ライター渡部壮大
将棋の月刊誌、週刊紙、書籍などの編集部に在籍経験あり。
アマチュア大会の最高成績は全国ベスト16だが、もう少し上に行けないかと日々努力中。
ライター: 渡部壮大 更新: 2019年10月02日
7度目の挑戦で悲願の初タイトルを目指す46歳木村一基九段。対するは初のタイトル防衛を掛けた豊島将之王位。両者は第32期竜王戦の挑戦者決定三番勝負でも顔を合わせ、十番勝負とも言われた。両者にとって忘れられない夏となったことだろう。
開幕は愛知県名古屋市「か茂免」にて。豊島が先手となり、横歩取りへ。近年流行の青野流ではなく、8五飛の持久戦となったが豊島が形勢をリードする。
【第1図は△2二歩まで】
ここに歩を打つようではすでに後手が苦戦だ。ここから▲4六桂△6四飛▲5五角△1四飛と飛車を追いやってから▲8五桂と攻める。△同桂なら▲9一角成だ。実戦は△6四歩だが、▲7三桂成△同銀で形を乱してから▲1六歩と飛車を圧迫しにいって先手優勢。最後は大差となり、豊島が完勝で初防衛に向けて幸先の良いスタートを切った。
第2局は北海道札幌市「京王プラザホテル札幌」にて。相掛かりから先手の木村がリード。局面は完封モードとなり、時間も大差で圧勝するかに見えたが事件が起こる。
【第2図は▲6六銀まで】
ここで△4五桂が先手の防衛網を破る必殺の一撃。▲4五同歩は△2八角成、▲5五銀は△7八歩成▲同玉△5七桂成だ。▲5六金にも△6六角▲同金△5七銀で手が続く。実戦は▲6七玉と立ったが、△5七桂成▲同銀△2七歩▲4八飛△4四角で先手はまとめるのが難しくなった。
豊島が逆転で2連勝。木村にとっては完敗、大逆転負けで2連敗と非常に悪いスタートとなったが、ここから逆襲が始まる。
豊島王位は開幕2連勝としたが・・・
第3局は福岡県福岡市「大濠公園能楽堂」にて。豊島が先手で相矢倉となり、うまく上部を厚くした木村がペースをつかむ。
【第3図は▲4四桂まで】
上から押さえられていて怖いが、先手は攻め駒が少ない。△6一銀がピッタリの受けで、後手がしのいでいる。以下▲5四歩△同銀に▲5二金打から暴れたが先手の攻めは届かない。最後は反撃を決めた木村が1勝を返した。
第3局の後に行われた竜王戦挑戦者決定戦第1局は豊島が圧勝。そして第4局を迎えた。舞台は兵庫県神戸市「中の坊瑞苑」。第2局に続く相掛かりから先手の木村がリードする。しかし豊島も必死の粘りで入玉に成功して長期戦に。点数をリードする木村も入玉し、タイトル戦史上最長手数の大熱戦となった。
【第4図は▲8三銀不成まで】
図は投了の局面。互いの玉は寄らないが、将棋には玉を詰ますほか、相入玉の場合には点数で勝敗を着ける規定がある。玉以外の駒を点数として数え、大駒は5点、小駒は1点で計算。図は双方駒をタダ取りするのは事実上不可能で、これ以上点数は動かない。先手の木村は盤上の駒が21点に加え、持駒の13点と合わせて34点。後手の豊島は盤上の駒が13点で、持駒が7点の計20点。双方24点以上ある場合には持将棋となり引き分けとなるが、この場合は点数の足りない豊島の負けとなる。
なお、木村は2014年の第55期王位戦第3局で持将棋の経験がある。通常の対局の場合は千日手同様、同日指し直しがあるが、王位戦七番勝負においては引き分けで決着する。
十番勝負の前半は豊島が3勝、木村が2勝で決着は後半戦へともつれ込んだ。
木村九段がタイトル戦史上最長手数を制した
画像は王位戦中継ブログより
ライター渡部壮大