部門で全てトップに立っている。悲願の初タイトルに向けて意気揚々と前進だ。

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伊藤沙恵女流三段 撮影:文

その伊藤を迎え撃つ里見はどうか。新設のヒューリック杯清麗戦で前人未到の六冠を達成したが、直前のタイトル戦となった霧島酒造杯女流王将戦では西山朋佳女王に1勝2敗で屈した。西山には年度初めのマイナビ女子オープンでも1勝3敗で敗れている。このこともあり、里見の今期成績はここまで12勝9敗、0.571と、里見にしては好成績とは言えない(里見の通算勝率は0.743である)。

とはいえ女流棋士枠で参戦した男性棋戦では棋士編入試験にあと一歩まで迫ったこともあり、不調と言うのは早計か。気になるのは男性棋戦を合わせて、今年度に入ってから週1局以上のペースで対局が続くことによる多忙である。倉敷藤花戦の防衛戦もリコー杯女流王座戦五番勝負と平行になるため、連戦による疲労は無視できないところだろう。

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里見香奈倉敷藤花 撮影:吟

両者の対戦成績は里見15勝、伊藤5勝と差がついている。タイトル戦番勝負でも17年度の女流王位戦(里見の3-2)、女流王将戦(同2-0)、倉敷藤花戦(同2-0)、女流名人戦(同3-0)、18年度の女流名人戦(同3-1)と、常に里見が強さを見せつけていた。

だが、直前に行われたマイナビ女子オープンでは伊藤が勝ち、里見の女流七冠を阻止する形となった。上記の通り今年度の伊藤は絶好調と言える成績であり、年明けに番勝負が始まる岡田美術館杯女流名人戦でも、里見への挑戦権に最も近い所にいる。何より、初戴冠に向けての思いは強いだろう。

伊藤のタイトル戦登場は今回が7度目。奪取に成功すれば、奇しくも先日、7度目の挑戦で満願成就となった木村一基王位と数字が一致することになる。

戦型予想については、相振り飛車の可能性が相当に高い。過去20回の対戦のうち、10局が相振り飛車である。そして里見振り飛車の対抗形が7局、伊藤振り飛車の対抗形が1局、相居飛車が2局ある。基本的には里見の振り飛車に対して伊藤がどのような作戦を用意するかということに注目が集まる。

伊藤が悲願を達成するには初戦を制するかどうかが大きいとみる。三番勝負という短期決戦であることもそうだが、過去の里見とのタイトル戦で、伊藤は一度も開幕戦を勝ったことがない。先にリードすることで、心理的にも優位に立つのは大きいはずだ。

絶対女王か、充実の挑戦者か、注目の番勝負は11月10日に鳥取県米子市の「華水亭」で始まる。

相崎修司

ライター相崎修司

2000年から将棋専門誌・近代将棋の編集業務に従事、07年に独立しフリーライターとなる。2024年現在は竜王戦、王位戦・女流王位戦、棋王戦、女流名人戦で観戦記を執筆。将棋世界などにも寄稿。

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