ライター渡部壮大
将棋の月刊誌、週刊紙、書籍などの編集部に在籍経験あり。
アマチュア大会の最高成績は全国ベスト16だが、もう少し上に行けないかと日々努力中。
ライター: 渡部壮大 更新: 2019年05月22日
叡王戦は4連勝で決着し、新タイトルホルダーが誕生しました。名人戦でも挑戦者が強さを見せていますが、タイトルホルダーの交代が続くのでしょうか。今回も格言とともに注目局を振り返っていきます。
【第1図は▲5五香まで】
第1図は第4期叡王戦七番勝負第4局(▲高見泰地叡王△永瀬拓矢七段)。後手は持駒が豊富なので、正しく寄せれば勝ちきれそうな局面です。ここで△8四桂が「桂は控えて打て」の好手。次の△7六桂が厳しく、後手の寄せが筋に入りました。永瀬七段は4連勝で叡王奪取。初のタイトル獲得になりました。
インタビューに答える永瀬拓矢新叡王 叡王戦中継ブログより
【第2図は△3四銀引まで】
第2図は叡王戦の第3局(▲永瀬七段△高見叡王)。▲4五桂のように攻めたいところですが、永瀬七段はじっと▲1五歩と取りました。通常は序盤の端歩突きで使われる「端歩は心の余裕」ですが、難しい中盤戦でこの手を指せるのが永瀬七段の落ち着きです。この後▲1四歩と伸ばす手を間に合わせ、攻めに厚みを加えることに成功しました。
敗れた高見泰地叡王 叡王戦中継ブログより
落ち着いて勝利を引き寄せた永瀬拓矢七段 叡王戦中継ブログより
【第3図は△3一飛まで】
第3図は第77期名人戦七番勝負第3局(▲佐藤天彦名人△豊島将之二冠)。激戦の終盤戦で、先手が猛追を掛けています。ここで▲7六歩が「敵の打ちたいところに打て」の攻防手。逆に△7六歩や△7六角を許してしまうと、後手玉を捕まえるのが難しくなってしまいます。以下も際どい終盤戦が続きましたが、最後に佐藤名人に錯覚が出て豊島二冠の勝ちに終わりました。これで挑戦者が3連勝で、棋聖、王位に続く三冠まであと1勝としました。
名人戦棋譜速報より
【第4図は▲8六飛まで】
第4図は第12期マイナビ女子オープン五番勝負第3局(▲西山朋佳女王△里見香奈女流四冠)。相振り飛車から後手に形勢が傾きました。図で△8二桂が「桂は控えて打て」の好手。敵玉を狙う控え桂はよく出ますが、時陣形はかなり珍しいと言えます。次に△6六歩と取ってからの△7四桂が厳しく、拠点を払えば後手は怖いところがありません。2連敗と苦しい里見女流四冠でしたが、1勝を返しました。女流全冠制覇に望みをつなぎます。
西山朋佳女王 マイナビ女子オープン中継ブログより
里見香奈女流四冠 マイナビ女子オープン中継ブログより
【第5図は△9三玉まで】
第5図は第30期女流王位戦五番勝負第2局(▲渡部愛女流王位△里見香奈女流四冠)。先手優勢の終盤戦ですが、まだ後手玉を寄せるのは大変そうな局面です。しかし、後手陣には弱点がありました。図で▲1一とが大きな補充。△6三香の反撃に▲9八飛△9七銀▲9六香△9五桂▲8五金でたちまち後手玉を受けなしに追い込みました。「歩切れの香は角以上」とも言いますが、後手陣には9一歩が残っているため、9筋に歩を使えないのが痛いのです。渡部女流王位が1勝を返し、シリーズは1勝1敗のタイになりました。
ライター渡部壮大
監修高崎一生七段