豊島棋聖VS渡辺二冠、大熱戦のタイトル戦。各局の注目ポイントを振り返る【第90期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負振り返り】

豊島棋聖VS渡辺二冠、大熱戦のタイトル戦。各局の注目ポイントを振り返る【第90期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負振り返り】

ライター: 渡部壮大  更新: 2019年07月11日

初のタイトル防衛戦に臨む豊島将之棋聖(名人・王位)に渡辺明二冠が挑戦した第90期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負。三冠VS二冠ということで、棋界の覇権を懸けた頂上決戦として注目を集めた。

どちらも絶好調で、開幕前は連勝で迎える。対戦成績は渡辺から見て12勝5敗と、ダブルスコア以上に偏っているのは意外な印象だ。

五番勝負第1局

開幕は兵庫県洲本市「ホテルニューアワジ」にて。渡辺が先手となり、矢倉の出だしだったが急戦模様の力将棋となる。渡辺が最初に形勢をリードするが、その後は形勢が揺れ動く熱戦に。

【第1図は▲8七同玉まで】

大熱戦の終盤戦。ここから△4六馬▲同歩△6四銀が迫力ある追い込み。後手はとにかく△7五桂を実現させたい。対する先手も負けていない。▲3五銀△同歩▲2五歩△同桂▲4五角が鋭い反撃で、一瞬詰まない形を生かしている。先手にやや分のある終盤戦が続いたが、最後に一失あり後手が競り勝つ。開幕から頂上決戦に相応しい大熱戦を制し、豊島が初防衛へ好発進。

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初戦を白星で飾った豊島棋聖

五番勝負第2局

第2局は名古屋市「亀岳林 万松寺」にて。角換わり腰掛け銀から、渡辺が早い段階でペースをつかむ。それでも豊島が追い込み、際どい終盤戦となった。

【第2図は▲2三飛成まで】

先手も攻め込んで、次に▲3三馬が入れば攻防ともに手厚く勝ち筋だ。一見先手玉は広く、大変に見えたがピッタリの寄せがあった。図から△7八銀成▲6七玉△6八角成▲6六玉△6五歩▲同玉△6四歩▲同玉△4六馬▲6五玉△8五飛まで後手の勝ち。歩を叩いていき、△4六馬と引くと意外に先手玉は狭い。そして最後の△8五飛が華麗な決め手で先手玉はどう応じても詰んでいる。歩の数もピッタリの鮮やかな収束だった。1勝1敗となってシリーズはあらためて三番勝負に。

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渡辺二冠が勝って1勝1敗に

五番勝負第3局

第3局は静岡県沼津市「沼津倶楽部」にて。第1局に続き渡辺が矢倉を志向し、豊島は急戦に出る。渡辺が中央の厚みを生かした指し回しで形勢をリード。

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五番勝負第3局

【第3図は△5三金寄まで】

図から▲6三銀が痛打。△同金寄▲同歩成△同金と清算してしまうと▲5五銀で綺麗に攻めが決まる。本譜は△6一金と辛抱したが、▲5四歩△4三金▲7四銀成△6二歩▲6三歩成△同歩▲7三角成で成銀と馬を作って先手が不敗の態勢となった。以下は渡辺が圧勝し、初の棋聖まであと1勝。

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初の棋聖まであと1勝と迫った渡辺二冠

五番勝負第4局

第4局は新潟市「高志の宿 高島屋」にて。後手の渡辺が雁木を目指し、豊島は左美濃から動いていく。本局も形勢が揺れ動く大熱戦となった。

【第4図は▲6八同玉まで】

図はすでに双方一分将棋。ここでは△4九馬と迫るのが自然だが、▲7八銀打と抵抗されて難しい。ベタっと△7九金が好手だった。▲7八銀打の受けは仕方ないが、△6九金▲同銀と金銀を入れ替えてから△4九馬としたことによって、先手は▲7八銀打の受けが利かなくなっている。通常は金があった方が受けやすいが、この場合は例外だった。以下も熱戦が続いたが、渡辺が押し切った。

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名人・王位の二冠となった豊島名人

シリーズは第2局から渡辺が3連勝。初の棋聖奪取とともに、三冠復位を果たした。一方の豊島は二冠に後退したが、竜王戦、王座戦で挑戦に向けて勝ち上がっている。両者が再びタイトル戦の舞台で相見える日も来ることだろう。

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初の棋聖奪取となった渡辺三冠

*写真はヒューリック杯棋聖戦中継ブログより

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渡部壮大

ライター渡部壮大

高校生でネット将棋にハマって以来、趣味も仕事も将棋な人。
将棋の月刊誌、週刊紙、書籍などの編集部に在籍経験あり。
アマチュア大会の最高成績は全国ベスト16だが、もう少し上に行けないかと日々努力中。

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