「静」の池永四段VS「動」の服部三段。関西所属同士の対決となった若手登竜門棋戦、第9期加古川青流戦の展望は?

「静」の池永四段VS「動」の服部三段。関西所属同士の対決となった若手登竜門棋戦、第9期加古川青流戦の展望は?

ライター: 武蔵  更新: 2019年10月19日

若手の登竜門棋戦として創設された「加古川青流戦」も、第9期を迎えた。

第2期では永瀬拓矢五段(現二冠)が優勝し、第5期では稲葉聡さん(稲葉陽八段の兄)が、アマチュアとして棋戦初優勝を果たした。将来のタイトルホルダーの輩出やアマチュアの活躍など、多くのドラマがある本棋戦。今期、決勝の場に躍り出たのは池永天志四段と服部慎一郎三段関西所属同士の対決となった。関西勢同士が対戦するのは第1期の船江恒平四段-宮本広志三段(肩書は当時)以来8年ぶりとなる。

池永四段は大阪府出身の26歳。居飛車党で切れ味鋭い攻めを持ち味とする。第14回詰将棋解答選手権では、藤井聡太七段に次ぐ2位となるなど、終盤力は折り紙つき。最終盤での読みの速さ、正確さは誰もが一目置いている。関西将棋会館の3階にある「棋士室」によく出入りする棋士のひとりで、ほかの棋士や奨励会員を交えて対局の検討を行っている。日本将棋連盟モバイルの中継で池永四段の解説を目にする方も多いのではないだろうか。

今期は三田敏弘三段、星野良生四段、斎藤明日斗四段を連破。そして、準決勝では現在、第50回新人王戦決勝三番勝負を戦っている高野智史四段を破った。今期の青流戦の中で最も印象に残った対戦として、対斎藤明日斗四段戦を挙げている。「ずっと苦しい展開だったが、残り時間が切迫する中で、70手目△1四歩(第1図)を突いたのが印象的だった」と語っている。

【第1図は△1四歩まで】

対戦相手である服部三段の棋風を、早見え早指しで思いきりがよく、力強い将棋と評した。確かに、服部三段の時間の使い方は注目ポイントだ。決勝までの5局すべて、持ち時間の1時間を使いきることはなかった。すべて10分以上余らせて勝っている。

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池永四段 西遊棋イベントでの一幕

服部三段は富山県出身の20歳。2017年10月の第62回三段リーグが初参加。いきなり14勝4敗という高成績を残し、下位での参加ながら次点を取るという活躍をした(ちなみに、池永四段はその回で服部三段と同じ14勝を上げ、順位の差で四段昇段を果たしている)。加古川青流戦は奨励会三段リーグ戦の成績上位者が名を連ねており、服部三段は2期連続の参加。公式戦の成績は6勝2敗で、勝率は7割を超えている。

今期は、山田祥五アマ、西田拓也四段、石川優太三段(現四段)、本田奎四段、そして井出隼平四段と、加古川青流戦優勝、準優勝経験者を立て続けに破って決勝進出を果たした。今期の青流戦の中で最も印象に残った対戦として、2回戦の対西田四段戦を挙げている。「奨励会級位者のときから得意としている棒銀を用いた。形勢は悪くなってしまったけれど、そこから勝てたのは大きかった。最後も打ち歩詰めで逃れたのは奇跡だった(第2図)」と語っている。

服部三段も池永四段と同じく、棋士室によく出入りをする。朝早くから関西将棋会館に赴き、盤に詰将棋を並べてじっと考える。雨の日も風の日も関係ない。自身が記録係を務めるときですら、対局の準備を始めるギリギリまで詰将棋を考えており、まさに将棋漬けの毎日を送っている。対戦相手の池永四段の棋風を、居飛車党の本格派で攻め将棋。終盤がとにかく強いので警戒している、とまとめた。

【第2図は▲9七同桂まで】

池永四段は普段からおとなしく、自分からはあまり多くを語らない。寡黙という言葉が似合う。対する服部三段はムードメーカー。将棋以外では漫才を好んでおり、自分でネタも作る。彼の周りは笑顔が絶えない。そんな服部三段は「自分の将棋を全国の方に見ていただける機会はあまりなかったので、対局が近づくに連れて緊張が増している」と、素直にいまの心境を語っている。静と動のふたりが、決勝という舞台で盤上に激しい火花を散らす。

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第60期王位戦七番勝負第3局の記録係を務める服部三段

ふたりは昔から練習将棋を数多くこなしてきたという間柄。互いの手の内を熟知しているからこその熱く面白い戦いが見られることは間違いない。池永四段が棋士として結果を残すのか、服部三段が奨励会員での優勝を決めるのか、大いに注目したい。三番勝負は10月19、20日(土、日)兵庫県加古川市「鶴林寺」で行われる。

最後に、本局に向けての両者の意気込みをまとめて、展望記事の締めとしたい。

「棋士になって結果を残す初めてのチャンスとなった。悔いのないように頑張りたい」(池永四段)

将棋の自信はあるが、スピーチと字にはないため、不安も多い。加古川青流戦では奨励会員の優勝がまだないので、池永四段との将棋を楽しみながら、自分が三段勢初の優勝をつかみ取りたい。いま行われている日本ラグビーに負けないように、熱く魂を燃やしたい」(服部三段)

武蔵

ライター武蔵

2016年10月から、日本将棋連盟の中継スタッフとして働く。趣味は音楽鑑賞、野球観戦。サザンオールスターズと広島東洋カープの話になると、ただでさえ止まらないトークが、より勢いを増す。

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