叡王戦七番勝負開幕企画 師弟Vol.3 石田和雄九段×高見泰地叡王 ~将棋世界2019年6月号より

叡王戦七番勝負開幕企画 師弟Vol.3 石田和雄九段×高見泰地叡王 ~将棋世界2019年6月号より

ライター: 将棋情報局(マイナビ出版)  更新: 2019年05月02日

カメラマン野澤亘伸氏による、将棋世界2019年6月号(5月2日発売)に掲載の【叡王戦七番勝負開幕企画 師弟Vol.3 石田和雄九段×高見泰地叡王 悩めるシンデレラボーイが歩んだ1年】は、14ページにわたり、高見叡王の入門以前から奨励会時代、そしてタイトルを獲得てからの一年まで、高見叡王と師匠、石田九段の心境がつぶさに描かれた力作となっています。

本ページではその冒頭部分「スーパースターの現実」「最強の挑戦者」をご紹介。突然ビッグタイトルを手にした時、また初防衛戦の相手が永瀬拓矢七段に決まった時の高見叡王の心境は?

それではお楽しみください。

師弟Vol.3 石田和雄九段×高見泰地叡王

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高見泰地叡王の防衛戦が開幕した。相手は全身「努力」の人・永瀬拓矢七段。二人は小学生時代から気心の知れたライバルであり、いまも研究仲間である。高見は昨年、8つ目のタイトル戦として昇格した第3期叡王戦(主催・ドワンゴ)で決勝七番勝負に勝ち進み、初代タイトルホルダーとなる幸運を手にした。ただ、将来の夢であったタイトルを突然手にしたことは、喜びとともに戸惑いも大きかった。両肩にのしかかったタイトルの重みと責任。高見にとってこの1年とは――。

スーパースターの現実

袴の結びが思うようにいかない。何度も解いては締め直す。盤上をにらむような眼が鏡に映る――。

高見泰地叡王にとって、挑戦者に永瀬拓矢七段を迎える初防衛戦が間近に迫っていた。「去年は、着付けをお願いしていました。でも今年は自分でできるようにならないと」。3月下旬、高見は東京練馬区の白瀧呉服店を訪れていた。嘉永6年(1853年)から続く都内最大級の老舗である。将棋界でも佐藤天彦名人や渡辺明二冠など愛用者が多い。着付けの練習に、高見が白瀧を訪れるのは3度目である。指導は2時間に及ぶ。昨年は叡王戦のために着物を4着、今年は2着を新調した。タイトルホルダーとしての矜持。棋士は盤上だけを見られるわけではない。

1年前、高見は24歳で叡王を獲得した。順位戦C級2組の棋士がタイトルを獲得したのは、郷田真隆四段(当時)以来26年ぶりのことだった。

「憧れだったものになっても、いきなり自分が格好いいスーパースターになれるわけじゃない」

特別対局室で、上座に座ることをためらった。初めて駒を持つことが怖いと感じた。立場を意識すると軽快な言葉が出なくなり、イベントや解説でのトークが「つまらなくなった」と言われた。

「背伸びして無理をしたところはある。でも叡王戦が自分の人生を大きく変えてくれました。負けると風当たりもきついけど、こんなに応援してもらえたことはなかった」

イベントや取材のオファーが格段に増えた。高見はこの1年、それらの依頼に可能な限り応えてきた。

「1人でも2人でも、誰かの人生に将棋というものが生まれるなら全力でやりたい」

しかし、普及への熱意が研究時間を割いたのも事実だ。タイトル獲得直後に1ヵ月間のスケジュールがすべて埋まった。対局日の前後にも仕事が入った。夏から秋にかけて3連敗を2度喫する。

「引き籠って、将棋だけをやりたい心境にもなりました。人間はゲームのように、いきなりレベルが上がるわけじゃない。理想と現実のギャップで、もがいてました」

高見は、森内俊之九段の主催する研究会に参加していた。森内は高見がタイトルを獲った後に「これから僕はどうしていけばいいのでしょうか」と相談を受けた。森内自身、30歳で初めて名人を獲ったときに同じ境遇を体験している。

「それまで大勢の棋士の中の一人だったのが、ビックタイトルを背負う存在になれば戸惑いもあるでしょう。地位に相応しい振る舞いが求められますから。でも高見君は人の気持ちが分かるし、配慮や考え方もしっかりしている。いままで通りで大丈夫だと伝えました」

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高見泰地叡王

最強の挑戦者

高見が本来の調子を取り戻してきたのは、昨年末頃からだ。タイトル保持者としての責任や普及でも全力で頑張り通せた自信が、気持ちを吹っ切る要因になったという。防衛戦に向かう心境を聞いた。

「奨励会のときに、先にプロに上がった永瀬さんに随分鍛えてもらった。これまでも数えきれないほど練習対局を重ねてきた。倒しにくい将棋です。正念場ですね、どんな相手よりも嫌かもしれない」

1歳上の永瀬とは、同じ神奈川県で小学生の頃から大会で当たってきた。「永瀬さんがネガティブなことを言ったのを聞いたことがない。練習で不安を打ち消しているのか。人間だからいい時も悪い時もあるはずなんだけど......」

高見は防衛戦を前にして、不安な胸中を覗かせていた。周囲からは永瀬有利の声が聞こえてくる。

「自分はここで何もなくなって、消えてっちゃうのかな、どうなんだろう。1年間頑張って、たくさんの人に応援してもらって、いろんなものを抱えてきました。それでも結果はスコアしか残らない。ここで簡単に負けるわけにはいかない。周りが思っているよりも、自分はできると常に信じている」

話を聞きながら、高見の目が鋭く変容する瞬間が何度もあった。柔和な人柄の真逆に、勝負師として勝利への強い執着を持つ。昨年の叡王戦本戦で破竹の勢いで勝ち進む中、体重は5キロ落ちた。勝ちたいという意識が、極度の緊張感から精神を解放させない。体が食事を受けつけなくなった。母が夕食に用意してくれた好物の刺身も、箸をつけようとすると「うっ」となってしまう。食べずに席を立つと、母は黙って皿を下げてくれた。

おわりに

エッセーはここから、高見叡王の入門からプロ入り、叡王を獲得するまでの本人と石田九段の心の動きや、親友・八代弥七段、三枚堂達也六段とのつながり、高見叡王まさかの永瀬七段の実家・ラーメン店訪問、同門のライバル佐々木勇気七段を思いやり、弟子の防衛を願う石田九段の心の内へと続きます。

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師匠・石田和雄九段

全文は将棋世界2019年6月号でお読みいただけます。


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将棋世界2019年6月号

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