藤井システムの登場で急増した、対振り飛車金美濃の組み方(1)【玉の囲い方 第81回】

藤井システムの登場で急増した、対振り飛車金美濃の組み方(1)【玉の囲い方 第81回】

ライター: 一瀬浩司  更新: 2019年07月19日

今回のコラムでは、対振り飛車における「金美濃」をご紹介します。なお、こちらの囲いには正式な名称はつけられていないようです。何人かの棋士に聞いてはみましたが、首をひねりながら「そういえば名前ってないですねぇ...」など、このような返答ばかりでした。ですので、仮称としてひとまず本コラムでは金美濃としておきます。

囲いの名前はないと言っても、これまでプロの対局でも数多く指されています。本コラムを読まれている方も、だいたいの方が見られた、もしくは指したことがある囲いだと思います。では、対振り飛車における金美濃とはどのような囲いなのか? 見ていきましょう。

対振り飛車における金美濃とは

囲いの特徴:第1図をご覧ください。

【第1図は▲7八金まで】

平成9年3月27日、第38期王位戦挑戦者決定リーグ紅組、▲佐藤康光八段ー△藤井猛六段戦(肩書は当時)です。先手の佐藤九段が使っている囲い、よく見たことはありませんか? 昭和の時代はほとんど使われることはなかった囲いですが、平成に入り、プロの対局で頻繁に使われるようになりました。

なぜでしょうか? それは、第1図のような藤井システムの登場が大きな要因と考えられます。データベースで、8八玉、7九銀、7八金、7七角、6七金、5七銀の形で検索をかけてみると、昭和の時代ではたった三局しか、対振り飛車の形でヒットしませんでした。

ところが、藤井システムが登場した平成9年ごろから局数が急増しています。振り飛車側から積極的に攻勢を狙う将棋が増え、▲7八金(△3二金)と一手上がっただけで囲いが安定するところがなんといっても大きいでしょう。例えば第2図をご覧ください。

【第2図は△2二飛まで】

ここで、▲9八香から穴熊を目指そうとすると、△2四歩▲同歩△同飛(第3図)とすかさず仕掛けられてしまいます。

【第3図は△2四同飛まで】

第3図から、▲2四同飛△同角▲2二飛とすれば飛車は先着できますが、△2八飛と王手で打ち返されてしまいます。以下、▲9九玉と潜るのは△3三桂と逃げられるくらいでも先手陣はまだバラバラで苦戦ですが、△5七角成! という強襲もあります。▲5七同金は△2二飛成と飛車を素抜かれますし、▲2八飛成も△6七馬と二枚換えをされ、いずれも先手不利ですね。

もし、第2図で▲9八香でなく、▲7八金と指していれば、△2四歩▲同歩△同飛には▲同飛△同角▲2二飛に△2八飛が王手にならず、▲2一飛成で次に▲1六桂(△5一角などと逃げれば2八の飛車を取れる)の狙いもあって先手よしとなります。また、仕掛けられなければ▲9八香から穴熊に組むこともでき、さらに堅固な陣にすることもできます。

対振り飛車金美濃に組むまでの手順

それではいつも通り、先手側の駒だけを配置して、対振り飛車金美濃に組むまでの手順を見ていきましょう。 囲いに組むまでの手順:初手から、▲7六歩、▲2六歩、▲4八銀、▲5六歩、▲6八玉、▲7八玉、▲5八金右、▲5七銀(第4図)。

【第4図は▲5七銀まで】

ここまでは何度も見かけた形ですよね。さらに固めていきます。第4図から、▲7七角、▲6六歩、▲6七金、▲8八玉、▲7八金(第5図)。

【第5図は▲7八金まで】

では、次回のコラムでは組む際の注意点と発展形を見ていきましょう。

玉の囲い方

一瀬浩司

ライター一瀬浩司

元奨励会三段の将棋ライター。ライター業のほか、毎月1回の加瀬教室や個人指導など、指導将棋も行なっている。主なアマチュア戦の棋歴としては、第34期朝日アマチュア将棋名人戦全国大会優勝、第63回都名人戦優勝などがある。

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杉本和陽

監修杉本和陽四段

棋士・四段
1991年生まれ、東京都大田区出身。2017年4月に四段。師匠は(故)米長邦雄永世棋聖。バスケットボールを趣味とする。ゴキゲン中飛車を得意戦法とする振り飛車党。
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