佐藤天彦名人VS豊島将之二冠、名人戦七番勝負を振り返る

佐藤天彦名人VS豊島将之二冠、名人戦七番勝負を振り返る

ライター: 渡部壮大  更新: 2019年05月21日

佐藤天彦名人豊島将之二冠が挑戦した第77期名人戦。佐藤は名人奪取から現在3連覇中で、今期防衛を果たせば永世名人が見えてくる。豊島はこの一年で一気に二冠に躍り出て、さらに名人を獲得すれば第一人者と言って良いだろう。両者はタイトル戦では初の顔合わせだが、2011年に第42期新人王戦決勝三番勝負で対戦し、佐藤が2勝1敗で制している。

名人戦七番勝負第1局

毎年恒例となっている東京都文京区「ホテル椿山荘東京」で開幕。佐藤が先手で角換わり腰掛け銀となったが、一日目の夕方に千日手が成立。規定の時刻を過ぎていたため、初日は終了し、2日目を使っての一日制で行われることとなった。封じ手もなく、異例のことだ。指し直し局は横歩取りに。

【第1図は△2六歩まで】

図は△2六歩と垂らしたところ。△2七歩成~△3七とが間に合えば良いが、この瞬間は何でもない。先手はラッシュを掛けるチャンスだ。

実戦は▲6五桂△6四角▲3五角△同竜▲同歩△4四歩▲2四飛でうまく手を作った。▲6五桂から5三の地点に狙いを定め、後手はそれをしのぎに掛かったが、最後の▲2四飛で2筋に歩が利かないのが痛い。後手としては▲3五角に△2七歩成として勝負するべきで、それなら難しかった。以下は押し切って豊島が先勝。

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名人戦棋譜速報より

名人戦七番勝負第2局

第2局は山口県萩市「松陰神社 立志殿」にて開催。千日手の規定により、第2局も豊島が先手。角換わり腰掛け銀から難解な戦いとなった。

【第2図は△8六桂まで】

図では▲8二歩と叩く手も見えるが、実戦は堂々と▲9三歩成でと金を作った。以下△9八歩▲同香△8六桂に▲8三歩と二枚目のと金を製造しに掛かる。攻めを厚くしながら飛車を押さえこんで先手玉が安全になり、豊島がはっきりと優位に立った。以下は後手の反撃を見切り、しっかりと一手勝ちを収めて2連勝。

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名人戦棋譜速報より

名人戦七番勝負第3局

第3局は岡山県倉敷市「倉敷芸文館」にて開催。またも角換わり腰掛け銀となり、後手の豊島が優位に立つ。しかし佐藤も強烈な追い込みを見せて、形勢は混沌。残り時間も少なくなり、際どい終盤戦となった。

【第3図は△6七銀まで】

実戦はここで▲8五桂と跳ねたが、△4八飛成とされて困った。▲4八同銀は△6八銀成から簡単に詰んでしまう。本譜は▲7三桂右成△9二玉▲7四角成と王手をしたものの、△8一玉とされて先手投了。以下▲6三馬と王手をしても△9二玉▲7四馬△8一玉......の連続王手の千日手は反則負けだ。図では▲3四角成と取るべきだった。駒を補充しながら6七に利かす攻防手だ。それでも難解な終盤戦だが、本譜ははっきり負けだったので、先手はそちらを選ぶしかなかった。佐藤にとっては痛恨の錯覚となった。

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名人戦棋譜速報より

名人戦七番勝負第4局

第4局は福岡県飯塚市「麻生大浦荘」にて開催。戦型はシリーズ4度目の角換わり。先手の豊島が自陣角からうまく局面を打開した。

【第4図は△6五同桂まで】

駒割りは飛車と金銀桂の交換で後手が駒得しているが、4四歩の拠点があることと、駒の働きに差があり形勢は先手良し。ここで▲8八玉が落ち着いた一手で、飛車を渡す攻めもやりやすくなった。また、先手は9筋が広いため、端の位に近付く非常に価値の高い手だ。実戦は△7五歩と確実な攻めをしたが、▲3三歩が手筋の反撃。歩の叩きを入れることにより、後の飛車打ちがより厳しくなっている。以下も手堅い指し回しを見せて豊島快勝。4連勝で初の名人獲得。

意外にも一方的な結末となった今期名人戦。豊島は王位、棋聖と合わせて三冠、佐藤は無冠に転落と明暗を分けることとなった。

初防衛戦となる棋聖戦では渡辺明二冠を挑戦者に迎える。豊島時代を築けるか、重要なシリーズとなりそうだ。

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四連覇とならなかった佐藤天彦九段 名人戦棋譜速報より

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三冠を達成した豊島将之新名人 名人戦棋譜速報より

注目対局プレイバック

渡部壮大

ライター渡部壮大

高校生でネット将棋にハマって以来、趣味も仕事も将棋な人。
将棋の月刊誌、週刊紙、書籍などの編集部に在籍経験あり。
アマチュア大会の最高成績は全国ベスト16だが、もう少し上に行けないかと日々努力中。

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