藤井九段と里見女流四冠が語る大山康晴十五世名人の将棋。「大山康晴全集」発売記念イベントレポート

藤井九段と里見女流四冠が語る大山康晴十五世名人の将棋。「大山康晴全集」発売記念イベントレポート

ライター: 渡部壮大  更新: 2019年05月17日

昭和の大棋士である大山康晴十五世名人のすべてが詰まった「大山康晴全集」。伝説の大著がこの度復刊され、それを記念して平成31年4月28日に東京都千代田区「パレスサイドビル」にて大山康晴全集発売記念イベントが開催された。このイベントには大山康晴全集の購入者のほか、マイナビ将棋情報局ゴールドメンバー加入者も参加でき、総勢100名以上の申込があった。

大山将棋について語るのは藤井猛九段里見香奈女流四冠と、振り飛車党トップ棋士の二人。両名とも大山将棋を数多く並べて勉強したと言う。ただ、意外なことに藤井九段は奨励会の修行時代は大山将棋に興味があったわけではなかったそうだ。プロ入り後に大山全集が発売されたが、買うこともなかった。そんな時に丸山忠久九段に「何で買わないの?」と薦められたのがきっかけ。「それがなかったら今の僕はないかも。丸山さんには感謝です」と藤井九段。

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藤井猛九段

里見女流四冠は地方出身のため、勉強法として棋譜並べを多く行った。大山全集は持っていなかったが、父親が棋譜を用意し、並べていたそうだ。

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里見香奈女流四冠

大山全集について藤井九段は「私は2回並べたことになってるらしいのですが、実は1巻は矢倉が多いこともあって並べてないんですよ(笑)」。そして「50代になってから穴熊相手に圧勝することが多く強すぎる」とも。

藤井九段が選んだ大山将棋は平成2年1月10日に行われた第48期A級順位戦の高橋道雄八段(当時)戦。藤井九段が大山十五世名人の記録を取ったのはこの一局だけ。「当時の高橋先生は勢いがすごく、他棋戦では大山先生によく勝っていたので、今日も勝つんだろうなと思って記録を取りました」

戦型は大山十五世名人の中飛車に高橋八段の居飛車穴熊。当時は四間飛車や三間飛車は穴熊にも対応策があったが、中飛車は厳しいと見られていた時代。「居飛車穴熊対策を楽しみにしていたが、何の工夫もない中飛車。居飛車穴熊を目指して早くも高橋圧勝だと思いましたね(笑)」

しかし位を多く取り、難しい中盤の応酬が続く。居飛車は四枚穴熊+桂得だが、さばきを封じて位の圧力で盤面を制圧しにいき、いつの間にか大山ペースに。

【図は▲3五角まで】

本局で藤井九段が最も印象的だったと話すのが図の局面。「誰がどう見ても△1九角成だと思うじゃないですか。でもここで△3七角成が押さえこみの達人です。香を取って攻めに使うよりも、5六の飛車を封じ込めるのが大切と見たんです。この手を指せる人はそうはいない」

当時大山十五世名人は67歳。恐るべき強さだ。他に藤井九段、里見女流四冠が1局ずつ選び、計3局が解説された。

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藤井九段・里見女流四冠による解説が行われた

その後は参加者の質問を受けてのトークタイム。里見女流四冠は藤井九段が竜王時代に出雲に来た際、パーティーに参加していたと言う。歓談タイムぎりぎりで藤井竜王に「どうしたら強くなれますか?」と聞いたら「大駒1枚強い人と指すといいよ」と答えてもらったそうだ。里見女流四冠がその話をすると藤井九段は「え?あの会場にいたの?」とすっかり忘れていた様子で、笑いが起こった。

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会場からの質問に答える藤井猛九段

最後に「現代に生きる大山振り飛車」をお持ちの方へ藤井九段のサイン会が行われ、イベントは盛況のまま幕を閉じた。

藤井九段も「若干高いが、それ以上の価値はある。並べれば間違いなく強くなる」と太鼓判を押す大山康晴全集。強くなりたい方、昭和の将棋を知りたい方は必携だ。

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本にサインをする藤井猛九段

撮影:渡部壮大

詳細はこちら

詳細は『大山康晴全集 プレミアムブックス版』(マイナビ出版)をご覧ください。

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渡部壮大

ライター渡部壮大

高校生でネット将棋にハマって以来、趣味も仕事も将棋な人。
将棋の月刊誌、週刊紙、書籍などの編集部に在籍経験あり。
アマチュア大会の最高成績は全国ベスト16だが、もう少し上に行けないかと日々努力中。

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