「将棋の上達は詰将棋から」詰将棋本5選をご紹介

「将棋の上達は詰将棋から」詰将棋本5選をご紹介

ライター: 水留啓  更新: 2019年06月01日

将棋講師という仕事柄、多くの方に将棋上達法について尋ねられます。私の場合は、その場面や質問者の背景に応じて様々な答えを用意してはいるのですが、結局は「やっぱり詰将棋が一番効果がありますよね」と締めくくることがもはや定跡になりつつあります。

「詰将棋をやりましょう」と言われたときの質問者の反応は、たいてい「やっぱり詰みが大切なのですね」というものです。しかし、その言葉は半分は当たっているのですが、半分は当たっていません。つまり、詰将棋を解くことは、もちろん玉を詰ます技術を伸ばす練習ではあるのですが、それだけでなく、頭の中で駒を動かす訓練も担っているのです。ところで、「王手は追う手」という格言がありますね。相手玉に詰みがないときにむやみに王手をすると玉を逃してしまうという意味です。この格言から少し飛躍して解釈すると、「詰将棋はただ王手をかける練習ではないよ」と示唆してくれているといえるのではないでしょうか。

『藤井聡太推薦! 将棋が強くなる基本3手詰』(マイナビ、日本将棋連盟)

詰将棋というと、難しいという印象を持たれることが多いかもしれませんが、初級者がいきなり長手数の詰みや難しい詰みをマスターする必要はありません。最初のうちは短い手数の問題をたくさんこなしましょう。わからなければすぐに答えを見てしまって構いません。プロ棋士や有段者であっても、毎日ウォーミングアップや頭の体操として短手数の詰将棋をこなしているという話はよく聞きますね。駒の動きを覚えたばかりの入門者にとって大事なのは、1手詰をこなして駒の利きに慣れること。そして余力があれば3手詰に挑戦して「自分の手、相手の手、自分の手」という3手の読みを手に入れることを念頭にチャレンジしてみてください。

藤井聡太七段が推薦するこちらの3手詰の本。全日本詰将棋連盟・会長の柳田明さんが問題作成を担当されており、そのクオリティは疑うところがないでしょう。また、駒数はぎりぎりまで数が絞られたものが多く、さっぱりとした印象を受けます。本書の作品をすべて解き終わるころには、歩にはじまり飛車に至るまで、すべての駒の特徴を最大限に引き出せるようになっているのではないでしょうか。

浦野真彦『3手詰ハンドブックⅡ』(浅川書房)

以前「初心者におすすめの棋書5選」という記事では、同著者の『1手詰ハンドブック』(日本将棋連盟)を紹介しました。『1手詰ハンドブック』を卒業した人は、ぜひこの『3手詰ハンドブックⅡ』を読んでみてください(『3手詰ハンドブック』よりもこの『3手詰ハンドブックⅡ』のほうがとっつきやすい問題が多い印象です)。「詰将棋ハンドブック」シリーズの魅力はなんといっても見開き4問、そしてヒントなしという見栄えの良さ。隣接する問題同士が相互に関連しない(類型でない)という設計も、この本の問題集としての機能を高めています。

このシリーズでは1冊につき200の問題が収録されています(『1手詰ハンドブック』のみ300問)。すべての問題にざっと目を通し、解けない問題は答えを見たりしながら慣れてきたら、ストップウォッチで時間を設けて解くようにしてみてください。自信のある人は、1冊通して1時間くらいでいいでしょう。まとまった時間が取れない場合は、100問で30分などでも構いません。理想を言えば、何度も解き返す中で、ぱっと見ですらすらページをめくり、正答率7割程度をクリアできればその本は卒業でしょう。大体見開き4問のうち3問が正答できればいい計算です。それができるようになったら、『3手詰ハンドブック』のほうに進んでください。

また、これもよく聞かれるので記しておきますが、繰り返し説く中で解答を覚えてしまっても一向に構いません。

本間博『妙手に俗手、駒余りもあり! 実戦詰め筋事典』(マイナビ)

