斎藤王座VS永瀬叡王の同年代対決。第67期王座戦五番勝負の展望は?

斎藤王座VS永瀬叡王の同年代対決。第67期王座戦五番勝負の展望は?

ライター: 武蔵  更新: 2019年09月02日

いよいよ、第67期王座戦五番勝負が開幕する。タイトル保持者である斎藤慎太郎王座に挑むのは、今年の5月に自身初となるタイトルを獲得した永瀬拓矢叡王。永瀬叡王は1992年生まれ、斎藤王座は1993年生まれと同年代対決となった。永瀬叡王は挑戦者決定トーナメントで、順に山崎隆之八段、高見泰地叡王(現七段)、佐藤天彦九段、そして豊島将之名人を破った。5度目のタイトル戦登場で、王座戦での挑戦は初となる。今回の王座戦五番勝負は果たしてどうなるのか。成績や棋風などのデータから、今後の展開を予想してみよう。

両者の成績と棋風

斎藤王座にとって今回の番勝負は、初の防衛戦となる。今年度の成績は6勝4敗(0.600)。各棋戦で安定した成績を収めており、高いレベルでの安定感は抜群である。斎藤王座の特徴といえば、やはり詰将棋を得意とする読みの深さであり、終盤力を武器にした踏み込みのよさだ。タイトル獲得の原動力となった切れ味の鋭い攻めは、この1年でより威力を増して脅威だろう。

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第66期王座戦第3局終局後の斎藤七段(当時) 撮影:常盤秀樹

一方の挑戦者の永瀬叡王はどうか。今年5月、第4期叡王戦で当時叡王の高見泰地七段を4連勝で破り、タイトルを奪取した。今年度の成績は16勝9敗(0.640)。連勝ランキングでは1位となる15連勝を記録しており、第32期竜王戦ではタイトル挑戦に近づく活躍を見せるなど、タイトル奪取の勢いをそのままに、好調を維持している。デビュー当時は振り飛車党で、(故)大山康晴十五世名人を彷彿とさせるような受け将棋が特徴だったが、今は居飛車党に変わってバランス重視の棋風になった。「主張できるポイントを生かして、息長く指す」。永瀬叡王が好む指し方である。

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第4期叡王戦第4局終局後の永瀬新叡王 撮影:武蔵

両者の対戦成績は1勝1敗の五分。局数も少ないため、データだけでは読み取れないことが多い。例えば、戦型について。両者はいずれも居飛車に主軸を置いており、最新の定跡に精通している。角換わりや相掛かり、矢倉、横歩取りなどを得意としているため、ひとつの戦法に絞りきるのは難しい。五番勝負すべて戦型が違っても何ら不思議ではない。そういった戦型予想も、この五番勝負の楽しみのひとつだ。

また、今年度のタイトル戦は挑戦者の活躍が目立っている。名人戦、叡王戦、棋聖戦とすべて挑戦者がタイトルを奪取した。斎藤王座がこの流れを断ち切るのか、永瀬叡王が流れにのって勝ち進むのか、注目したい。

前期からの変更点と楽しむポイント

次に、前期から大きく変わった点として、消費時間の計測方式が挙げられる。前期まではストップウォッチを使用して60秒未満を切り捨てていたが(例:1分40秒→1分)、今期からチェスクロックを使用して秒単位も加算される計測方式になった。5時間という持ち時間は変わらないが、かなりスピーディーな進行が予想される。

将棋にあまり詳しくない方でも楽しめるポイントとして、対局者が注文する食事やおやつ、いわゆる「将棋めし」が挙げられる。斎藤王座は無類のラーメン好き。関西将棋会館の3階の「棋士室」という部屋は、棋士や奨励会員が練習将棋や対局の検討を行っており、大事な情報交換の場として重宝されている。斎藤王座はそこで練習将棋の合間などに、関係者と地域の美味しいお店の情報を交換し合い、実際に足を運んでいる。地方の名産品に舌鼓を打つべく、食事を吟味することは間違いないので、グルメな王座が何を注文するのか期待してみたい。

一方、永瀬叡王は叡王戦の番勝負で、多くの注文をしたことで注目を集めた。特に対局時の栄養補給として、バナナを数本手元に置いておく光景はもはや当たり前となっている。消費時間の計測方式が変わったことに加え、夕食休憩の時間も変更された。いままでの18時10分から19時ではなく、17時30分から18時の30分間となった。昼食休憩は変わらず12時10分から13時まで。ほかの棋戦を見ても30分という休憩時間は珍しい。時間の使い方もカギになるだろう。

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第66期王座戦第3局終局後 撮影:常盤秀樹

以上、両対局者の棋風や成績などを挙げて楽しめるポイントを考えてみた。この番勝負、どちらが勝ってもタイトル通算2期獲得で、八段に昇段となる。また、永瀬叡王が勝てば複数冠棋士となり、渡辺明三冠、豊島名人(王位)に次いで3人目となる可能性がある。複数冠棋士が3人になるのは、2014年(平成26年)の森内俊之二冠(竜王・名人)、羽生善治三冠(王位・王座・棋聖)、渡辺明二冠(棋王・王将)以来、約5年ぶりとなる。ちょうど1年前の夏は、八大タイトルを8人が分けあう、「群雄割拠」と呼ばれる時代だった。その1年後に将棋界の勢力図は、大きく変化するかもしれない。1991年(平成2年)には、谷川浩司三冠に福崎文吾王座と南芳一王将で、関西勢が五冠を保持する時代もあった。

2019年が終わりを迎える頃には、将棋界の勢力図はどうなっているのだろうか。将棋界の歴史の転換期を間近で目撃できそうなチャンスだ。この番勝負、目が離せない。

注目の初戦は2019年9月2日(月)、神奈川県秦野市「元湯 陣屋」で行われる。

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※成績は8月30日(金)現在のもの。


武蔵

ライター武蔵

2016年10月から、日本将棋連盟の中継スタッフとして働く。趣味は音楽鑑賞、野球観戦。サザンオールスターズと広島東洋カープの話になると、ただでさえ止まらないトークが、より勢いを増す。

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