豊島将之棋聖 VS 渡辺明二冠、複数冠保持者同士のタイトル戦!ヒューリック杯棋聖戦五番勝負の展望は?

豊島将之棋聖 VS 渡辺明二冠、複数冠保持者同士のタイトル戦!ヒューリック杯棋聖戦五番勝負の展望は?

ライター: 相崎修司  更新: 2019年06月04日

第90期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負が間もなく開幕する。今期の五番勝負は名人と王位を併せ持つ豊島将之棋聖に、渡辺明二冠(棋王・王将)が挑戦。複数冠保持者同士のタイトル戦は2014年度の第40期棋王戦、渡辺明棋王(王将)―羽生善治名人(王位・王座・棋聖)戦以来、ほぼ4年半ぶりのこととなる。

振り返ってみると、前期の棋聖戦五番勝負で豊島が自身の初タイトルである棋聖を獲得したことで、同時に八大タイトルの保持者が8名に分かれた。タイトルの完全分散は30年ぶりの珍事であり、棋界戦国時代の到来かと言われた。

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第89期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第5局終局後の模様。豊島新棋聖が誕生。豊島自身念願の初タイトルを羽生から奪取した。

だが、豊島はそれまで貯めた力を一気に爆発させるかのように王位戦、そして先日の名人戦七番勝負でも名人を獲得し、1年足らずで無冠から三冠までになった。初タイトル獲得から三冠奪取までの期間は、他の三冠経験者と比較すると圧倒的な速さである。この1年間、最も充実していた棋士といえるだろう。

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第89期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第5局、感想戦後の記者会見の模様。

充実ぶりという意味では渡辺も負けていない。17年度の不振を晴らすかのように、昨年度は勝ちまくった。順位戦はB級1組を12連勝と圧倒してA級復帰、年度末には王将奪取と棋王防衛で1年2ヵ月ぶりに二冠復帰。また15連勝で昨年度の連勝賞も受賞している。18年度の通算成績は40勝10敗の勝率8割だが、タイトル保持者(=相手も強敵ぞろいという推測が成り立つ)の年度勝率8割達成は、95年度の羽生七冠以来、今回の渡辺まで現れなかった。

前年度の将棋大賞で、豊島が最優秀棋士賞、渡辺がそれに次ぐ形で優秀棋士賞を受賞しているのも(最優秀棋士賞の投票結果は豊島7、渡辺6の僅差だった)、当然というべきか。そして両者の18年度末の対局が、竜王戦での直接対決(渡辺勝ち)となったのも、話としては出来過ぎている。

両者の対戦成績は豊島の5勝12敗とやや開いている。直近でも上記の竜王戦を含め渡辺が3連勝中だ。ただ、直近の3局はいずれも渡辺の先手番だった。その一つ前の勝負は先手を引いた豊島が勝っている。最近のタイトル戦における傾向ともいえるが、それぞれが後手番でどのような作戦を用意するかということが注目される。

作戦についてもう一つ。両者ともに角換わりを主力にして白星を積み重ねているが、直近の対決となった年度末の竜王戦では先手番の渡辺が相掛かりに誘導した。渡辺が先手相掛かりを採用するのは極めて珍しく、公式戦では50局足らずしかない(先手角換わりは200局を超える)。

渡辺は意表の相掛かり採用について「過密スケジュールが続いていたので勉強時間が十分に取れなかった、付け焼刃の研究では豊島さんにはかなわない」と読売新聞紙上の観戦記で明かしている。特に角換わりは序中盤の研究が勝敗に直結しやすい戦法とされている。また当時の豊島は1ヵ月近く公式戦を指しておらず、相掛かりの力戦にしたほうが実戦不足の影響が出やすいと判断したのも、理由の一つである。

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第90期ヒューリック杯棋聖戦挑戦者決定戦終局後の渡辺二冠。郷田真隆九段を下し、挑戦者となった。

このような状況から番勝負の行方をどのように推察するか。今期の両者はここまで豊島が7勝0敗、渡辺が6勝0敗(未放映のテレビ棋戦を含まず)という好調ぶりで、また両者ともに5月29日にも公式戦を指しているので、実戦不足の心配はない。

そしてスケジュールについては、名人奪取による取材も重なったことを推測すると、ここ最近の豊島はなかなか大変だったのではないかと思う。

対して渡辺は自身のブログ(19年5月8日付)にて

今月号の「将棋世界」(筆者注・19年6月号)にタイトルを増やしていくことの難しさをスケジュールの点で(防衛戦をやりながら勝ち抜くのは大変)話したんですが、2013年にも王将戦、棋王戦とタイトル戦をやって4月に棋聖戦の挑戦者になったことがありました。その時は5~6月が1勝6敗だったんですが、タイトル戦の最中は状態が良く、4月はそのお釣りが残っていて、5月は燃料切れということだったと思うので、同じ轍は踏まないようしたいです。

と語っている。経験の差を考慮すると、スケジュール対策では挑戦者に一日の長がありそうだが、どうか。

6月4日に行われる第1局が角換わりとなれば、両者ともに入念な研究を用意してきたと推測できるし、また力戦形となれば、お互いの個性をもろに見られるであろう一局になるともいえる。

棋界の頂上決戦ともいえるシリーズを、存分に堪能していただければと思う。

撮影:常盤秀樹

相崎修司

ライター相崎修司

2000年から将棋専門誌・近代将棋の編集業務に従事、07年に独立しフリーライターとなる。2024年現在は竜王戦、王位戦・女流王位戦、棋王戦、女流名人戦で観戦記を執筆。将棋世界などにも寄稿。

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