詰将棋というと、「攻める方は最短手順で詰ます」「詰めあがりの局面で持ち駒が余らない」などのルールや特色が思い出されます。詰将棋の問題を芸術作品として見る場合にはそうした規則が大切になってくるようです。しかし、実戦の詰みでは持ち駒が余ったり、詰み筋が複数あったりして、いつもの詰将棋って実戦にはあまり役に立たないんじゃないかと思うことがありますよね。そうした疑問に答えるのがこの本です。本書はその名の通り、実戦で出てきがちな詰み筋を186問収録した問題集です。事典と銘打ってあるのは、各章が「一段玉」「端玉」「矢倉系」などと玉の位置や囲いによって分類されていることに由来しています。

問題例を挙げてみましょう。

【第1図】

本書第4章「穴熊系」、第112問より

穴熊が崩れたような玉形。実戦なら▲2四桂と詰めろをかけたり、すこし腕に覚えのある方だと▲2二銀△同角▲2四桂で必死と答えたりできるかもしれません。しかし、詰みがあるときは詰ましてしまいたいもの。▲2二銀△同角に▲1二と△同玉▲3四馬とすれば詰み形が見えてきたでしょう。

【第2図】

以下は2三に何を合駒しても▲2四桂からの並べ詰み。

皆さんは解けましたか?この問題が解けても解けなくても、実戦で詰みを逃して悔しい思いをしたくない方には一読をお勧めしたい一冊となっています。

浦野真彦『詰手筋DVDブック』(ルーク)

ここまでは詰将棋の問題集を紹介してきました。ここからの2冊は詰みに関するカタログ的な本になります。「詰将棋ハンドブックシリーズ」の著者としても再三その名の上がっている浦野八段が、玉を詰ます時に欠かせない駒の活用法を集めて、1冊の詰手筋(つめてすじ)事典に仕上げました。本の構成は「一間龍」「金頭の桂」「送りの手筋」など各項目が事典のように掲載されています。各項目の説明の後には練習問題が4問ついていて、覚えた知識がすぐに復習できる親切な設計になっています。本書の活用法としては、ネット対局や指導対局で相手や指導者に指された詰み筋を復習し、整理するのが吉でしょう。

以前紹介した戸辺誠七段の本(『将棋DVD 攻めて強くなる戸辺流中飛車』)と同じくDVDがついているのも大きな特徴。符号がわかりづらいという方にとってはこのDVDを流しておくだけでも勉強効果があるのではないでしょうか。

北浜健介『将棋・詰みの基本手筋』(マイナビ)

こちらも、従来のただ解くだけの詰将棋問題集とは一線を画した内容です。章の構成は第1章「絶対覚えたい基本手筋20」、第2章「ワンランク上に行くための重要手筋」、第3章「手筋応用編」、第4章「囲い攻略の詰み手筋」、第5章「練習問題」となっています。第1章で覚えた頭金、金頭の桂といった手筋と第2章で紹介される左右挟撃、両王手といったテクニックを第3章で応用するというように、徐々にレベルアップしていく構成なのが本書の魅力です。先述した浦野八段の『詰手筋DVDブック』と重複する内容もありますが、問題のレベルとしては本書のほうが若干の難しさを含んでいるような印象を受けます。あえて差別化を図るなら、第5章で北浜八段自作の問題が載っているのは大きな魅力でしょう。いずれの2冊も非常に魅力的な仕上がりになっていますので、自分に見合ったほうを読みつぶすもよし、両方とも入手するもよしで勉強を頑張ってみましょう。

おわりに

今回は詰将棋に関する棋書を5冊紹介しました。詰将棋は作品として解くのも楽しいですが、分類して知識を整理したり、実戦に生かすことを第一に考えてみたりと、さまざまな楽しみ方ができます。皆さんもぜひここで紹介した本を実際に手に取って上達の一助としてください。蛇足ですが、とりわけ詰将棋の本に関しては、身銭を切って入手するのが上達のためには大事かと思います。

棋書紹介

水留啓

ライター水留啓

ねこまど将棋教室講師。こども教室担当として積んだ指導経験を生かし、大人向け講座「平手初心者のための棒銀/四間飛車/中飛車入門講座」を開講。初心者・初級者を中心に、幅広い層に将棋の楽しさを伝えている。趣味は棋書収集で、最近は自宅の本棚が足りなくなってきているのが悩み。

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